第14話 ブーイングの嵐

 英美里は気にした様子もなく、二人がけの席に座る。

 僕は真っ正面に座るわけだけど……。

「やっぱり一人席にしない?」

「別にいいじゃん。ただのクラスメイトなんでしょ?」

「それは……そうだけど……」

 周囲を見渡すと、暴言の嵐。

 学食の入り口にふと目が止まる。

 あれは蚊上さんとシュリさん。

 こんな姿、見られたくなかった。

 僕は顔を隠すように背ける。

 悪いことをしているつもりはない。

 ないはずなのに、何故か避けてしまう。

 でも周りの罵詈雑言で僕の位置はお見通しらしい。

 真っ直ぐにこちらに向かって歩き出す蚊上さん。

 ドンッと机を叩く音。

 目の前にいた英美里は驚き、僕は冷や汗を掻く。

「俺も……」

 何かを言いかけて言葉に詰まる蚊上さん。

 恐る恐るそんな横顔を見つめる。

「俺も同席していいか?」

「「えっ!?」」

 英美里と僕は目を丸くする。

 氷の王子様と呼ばれていた彼が人と接するのだ。

 そして後ろにいたシュリも困ったようにため息を吐く。

「あ、はい」

 なんとか絞り出した声は意外と響いた。


 僕は野菜定食にかじりつき、さっさとこの気まずい空気から逃げ出したかった。

 なんだか英美里と蚊上さんが見つめ合っているのだけど。

 その視線のぶつかり合いが、バチバチと爆ぜているように感じるのは僕だけだろうか? いやシュリさんも同じものが見えているらしい。

「やめなよ。後輩相手に」

「なにを?」

「そう言えば、本家と分家の話を聞いたときから仲悪いと想っていのですが?」

 僕はシュリに冷たい目線を向ける。

「ああ。まあ……腐れ縁ではあるからね。まあ、こいつがさっさとリタイアしてくれれば私としても問題ないけど」

 ジト目を蚊上さんに向けるシュリ。

 その空気を感じ取ったのか、英美里はそっと身を引く。

「ん。ああ。俺はいつか蚊上家を立て直すんだ」

 さらっと事もなげに言う蚊上さん。

「どうやってよ? 純血な吸血鬼はもうこの日本にはいない。外のつながりもない。私たちの世代で終わりよ」

「……そうかな」

 クスッと含み笑いを浮かべる蚊上さん。

 どういう意味だろう。

 でもこのままじゃ吸血鬼がいなくなるのは分かった。

「ねぇ。なんの話?」

 英美里だけが置いてけぼりにされていた。

「あー。ゲームの話だよ。ほら、吸血鬼って血を吸うやつ」

「なるほど。氷の――蚊上先輩たちもけっこうゲームするんですか?」

 ちらりとこちらを見る蚊上さん。

《余計なことを言ったな》

《すみません》

 目配せをすると、蚊上さんはぎこちない笑みを浮かべる。

「まあ、少しは」

「なら! ゲーム実況しませんか!?」

 英美里はその瞳一杯を輝かせて前のめりにになる。

 いや、そんな提案しても蚊上さんなら――。

「お、おう……!」

 それ肯定と捉えられますよ!

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