第11話 本家のシュリ

「あんたはもう来なくていいよ」

 ココさんの後ろから白銀の髪を揺らし、片目まで伸びた前髪で応じる女の子が現れた。

「シュリ……」

 蚊上さんに負けず劣らずな整った顔立ちをしている。

「あら? そちらのかわい子ちゃんは?」

 シュリと呼ばれた女の子はこちらを見てくる。

 前に出る蚊上さん。

「つれないわね。いいじゃない、味見くらいさせてもらっても」

「彼は関係ない」

「ふーん。庇うほどの相手なんだ」

 僕は蚊上さんとシュリの会話についていけない。

「まあ、いいわ。分家ごとき、私が本家継いだらあの世へ送ってあげる」

 ぐっと顔をしかめる蚊上さん。

「あんたたち分家は汚らわしい血を混ぜてできた人形にすぎないわ」

「ちょっと。キミ、その言い方はないんじゃない?」

 先ほどから聞いていれば、このシュリって人は何を言っている。

 僕には彼女がけなしているだけのただのクズに見える。

「あら。部外者は黙っていて」

「いいや、部外者だからこそ言わせてもらう。蚊上先輩は、彼らはいい人たちだ。だから責める理由なんてどこにもない」

「沢田……」

 瞳を震わせる蚊上さん。

 ココさんも何かを思ったのか前にでる。

「ここはお引き取りを。シュリ様」

「ココ。あなたもこいつら分家を取り持つ気?」

 信じられないと言った顔をするシュリ。

「いいえ。あなたが正しくても。彼の言葉もまた正論なのです。彼らには人権があるので」

「混血種の分際で偉そうにのたまわる。……まあ、いいわ。今くらいは自由に生きることを許してあげる。感謝なさい」

 シュリはまだ減らず口をたたく。

「寛大な心、ありがとうございます」

 蚊上さんはそれだけ言うと、僕の手を引っ張り外へと連れていく。


「信じられない。あんな人が本家の次期トップなんて」

 蚊上さんから少し情報をもらった僕は怒りを露わにしていた。

 あのシュリって子は蚊上家の長女で年齢は僕と同じくらい。

 そして吸血鬼として裏社会を支えている。

 ちなみに純血種と言われている、吸血鬼だけの血を持っているらしい。

 吸血鬼の血筋はとある能力を持っていることが多いけど、寿命が縮むので最終手段らしい。それを日本風に言うなら《魔法》である。

「そうかっかするな。俺はどこにも行かない」

 僕のことを理解している蚊上さんはそう言ってなだめてくる。

 そう言われたら、返す言葉もないじゃない。

「蚊上さん、何かあったら僕が守るからね」

「そうだな。ありがとう」

 力なく笑みを浮かべている蚊上さん。

 ちょっとドキドキするかも。

 しおらしい彼もまた可愛く見える。

 でも本当。これからどうするのだろう。

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