第13話 嫉妬

 英美里が可愛く見えてしまった。

 で、でも健全な男子高校生なら間違っていない、よね……?

 昼休みになり、僕は英美里と一緒に食堂に向かう。

 ふと二階にいる蚊上さんと目が合う。

「あっ」

 僕が何か言いかける前に、シュリが話しかけて彼はどこかへ向かう。

 やっぱり、男の子を好きになるって可笑しいのかな。

 自分の抱えていた不安が一気に押し寄せてくる感じがして、握り拳が震えた。

「どったの?」

 英美里がそう言うと、なんでもない風を装って歩き出す。

「なんでもないよ」

「……ふーん」

「その間はなにかな?」

「別に。魔が差した、なんて言って逃げるのかと思った」

「なんだよそれ。ま違いだよ」

「間違い、ね……」

「だからなんだよ」

 段々イライラしていきた。

「いいじゃないこのくらいの言葉遊びくらい。お礼って言うなら、もっと楽しませてよね?」

「それも、そうだけど……」

 確かに英美里は悪くない。

 僕は何を嫉妬しているのだろう。

 ああ。嫉妬だ。

 明らかにシュリに嫉妬している。

 あんなに近くに居られるんだから。

 僕はと言えば、このちんちくりんにお説教されるくらい情けないんだよね。

「さて。何をおごってもらおうかな?」

「お安いのでお願いします」

「えー。どうしようかな?」

「今晩の夕食がもやし定食になるので……」

 ちらっと券売機を見てサーッと血の気が引く。

 デラックスミックス定食:1万円

「いやいや、さすがにそんなのは頼まないよ!」

 英美里が常識ある人で助かった。

「こっちのウルトラデラックスミックスかな~」

「おい。一瞬でも君を認めた僕が間違いだったよ」

「冗談だって。これクラスの男子でも食べきれないらしいから」

「あー。太るね」

「太る言うな! むむ。そう言われたら、この野菜定食になるかな……」

 野菜定食:400円

「うん。大丈夫だ」

「って、言いつつも、こっちの激辛マーボー豆腐定食にしよう!」

 ピッとボタンを押す英美里。

 値段は千円か。まあいいけど。

「でも激辛を食べる人って性欲が強いって聞いたな」

「ななななな何よそれ!?」

「いや、ネットの噂だからね!?」

「だ、だよね。そうだよ! わたしそんなんじゃないよ!?」

「分かった。分かったって」

 問い詰めてくる英美里が若干怖くて引いてしまった。

「本当だからね」

 なんだか余計に怪しく思えてくるのだけど……。

「まあ、いいけど」

 僕は野菜定食の食券を買っておばちゃんに見せる。

 そっか。

 おごるって言ったから一緒に食べる流れなのか……。

 困ったな。

「あれ。光のプリンセス様?」

「一緒にいるブスはなによ!」

「あれが彼女? 趣味悪」

 全部聞こえているんだよね……。

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