第36話 side蚊上亘
「ねぇ。亘」
「なんだ? シュリ」
「あんた。邦彦君の血、吸ったでしょ?」
「……バレていたか」
一拍おいて答える俺。
「分かるのよ。乙女の勘って奴よ」
「まあ、本家からしてみれば、求婚の合図だものな」
「そんなに彼が気に入ったのなら、一緒にいればいいじゃない」
シュリは鬱陶しそうに俺に手を振る。
「でもあいつはもっと良い相手がいると思うんだ。それこそ英美里のような……」
「英美里ね。あいつはダメよ。男を自分のアクセサリー程度に考えているわ」
「そんな訳ないだろ。お前は昔から疑り深いな」
「そう? あながち間違いでもないと思うけど?」
その自信はどこからくるんだ。
「そうだとしても。あいつはきっと異性が好きだ。それは変わらない」
「……本当なにも分かっていないのだから」
「どういう意味だ?」
俺は訝しげな視線をシュリに向ける。
盛大なため息を吐くシュリ。
「あのね。あの子は今必至で悩んでいる。それが分からない?」
「悩んでいたな。でも、俺には教えてくれないから」
「その意味分かる?」
「……」
押し黙ることしかできない俺。
「まあ、いいわ。私にもチャンスがあるわけだし」
「チャンス?」
「あんた、ホント何も分かっていないわね。これだから幼馴染みは……」
渋面を浮かべるシュリ。
「俺にどうしろと……」
ぐったりと疲れた感じがする。
俺ってそんなに分かっていないのか。
でも邦彦は俺のことを避けている節があるんだよな。
まるで俺と一緒にいることが間違っているかのような……。
それもあるし、吸血衝動に駆られ俺はあいつに吸血した。
想像上の物語では、吸血された側も吸血鬼になる――なんてものもあるが、そこまで力があるわけじゃない。単純に渇いた喉を潤す酒みたいな感覚だ。
まあ、俺はお酒を飲んだことないが。
未成年だし。
長寿なんて言われているけど、それも嘘。日差しで灰になるのも嘘。
というよりも分家である俺は他の人間の血が色濃くでているのもある。
それは本家であるシュリにも言えたこと。
混血になったことで様々な病原菌からは強くなったが、代わりに吸血鬼としての力も失われつつある。
滅びの一途をたどっている吸血鬼を、俺は救いたいと思う。
まあ、その方法を知らないのだが。
考えていてもしょうがない。
頭をガシガシと掻きながら、授業に集中する。
ああ。また邦彦の血を吸いたいな。
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