第28話 告白のとき

 僕は亘さんに話してしまっていた。

 全てを。

 過去を。

 僕がいじめられ、脱がされ、酷い目に遭ってきたことを。

 そんな僕が特に女性を嫌いになった理由を。

 綺麗。美人。美男子。

 そんな言葉が嫌いになった本当の訳を。

「俺はお前を見捨てたりしない。大丈夫だ。落ち着け」

 亘さんの腕の中で子どものように泣きじゃくる僕。

 暖かな母のような温もり。

 それが僕の心をどれだけ癒やしてくれるのか。

 どれだけ力を与えてくれるのか、他の人には分からない。

 全てを失い、自害まで考えた僕は今こうして生きている。

 心を壊すのがいじめだ。犯罪だ。

 それを知らずに、若い頃のいたげだと言う社会に。

 辟易としていた。

 蔑んでいた。

 この社会の狂った現実を、誰も認めようとしない。

 見ようとしない。

 なのに何故、みんなこうも生きようとするのか。

 傷つけ合うばかりで何も生みはしない。

 苦しい思いを抱え込み、痛みを我慢して。

 そして僕は生きていくのだと。

 半ば諦めていた。

 諦めていた。

 でも違う。

 彼は……少なくとも彼は、まだ生きようとしている。

 人を癒やしてくれる。

「俺がお前を守る」

 僕は彼の腕の中で泣きじゃくる。

 とうに枯れ果てた涙だと思っていたけど、まだ沸いてくる。

 この涙は以前とは違う。

 優しさと温かさから来る涙だ。

 僕は分かった。

 分かっていた。

 きっとこれが本当の心なのだろう。

 愛なのだろう。

 それが友愛だとしても。

 それでも構わない。

 僕のことを必要だと思ってくれ。

 思いたい。

 僕に彼が必要だと思うように。

 彼も僕を必要だと思って欲しい。

「亘さん……。僕って必要ですか?」

 絞り出すようにかすれた声を上げる。

 その言葉は卑しく、汚い。

「ああ。必要だ」

 けれど亘さんはそんなことを微塵みじんも感じさせずにきっぱり言い放つ。

 スカッとするほどの、晴天のような返答に苦笑を浮かべる。

 ああ。僕はやっと理解できた。

 こんな僕でも生きていいんだって、幸せになっていいだって。

 そう世界に証明できた。

 本当に悲しいのは人の心を理解できない弱者たち。

 それが分かった。

 分かってしまった。

 そう思うと、あいつらを憎むこともできない。

 生まれやしがらみから抜け出せない、貧弱で卑しいあいつらを、僕は認めた。

 認めてしまった。

 それと同時に友情を、愛情を知った。認めることができた。

 僕の中で何かが変わり始めている。

 彼の思いが、僕の想いが。

 変化を与えた。

 僕みたいな人でも生きていいんだって、生き続けていいんだって、分からせてくれた。

 僕はもう一人じゃない。

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