第20話 お風呂

 洗面所で衣服を脱ぐと、よこしまな気持ちが沸いてくる。

 ここで亘さんも着替えているんだろうな。

 なんだかワクワクする。

 きぃと音を立てて開くお風呂場のドア。

 僕はシャワーを浴びて、シャンプーで髪を撫でる。

 きぃ。

「えっ!」

 シャワーでシャンプーの泡を洗い流すと、目の前には亘さんが全裸でいる。

「ええっ!?」

 僕は慌てふためく。

「なんだよ。同性なんだし、驚くことないだろ」

「いやいや、驚くって! だって……僕……」

 あなたに恋をしている、なんて言えるわけもない。

「ちょっと狭いか?」

 亘さんは苦笑しながらシャワーを浴びる。

 その横で身体を洗い始める僕。

 とはいえ、恥ずかしい。

「何恥ずかしがっているんだよ。俺たちの仲じゃないか」

 僕たちは同じ湯船に浸かっていた。

 さっきからいうことを聞かない僕のアレ。

「俺、先に上がるわ」

「え。あっ……。うん」

 僕にも少し残念な気持ちがあると分かった。

 こんなよこしまな気持ちで亘さんの隣にいていいのだろうか?

 きぃっと音が鳴る。

「なんで僕……」

 こんなに寂しい気持ちになるんだろう。

 もう嫌だ。

 亘さんは純粋な気持ちで僕と接してくれているというのに。

 ああ。僕は彼を裏切った。裏切っている。

 悶々とした気持ちを抱えつつ、お風呂場から上がる。

 火照った身体を冷やしつつ、バスタオルで身体を拭く。

 このバスタオル少し湿っている。

 きっと亘さんが使った後なのだろう。

 そのタオルに顔を埋める。

「そうだ。沢田」

 ガラッと開く洗面所の扉。

「あー。まだ服着ていなかったか。すまん」

 ガラッと閉める亘さん。

 今の一瞬で、僕は変態認定されたのではないだろうか!?

 バスタオルに顔を埋めるなんて。

 匂いを嗅いでいたなんて!

 ああ。もう死にたい。消えてなくなりたい。

 もぞもぞとしながら、新しい衣服に着替える僕。

 ガラッと扉を開ける。

「今度こそ、大丈夫か?」

 亘さんが廊下で待っていたらしく、ニコッと微笑む。

 微笑みの爆弾だぁ~。

「その俺の服合うかな? って思って……」

「あー。はい。大丈夫です」

「みたいだな」

 苦笑で返す亘さん。

「下着はコンビニで買ってきた」

「ちっ」

「なんで舌打ちしたんだ……?」

「いえ。別に」

 こほんっと咳払いをして亘さんが意を決したように口を開く。

「その……部屋は俺の部屋でいいか? 寝る時の話だ」

「はい! もちろんです!」

 というか、他の選択肢もあったのか。

 危ないところだった。

 ニヤリと口角があがるのを自覚する。

 やっぱり嬉しいんだ。

 亘さんと一緒にいるの。

 ああ。好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る