第3話 トンカツの力。
ドキドキしながら、トンカツ定食を待つ。
それもそのはず。
僕が座った目の前に
その浮世離れした瞳が僕を射貫く。
か、格好いい。
男の僕からしても、そう見える。
同じ同性として憧れる。
その高い鼻筋や形の良い唇、頭の形はとても好ましい。
「きっと女子にもてるんだろうなー」
僕は蚊上さんが彼女と一緒にいるのを想像し、悔しいと思った。
「そうだね。でも俺は女子とはあんまり……」
泣き出しそうな顔になる蚊上さん。
「え。いや、すみません」
「キミこそ、可愛い顔をして、今朝だってモテモテじゃないか」
なんだろう。少し焦ったかのような声音を漏らしている。
「ええと。まあ、でも鬱陶しいと感じています。はい」
嫌みたらしく聞こえないといいのだけど。
くすくすと笑い出す蚊上さん。
「いいね。キミ、気に入ったよ。ハッキリと物を言う子は嫌いじゃない」
その後も笑みを零す蚊上さん。
おばあちゃんがトンカツ定食を机に並べる。
トンカツに千切りキャベツ、味噌汁、漬物、和風サラダ付きで白米多め。
「あらあら。孫が増えたみたいねぇ~」
「ばあちゃん、変なことを言うな」
「はいはい。あとは若い二人で」
「だ・か・ら~!」
まるでお見合いのカップルみたいに言うおばあちゃん。
それにしても冷徹な形相を浮かべていた蚊上さんがこうもコロコロと表情を変えるなんて。
手玉に取られている蚊上さん、なんだか可愛いな……。
いや、何を思っているんだ。僕は。
割り箸を割り、トンカツ定食に手を伸ばす。
サクッとした食感と、溢れる甘い肉汁。
口の中で、衣が肉から剥がれることなく、肉はほろほろと崩れ落ちていく。
「おいしい……」
「だろ? ばあちゃんのトンカツは最高だ」
「褒めても何もでないよ」
おばあちゃんはそう言っているが、少し声が弾んでいる。
「もっと食べたい」
「毎日でも来ていいんだぞ?」
「来る!」
自分でも驚くほど、前のめりになる。
まるで全身が喜んでいるかのようにざわつく。
なにより。
頬が緩む。
「お、おう。毎日こい。そしたら俺も楽しい」
「楽しい?」
意味が分からずに僕は首を傾げる。
「と、とにかく! 俺んちが儲かれば、嬉しいってことだ」
「そ、っか……そうだよね」
少しでも期待した僕が間違いだった。
蚊上さんが僕と同じ気持ちであるはずがない。
「あー。びっくりした」
しばらくして蚊上さんはそんなことを呟いていた。
何にびっくりしたのか分からないけど、僕は支払いを済ませて外に出る。
春の爽やかな風を受けて、僕は前に進む。
もう迷うことはない。
心に決めたのだから――。
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