第17話 ゲーム実況 その三

「それで、なんて呼べばいいのですか?」

わたるでいいよ」

 くすっと笑みを零す蚊上さん、改め亘さん。

「じゃ、じゃあ……亘、さん……」

 名前を呼ぶだけでこんなにドキドキするものなんだね。

「なんでそんなにたどたどしいんだよ」

「いや、だって慣れないですよ」

「これからは慣れてくれ」

「はいはい。こそこそ話は終わり。すぐに実況再開するよ」

 さすが名実況ゲーマー英美里。

 この会話を視聴者に聞かれないようにマイクをオフにしてくれたらしい。

「再開するわよ」

 少し怒った様子を見せる英美里。

 それは亘さん呼びか。あるいはゲームを中断したことか。

 どちらにせよ、僕は嬉しい……!

 あの亘さんを亘さん呼びしても亘さんは怒らない。むしろ亘さんと呼ぶことを喜んでくれる。これは亘さんへの恩返しでもある。

「ぼやぼやしない!」

「あっ。はい」

 僕は慌ててキャラを動かす。

 さっき亘さんから教えてもらったように操作してみる。

「おっ。やるじゃん。旅人」

 英美里はにこりと笑みを浮かべる。

「ははは。こんなんでよければ」

 なるほど。このゲームのクセが分かってきた。

 少し反応が遅いな。

 となれば、僕はそれを補うように予測を立てて行動すればいいのか。

 スティックを倒すタイミングを変えてみる。

「えっ!? 何今の動き!!」

「旅人くん、少しキモいかも」

 シュリさん!?

「お。かましてやれ。旅人!」

 亘さんがそう言うなら。

 僕はさらに予測を立てて動かしてみる。

 なるほど。これは獣の動きのパターンも読むゲームなのだな。

 首が二ミリ傾いた。

 これはチャンス。

「動きが止まるよ。二十秒後に範囲攻撃、くる!」

「おう」

 僕が指示を出すと、亘さんは理解してくれた。

「そんな、まさか」

 英美里は信じずに攻撃を続ける。

 シュリはどっちにしようか、迷っているように見えた。

 僕って信頼ないのかな……。

 ドンッと獣が飛び上がる。

「回避!」

 僕が呼びかける前に亘さんは回避する。

 それにつられてシュリが回避。

「え!?」

 英美里だけが取り残される。

 僕は慌てて攻撃モーションをとり、英美里のキャラを攻撃で吹き飛ばす。

 と、地上に落ちた獣が衝撃波を放つ――範囲攻撃である。

 衝撃波の波は僕のキャラにぶつかり、飛ばされた英美里のキャラはダメージを受けない。

「旅人、あんた……」

 英美里が驚いたような目でこちらを見やる。

「優しいね」

「別に。一番の戦力を守っただけだよ」

 僕はぶっきら棒に言うと、獣から距離をとり、回復薬を使う。

「旅人らしいよ」

 亘さんが苦笑しつつ、僕の頭を撫でてくれる。

 やって良かった!

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