第43話 幸せな日
お昼休みになり、みんなで集まる。
「そうだ。婆ちゃんに言われて、邦彦の分のお弁当を持ってきたんだ。食べないか?」
「え。いいんですか!?」
「いいなー」
僕は驚き、英美里はうらやましがる。
「さすがに英美里の分はないかな」
困ったように頬を掻く亘さん。
「まあ、わたしもママのお弁当あるものね……」
自分を納得させているように見えた。
それだけ蚊上家おばあちゃんの料理は美味しいのだ。
しかたない。
「じゃあ、頂きます」
僕は遠慮せずに弁当を受け取る。
「しかし、元気になってきたね」
シュリさんが柔らかな笑みを浮かべて、こちらを見やる。
その顔はまるで母のよう。
「うん。心配かけたよね」
みんな僕を見やる。
「でも、もう大丈夫。みんながいるから」
僕は、亘さん、英美里、シュリさんを見て苦笑を浮かべる。
「僕は幸せ者だ」
そっか。好きって人でもいいんだ。
みんなが好きだから、僕は幸せなんだ。
幸せを噛みしめながらお弁当の卵焼きを食べる。
「ん。おいしい」
これは幸せの味だ。
もうお腹いっぱいになりそう。
と思いつつも、次々と頬張る。
「邦彦、そんなに慌てなくても、誰もとらないって」
亘さんが苦笑しながら言う。
つーっと頬を伝う涙。
「お、おい」
僕はお弁当を机にのせると、ハンカチで拭う。
「なんだろう。幸せすぎて涙出てきた」
苦笑していた亘さんが真剣な顔になり、僕を抱き寄せる。
「もう大丈夫だ。大丈夫だから。もう一人で抱え込むな」
そう言って亘さんの熱を感じる。
暖かく優しい熱。
そしてとくんとくんと流れる心臓の音。
少し高鳴っているような気がした。
僕と一緒なのかもしれない。
「もう。見せつけちゃって……」
シュリさんが困ったように眉根を寄せている。
「……ふたりとも、もしかして……」
訝しげな視線を向けてくる英美里。
ああ。幸せだな。
みんなに囲まれて。
今は憧れの亘さんに触れあっている。
「落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます」
「……その敬語はなしでいいぞ」
「え。でも……」
「俺たちは親友だからな」
親友。
恋人とは違うよね。
だよね。
知っていた。
亘さんが少し曇った顔をする。
「あ、いや、親友です」
「敬語だぞ」
亘さんとシュリさんがクツクツと笑う。
ああ。なんだか楽しい空間だな。
僕はやっと幸せを知った気がする。
苛烈ないじめから解放されたけど、まだ心の傷が完全に癒えた訳じゃない。
今もフラッシュバックすることもある。
でも……。
英美里が悲しそうな顔をしているのには最後まで気がつかなかった。
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