第7話 初めてのチュー

 僕は蚊上さんの部屋にいて羊羹を食べている。

 その多幸感にあてられたのか、じーっと蚊上さんの綺麗な顔立ちを眺めている。

「? どうした?」

 疑問符を浮かべ、白髪を揺らす。

 赤い双眸が僕を捉えて離さない。

「そ、そういえば、部活って何をやっているんですか?」

「部活?」

「はい。一、二年は絶対に部活に入っていないといけないじゃないですか」

「あー。俺ので大丈夫?」

「もちろんです。むしろ先ぱ……」

 先輩と一緒がいい。

 そう言いかけて口を閉じる。

 気持ち悪がられたら嫌だから、僕は視線を逸らす。

「俺はサブカルチャー研究部だよ」

「サブカル?」

「ああ。マンガとかアニメが好きな奴が入る部だ」

「そういう割りには先輩の部屋、片付いていますよね?」

「あー。全部スマホでできるからな。不必要なものを部屋に置いておきたくないんだ」

 そっか。

 今の時代なら電子書籍は当たり前。

 でもフィギュアとか、ポスターとか欲しくないのかな?

「まあ、俺のことはいい。お前は好きなものあるのかよ?」

「え、っと。実はあまりなくて……」

 困ったように頬を掻くと、熟考を始める蚊上さん。

「そうだ。これは入部届けなんだが、入ってみる気はないか? 幽霊部員でもかまわない」

「そう、ですね」

 考えるフリをしているけど、蚊上さんと同じ部活ならどんとこい!

 紙を受け取ると、指に痛みが走る。

「や、切っちゃった」

 指先にじわりと滲む赤い血。

 どくん。

「や、やめろ……」

 小さくうめく蚊上さん。

「先輩?」

「俺は、まだ……」

 縮こまる蚊上さんを見てただ事じゃないと思い、歩み寄る。

「俺に、血をくれ」

「血?」

 素直と言われている僕はこのとき、なんの躊躇いもなしに蚊上さんに切った指を指しだしていた。

 血の滴る指先をパクッとくわえる蚊上さん。

 とくとくと血を飲み出す。

 なんだか疼痛とうつうを感じ、しびれるような感覚に溺れていく。

「甘い……。こんな血、初めてだ」

 血を吸いながらそう呟く蚊上さん。

 吸われている? 血を?

 まるで蚊か、ドラキュラ、吸血鬼のようなことを言う。

 飲み終えると、甘えるようにして頭をこすりつけてくる蚊上さん。

 まるで泥酔状態のように理性が吹き飛んでいるように思えた。

 未だに血の出る指先をペロペロとなめたり、僕の腹にぐりぐりと頭を押しつけてくる。

 氷の王子様と言われていた彼がこんなにも甘えん坊だと、誰が予期していたのだろうか?

 僕だけがこの蚊上さんを知っている。

 その幸福で全身にビリビリと電撃が流れてきた。

「もっと甘えていいんですよ、せーん・ぱ~い♪」

「そうしゅる」

 可愛い!!

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