第38話 勉強会

 下校時間になり、僕と英美里は下駄箱に向かう。

 そこで亘さんとシュリさんと待ち合わせだ。

「でも先輩と勉強会っておかしくない?」

 僕は今更気になったことを言う。

「大丈夫。わたし頭いいから」

「……ふーん」

 ジト目を向ける僕。

「いや、本当だって!」

「まあ、いいけど」

 自信があるなら頼ってみよう。

「でも、本当に変わったよね」

「え」

「だって邦彦くんって女子、避けていたじゃない」

「……まあ」

「理由は分からないけど、でもそれっていいことだと思うな」

 正確には女子を気にしなくなったことかな。

 だって今は亘さんがいるから。

 僕は一人じゃないから。

「お待たせ」

 とくんと高鳴る。

「亘さん」

「あら。私は目に入らないのかしら?」

 くすくすと笑うシュリさん。

「みたいだな」

 微笑む亘さんの綺麗な顔。

「さあ、帰りましょう。先輩方」

 英美里はそう言い前を歩き出す。

「ああ。そうだな」

「じゃあ、場所はやっぱりヴァンパイヤで」

「そうだね。夕食も食べたいし」

「迷惑じゃないかな?」

「大丈夫大丈夫。お婆ちゃん、優しいから」

 うん。そうだね。

 あのおばあちゃんは優しいもの。


 定食屋につき、僕たちは二階の居住スペース。その部屋に集まる。

 亘さんの部屋。

 僕は本棚や時計、机などを見渡す。

「あっ。ぬいぐるみ」

「おい。恥ずかしいからあまり見ないでくれ」

 亘さんは少し頬を染めて、ぬいぐるみを布団の中に隠す。

「あの子はメイ。亘の古くからの付き合いよ」

「へぇ~」

 シュリさん、ナイス。

 良い情報をもらった。

「だから、やめてくれって。俺にとっては守り神みたいなものさ」

 こそばゆいのか、頬を掻く亘さん。

 いじられるのを拒否している。

 少しやりすぎたと思う。

「じゃあ、勉強会始めようか?」

 僕は切り返すためにそう告げる。

「そうね。早く動画も撮りたいですし」

 英美里は意外と単純だね。

「もう。分かったわよ。さ、亘」

「おう」

 床にあるクッションに座り、机を囲む。

「それで、亘はやっぱり数学?」

「ああ。計算は得意じゃない」

「ふーん。私なら分かるけど?」

 シュリさんが亘さんにくっつき、アドバイスを始める。

 胸が当たっているよ。まるで色仕掛けじゃないか。

 なんだかイライラしてくる。

「邦彦くんは?」

「え?」

 僕は英美里の方を見る。

「わたしも勉強得意なんだ」

「僕は、国語かな? 作者の気持ちになって考える系がダメなんだ」

「なるほどね。じゃあ、例題を持ってきて答えてみてよ」

 そこから小一時間ほど、勉強は進んだ。

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