第30話 将来
通学路をいつも通り歩いていると、周りの女の子が熱い視線を向けてくる。
あまり嬉しくないな。
僕はもう分かっている。彼が好きだってこと。
そしてそれがどれだけ可笑しいか。
どれほど困難なことか、と。
昔よりもそういった〝好き〟に理解が深まってはいるけど。
将来を考えると、ため息が漏れる。
「そんな暗い顔するなって」
そういって僕の頭に手をのせる亘さん。
「どうした? 悩みがあるなら相談に乗るぞ?」
「い、いえ。大丈夫です」
「そうか。でも抱え込みすぎるなよ」
「どうしたの?」
シュリさんがその赤い瞳をこちらに向けてくる。
「邦彦がため息吐いていたんだ」
「そう。悩みなんて誰でもあるのだから、仕方ないでしょう」
「それが俺にも教えてくれないんだって」
「なら、亘が悩みの種だったり」
「うぐっ……」
シュリさんの言葉が胸に刺さる。
「え。ビンゴ?」
僕はそのまま真っ直ぐに走り出す。
知られるのが怖い。
知ってほしくない。
僕は普通の男子高校生として見てほしい。
でも好きにはなって欲しい。
分からない。
気持ちがぐちゃぐちゃで、亘さんにどう思われたいのか、どうして欲しいのか、分からない。
教室に着くと、誰もいなかった。
トボトボと歩いて自分の席に座る。
と、教室にはいってくる人影が一つ。
「おっ。旅人」
けろっとした様子の英美里。
「その呼び名は止めてくれ」
「ごめんごめん。なんで一人で黄昏れていたのさ?」
「いや、なんでもない」
「ふーん。でも
「えっ」
そんなこと考えたこともなかった。
僕って一人でいるのが好きなのかな。
「今更気がついた、って顔している」
「よしてよ」
「いいじゃない。人それぞれ、わたしはとやかく言う立場じゃないよ」
「そう? 友達なんだし、言えるんじゃない?」
「ほう。友達と認めたね」
「あっ……」
くすくすと笑う英美里。
「ははは。やっと認めてくれたよ。ありがとう」
「……別に」
うつむき顔を合わせることができない。
「いいじゃない。友達でも」
こてりと小首を傾げる僕。
「だって悪いことではないでしょ?」
「あー。まあ……」
歯切れの悪い言い方をするのは僕が過去、友達に酷い目に遭ったから。
そんなことは露も知らず、英美里は話を続ける。
「わたしはもっと多くの人と知り合いたい。仲良くなりたい。動画配信者になったのもそのため。沢田くんのやりたいことはなに?」
渋面を浮かべる僕。
「ホント、なんだろうね?」
むすっとする英美里。
僕が乾いた笑みを浮かべていると、誤魔化しているわけじゃないと伝わったのか、英美里は少し寂しい顔をする。
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