第29話 乾杯!!

「「「「乾杯!!」」」」

 僕たちはコーラやサイダーを片手に音頭をとる。

「いやー。英美里さんの提案には最初、不安だったけど、やってみたら意外と楽しいな!」

「ふふーん。今日も音声とっているので、ネタにしますよ!」

 英美里さん!?

 ぎょっとした顔で英美里を見つめる。

「大丈夫! みんなにチェックしてもらうって!」

「それなら、いいけど……」

「やった!」

「邦彦君、少し甘くない?」

 シュリさんがジト目を向けてくる。

「うーん。そうかな?」

「はい。私は反対」

「でも」

 英美里は小さく呟き、シュリさんの耳元で何やら囁く。

「ほう! 私も賛成よ。今すぐ録音しましょう!」

「もうしていますよ!」

「あなた偉いわね。よくやったわ」


「「なんであの二人、協力的になっているんだ……」」

 僕と亘さんの意見がばっちり重なる。

 本当に何を言われたのか……。

「さ、早く焼きましょう?」

「う、うん」

 まずはカルビ、タン塩を網の上に乗せる。

「邦彦、流されているぞ?」

「あ、うん。そうだね」

「焼く手は止めないんだな」

 亘さんがはーっと小さくため息を吐く。

「分かった。今回だけは許してやろう。ほら、食うぞ」

 亘さんが女子二人を見て今度こそ降参の声を上げる。

「じゃあ、録音バンバン使おう!」

「そう言ってくれると信じてました!」

 なんだろうね。この圧力。


「まずはタン♪」

 嬉しそうにタン塩に箸をのばす英美里。

「で? 二人はどうしてそんなに近いのかな?」

 シュリさんが僕と亘さんを見てつぶやく。

「……え?」

 横を見るとそっとそばにいる亘さん。

「おおっ……!!」

「いや、お前がまた泣くんじゃないかって心配で」

 ワンちゃんみたいな顔で言う亘さん。

「ええっと。お気遣いありがとうございます?」

「なんで疑問系なんだよ」

 このこのっとひじでぐりぐりやってくる亘さん。

「もう。亘さんたら」

「じゃっかん、キモいよ?」

 シュリさんがジト目を向けてくる。

 そう言われるとショックだ。

「いいじゃん。仲良きことはいいことかな」

 英美里がそう呟くが、僕の気分は晴れない。

 僕たち、キモいのかな……。

 せっかく仲良くなれたのに。

 ようやく未来が見えたと思ったのに。

 そのあとも焼肉パーティーは続いた。

 時に華々しく、時に憂鬱に……。


 僕はまだ幸せじゃない。

 まだ終わっていない。


 あの悪夢は。

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