第44話 期末テスト

 いよいよ今日は期末テストだ。

 僕は願掛けのお守りを握りしめ、テストに挑む。


「おーい。生きているかー?」

 間の抜けた声を上げる英美里。

「うん。英語、ワカラナカッタ」

「なんで片言なのよ。英語は発音すれば分かるって」

「そんなの嘘だ。あんなに難しい言語ないよ」

「日本語の方が難しいって」

 苦笑を浮かべる英美里。

「ああ。早く帰りたい」

「次のテストの勉強しなくて、大丈夫?」

「うん。する」

 素直に僕は教科書とノートに目を光らせる。

「パンクしないでよ」

「うん。大丈夫」

 唸りながらも言葉を一つでも覚える。

 これだから歴史は。


 他の日でもある期末テスト全部が終わり僕はぼーっとした頭で、窓の外に浮かぶ白い雲をみやる。

「あれ。テストが終わったら魂抜けちゃった?」

 英美里は苦笑と困惑の間の色を浮かべている。

「うん。だってもう終わりだよ……」

「大丈夫。頑張ったじゃない」

「でも赤点とったら補習だって。そしたらせっかくの夏休み、みんなで遊べない」

「そんなことを気にしていたのか? 邦彦」

「亘先輩……」

「大丈夫だ。俺たちはまだまだ会える。気にするな」

「このあと、食べにいこ? おごるから」

 シュリさんがにこりと笑む。

「本当!?」

 僕よりも英美里が先に食いつく。

「いこ。邦彦くん」

「……うん。分かった」

 断る選択肢もあったけど、みんな嬉しそうにしている。

 空気を読んだって奴かな。今はよく分からないけど。


 歩き出すとちょっと身体が軽くなった気がする。

 やり遂げた感はあるんだよね。

「今から結果を気にしてもしょうがない。切り替えていこう」

 亘さんはそう言って僕の肩を揉む。

「そうですね」

「まだ敬語なんだな」

「あ。いや……」

「もうからかわないの。邦彦君は真面目なんだから」

 シュリさんは僕を抱えて守るようにする。

 ちょっとドキドキする。

 シュリさん、少し優しくなった気がする。

 いやもともと優しい人なのだろう。

 情が移ったのかもしれない。

「もう邦彦くんもデレデレしているじゃない」

 英美里が唇を尖らせて、不満そうに呟く。

「いや、デレデレしているわけじゃなくて」

「そうかな?」

 なんだか亘さんも少し不機嫌だぞ。

「いや、本当に」

「そんなに嫌わなくてもいいじゃない」

「シュリさんまで!」

「ふふ。いい顔になってきたわね」

「~~」

 言葉を失う僕。

 ああ。そっか。

 シュリさんは僕を心配していたからこそ、そんな行動に出たんだ。

 ちょっとときめいちゃったよ。

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