第2話 実家に挨拶
入学式も終わり、僕は一人で近くの河川敷を歩く。
そろそろお昼時間だ。
この町で美味しい定食屋があったはず。
僕はそのお店をスマホで確認しながら進む。
と、目の前に人がいた。
「と。危ない。大丈夫か? 新入生」
ぶつかりそうになった男子は蚊上さんだった。
「あ、す、すみません……」
あわあわと謝る僕。
「いいんだ。気にするな」
ポンッと僕の頭に手をのせる蚊上さん。
「ええと。どうして僕を新入生と?」
もしかしてどこかで出会っていた?
「キミのその花飾り、だよ」
あー。ですよね。
知っていたし!
「そうそう。何を探していたんだい?」
「ええっと。ここで有名な定食屋があるって聞いて」
「ありがとう」
ん。なんでお礼を言われるのかな?
僕は首を傾げていると、蚊上さんは答えてくれる。
「俺の実家なんだ。そこ」
「え。そうなんですか!?」
「ああ。ばあちゃんのトンカツ定食はマジでうまい」
蚊上さん、饒舌に話すなー。
最初見たときはもっとクールなイメージだったのに。
「からしがつくけど、それも丸呑みするお客さんもいたよ」
少し笑みを浮かべて楽しげに話す蚊上さん。
「さ。いこ?」
「は、はい……!」
なんだか見蕩れてしまった。
同性なのに。
僕の中で何かが変わった気がする。
定食屋『ヴァンパイヤ』に着く。
あれ。これってご両親に挨拶する雰囲気だろうか。
菓子折の一つでも持ってくるべきだったかな?
蚊上さんは事もなげに扉を開ける。
心の準備ができていない僕は戸惑いつつ、蚊上さんの後ろについていく。
「ばあちゃん、帰ったよ」
「あら。
「ん? ああ。そんなところ」
「いやはや、人間嫌いなあんたにしてはめずら」
「ばあちゃん。お客さんでもある。そんなこと言うな」
びしっと決める蚊上さん。
「オススメはトンカツ定食だよ。……ところでキミ、名前は?」
「あっ。ぼ、僕は
「くにちゃんね。覚えたわ。ばあちゃん俺にもトンカツ定食一つ」
「あら。そっちの子はなんにするんだい?」
「じゃあ、僕もトンカツ定食にします」
「お。分かってんじゃん」
ハイタッチを求める蚊上さん。
僕はぎこつなくハイタッチをする。
友達がいないって言っていたけど、なんだかノリは軽いな……。
でも僕は特別なのかな。
分からない。
まだ蚊上さんの人柄が分からないもの。
決めつけはダメだよね。
僕だってそれで苦労してきたんだから。
「それにしても美人さんね」
「ばあちゃん。彼は男の子だよ。失礼」
「あら。ごめんなさいね。老眼で」
からからと笑うおばあちゃん。
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