第12話 借りたノート

「きゃー。氷の王子様よー」

「隣にいる子は光のプリンスじゃない?」

「本当! あの二人仲いいんだ!!」

 黄色い声援が飛び交う中、僕と蚊上さんは通学路を歩いていた。

「沢田、人気だな。あの中に飛び込みたくはないのか?」

「そういう先輩こそ。僕はいやですよ。女子はすぐ裏切る」

 冷たい空気を漂わせつつ僕たちは下駄箱で靴を履き替える。

 僕の一年は一番右。蚊上さんの二年は右から四番目。

 すぐに合流し、僕は一階の一年一組へ、蚊上さんは二階の二年三組へ向かう。

「またあとで」

「はい」

 短い返事を終え、別れる。

 また会える。

 そのことで頭の中はルンルン気分になる。

 僕は席に着き、だらしなく顔を緩める。

 先輩の前ではこんな顔見せられないよ。

「何かいいことあった?」

英美里えみり……」

「いや、なんでもないよ」

 急に現実に引き戻された感じがある。

「それよりも今日は小テストだね。沢田くんの対策は?」

 ぎぎぎとブリキのおもちゃのような動きになる僕。

「ええっと。小、テスト……?」

「えっ」

「…………」

 しばらくの沈黙が二人の間に流れる。

「まさか忘れていたの!?」

「はい……」

「分かった。このノートを見せるから覚えて。三限の生物だよ」

「ありがとう。英美里」

 僕はノートを受け取ると、必死でにらめっこを始めた。

 女子だというのに、意外といいところあるじゃないか。

 文字も綺麗で見やすい。

 テストの傾向と対策もばっちり。

 これなら赤点は回避できるんじゃないか?

 わりと短期記憶には自信があるので、三限まで隠れて読み進めているところ。


 三限になり、いよいよ小テストの時間になる。

 ノートは英美里に返却した。

 けど、彼女はノート見ていないよね。

 どうしたんだろう。

 やっぱり優等生らしく、事前準備だけで大丈夫なのかな。

 解答用紙を裏で配られる。

 ドキドキしつつも、先生の合図とともに解答用紙をひっくり返す。

 文字列を見て、僕は確信する。

 これならなんとかなる。

 すらすらとは言わないけど、分かるところから解いていく。

 へへん。

 これなら赤点は回避だね。

 良かった~。

 英美里に借りができてしまった。

 あとで何かおごろう。

 そうだ。昼飯でもおごるか。

 それならバランスとれると思うんだ。

 テストが終わり休み時間になる。

「英美里。ありがとう」

「そう。なら、お礼をしてもらわないとね」

「そのことなんだけど、お昼をおごらせてくれない?」

 目を丸くする英美里。

「いいの?」

「もちろん。ここ学食あるし」

「うん。ありがとう」

 英美里はにこりと微笑む。

 それがなんだか可愛く見えてしまった。

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