第24話 小鳥

 学校に着くと僕は自分の席で後悔していた。

 あれじゃあ、亘さんを避けていると証明したようなものだ。

 僕だって彼と一緒にいたい。

 いたいけど。

 同性だしなー。

 こんなことを思うことじたい気持ち悪いよね……。

 好意を寄せているなんて。

 亘さんにはそんな気持ちなんてないのに。

 僕が勝手に盛り上がって、勝手に避けて。

 本当に自分勝手だ。

 僕には彼を縛る権利はない。

 彼には幸せになって欲しい。

 それこそ、シュリみたいな女の子に好かれて――。

 ずきっと胸が軋む。

 鈍痛がうずき、僕はゆっくりと頭を上げる。

 つーっと涙がこぼれ落ちる。

「あの光のプリンセス様が泣いておられる」

「おう。どうしたのだろう」

「なんと、まあお美しい」

 ああ。なんであんなことしてしまったのだろう。

 彼と近くにいたいのに。

 でも僕はそんな資格なんてないんだろうな……。

 じーっと外をみているとベランダに小鳥が二羽、仲睦まじく傍にいる。

 なんだろう。悲しくなってくる。

 その小鳥も飛び去っていく。

 いつかは別れが訪れる。

 なら、独り身でもいいじゃないか。

 なあに。僕が死んでも誰も悲しまないのだから。

 皮肉めいた言葉を胸中に抱き、僕は次の授業の準備を始める。

 少し遅れて入ってきた英美里が怪訝な顔でこちらを見ているけど。

 気にしたら負けだよね。

 僕は亘さんと釣り合う人間じゃないのだから。

 英美里だって、しゃべらなきゃ可愛い子だし。

 シュリさんは亘さんと仲よさそうだし。


 本当、なんでこうなったのだろう。

「あんた本気で何しているのさ?」

「英美里……」

 英美里が怪訝な顔をしてこちらを見やる。

「あんた、さ。何考えているの?」

「いや、別に」

 はぁ、と小さくため息を吐く英美里。

「本当に誤魔化すの苦手だね。分かるよ、あんなすごく魅力的な人と一緒にいると」

「え。分かるの?」

「あんたも含めて、ね。素敵な人たちだと思うよ。でもだからってあれはないんじゃない」

 英美里は怖いような、上から目線のような、皮肉めいた双眸で睨み付けてくる。

「なんだよ、その顔……」

「あはっ。あんた、涙の跡消せていないわよ?」

「えっ」

 ゴシゴシと目を擦る。

「冗談よ。しかし、ひっかかるとはね」

「騙したな!」

 怒りぎろっとめつける。

「お互い様よ。あんた光のプリンセスってあだ名、似合わないわよ」

「それは……! 分かっているけど」

 僕がつけたあだ名じゃない。

 僕は無力なんだ。

 誰も幸せにできない。

 誰も……。

「また泣いている。本当、あんたなんで強がっているのよ?」

 強がっている? 僕が?

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