第27話 今城(こんじょう)迂留(まがる)

「そうだ。邦彦。焼肉パーティはここでやることになった」

「え?」

「なんだ。もう忘れたのか? あの実況配信。英美里さんが主催の焼肉パーティだ」

 そう言えば、そんな話もあったね。

「僕は遠慮しておくよ」

「なに言ってんだ。一番の功労者だろ? 食っていけって」

「で、でも……」

「なぁに。金はもらっているんだ。遠慮するな」

「うん」

 あまりにも強く言うんで、僕は断れずに頷くしかなかった。

 次の日曜日かー。なんだか憂鬱だな。

 晴れない気持ちのまま、僕は定食屋『ヴァンパイヤ』を後にする。


 帰り道。

 ガラの悪い連中が商店街を闊歩する。

「あん? くにひこじゃん」

 頭の悪そうな声音でこちらを睨めつけてくる男三人。

 今城こんじょうとその子分だ。

「ああん? なんだか気にくわねー顔してんな」

「え。いや……」

 こいつが僕をいじめて楽しんでいた連中だ。

 そんな奴らを前にして萎縮してしまう。

「ははん。金持っているなら出せよ。ほら」

「すみません。お金は出せないです」

「ははは。未だにこいつ同級生に敬語だぜ?」

「そんなにこびへつらうのが好きなら政治家になれっての!」

 ゲラゲラと笑う今城たち。

「一緒にゲーセンでもいかね?」

 今城は僕の肩に手をやり、訊ねてくる。

 断れば何をされるか分かったものではない。

「う、うん……」

 そのまま近くにあるゲーセンにつれていかれる。

「ほら。やっぱりくにひこって女子みたいな顔しているだろ?」

「だったら、やらせてもらおうぜ?」

 ゲラゲラと下品に笑う今城たち。

 まただ。

 僕はまた何もできずに終わるのを待つだけだ。

 暴力では勝てない。

 勝つ気もない。

 もう時間が過ぎてくれるのを待つしかないんだ。

 ああ。誰か助けてよ。

 こいつらをやっつけて。

「やめろ」

 低く唸るような声音が耳朶じだを打つ。

「え?」

 僕が振り返ってみると、そこには亘さんがいた。

「ああん? 誰だよ、てめーは!」

 激高した今城がすぐに手を挙げる。

 が――。

 亘さんの方が早かった。

 拳で今城の頬骨を砕き、次いで隣にいた子分Aを蹴り上げる。

 残された子分Bは震えるばかりで何もしてこない。

「いくぞ。邦彦!」

「う、うん……」

 僕は慌てて亘さんの後を追う。

 悪いことをしていたのは奴らなのに逃げるというのはおかしいけど。

 でも亘さん、手を挙げてしまったからな。

 そんなに許せなかったのかな?

 少し期待している自分がいる。

 それが悔しい。悲しい。

 自分一人では何もできないし、いつも亘さんに守ってもらっている。

 僕はなんて愚かなんだ。

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