第41話 落ちこぼれスキルなんかない
「……で、こんな事になった訳だな」
「は、はい。なんだかごめんなさい」
帰ってきたミノルおじさんと黒いおじさんの前で私は項垂れてました。
なぜ私が謝っているのか。それはね……並んだ重機達を見に大勢の見物人が現れて工事が中断しちゃったの。
まあこれだけたくさんの重機を開けた場所に並べたらそりゃ目立つわね。
現在衛兵さん達が集まって工事現場を踏み荒らさないよう人の波を整理してくれてます。
ほんと、なんだかすいません……
「エリーゼさんはもっとお淑やかで大人しい人だと思ってたよ、俺は」
「はっはっは!山であれだけはっちゃけてたんだから今更だけどな!俺は別に気にしてないぜ?嬢ちゃんの力は認められるべきだ」
「だがよ、これだけ人が集まったら工事が続けられないぞ。エリーゼさんが重機を動かす度に人垣が邪魔で事故が起きちまう」
「なるほどなぁ。宣伝するならいい機会なんだがなぁ」
さすがにおじさん達は大人ね。現状でできることを考えてる。
続きの作業のことも考えてきてくれたはずなのに。
でも私が考え無しに重機達を並べちゃったからめちゃくちゃになっちゃった。
「と、とりあえず締め固めは終わってるんです。重機達は送還するとして、何かできることはありますか?」
「そうだな、どうせ見られるんなら見せてやろう!嬢ちゃん、とりあえず油圧ショベルの小さいヤツ、ニュートだったか?そいつとまゆげが居れば穴掘って土砂を取り除ける。他の奴らを別の場所に並べりゃいい観光スポットの出来上がりだ!」
「なるほど……場所は第二倉庫の為の土地がある。俺は商業ギルドに行ってそこの使用許可を取ってこよう」
「ああ、頼む。嬢ちゃんは衛兵の旦那に頼んで並べた重機達の警備をしてもらってくれ。今はまだ昼下がりだから露店とか出れば儲かる奴もいるかもな」
そうか、重機達が見たいなら別の場所で見てもらえばいいのね。人がいなければ作業は再開できるし重機を見てもらえば理解が深まるってことか。
「ついでに一石三鳥を狙ってみるよ。嬢ちゃん、重機達に文字を書くぞ。カラーチェンジが出来なくなるかもしれねぇがそんときゃ約束通り俺が塗ってやるから勘弁してくれよな」
「もちろんです!本当はこの子達もまゆげちゃんみたいにツートンカラーにしてあげたいんです。ミノルおじさんに塗ってもらえるのを楽しみにしてますね」
「そっ、そうか…そりゃ責任重大だな!任せとけ!」
ミノルおじさんは私の頭をポンポンと撫でてから重機達の方へいっちゃった。
えへへ、ポンポンされちゃった。
私はニヤける顔を元に戻す努力をしながら隊長さんを探しに行くことにしたわ。
「ほう、これは考えたな。広告か」
「おう、いいだろ?嬢ちゃんに協力してくれてる人達の所属を書いたんだよ。背面には当然嬢ちゃんの実家『ウォール商会』、胴体横のナンバリングしてある所には『商業ギルドマール支部』と『冒険者ギルドマール支部』、右側には『妖精の雫』、左側には『カーバンクル』だ」
「面白いな、これだけ目立つなら月幾らで金を取ってもいいかも知れない」
ギルドマスターさんとミノルおじさんがなぜかニヤニヤしながら話をしてる。
これはきっと悪巧みね。
「ギルドマスター、ミノルさん、ウチの衛兵団も書いといてほしいな。俺達の貢献度も低くはないはずだが?」
「アンタらの所は領主の直下だろうが。勝手に書いたら俺達の首が飛んじまうよ」
「な、なら領主様にご許可を頂ければいいんだな?」
「領主の仕事を増やすんじゃねえよ。諦めな」
「ぐぬぬ……」
隊長さん、ミノルおじさんに口じゃ勝てないって。
ちなみに私は完全に蚊帳の外です。
「俺達のパーティ『そよ風の輝き』は入れてくれよな。エリーゼちゃんの戦闘訓練をやってる緑銀冒険者だぞ?それなりに箔はあるだろ?」
「最近はそんな嬢ちゃんにコテンパンにされてるんだってな、あんたら。まあ嬢ちゃんのステータスは滅茶苦茶高いし装備も高性能だから仕方がねぇけど。頑張ってせめて赤金等級になってから来てくれや」
「せ、世知辛いな」
冒険者のおじさんもミノルおじさんの口撃に論破されちゃった。
やっぱり私は蚊帳の外です。
なんだろ、この虚無感は。
溜息を吐きながら目の前にある人の波に目をやったわ。
現在商業ギルドの所有している空き地に私の重機達を並べてるんだけど、その周りには見物客はもとより串焼き屋さんや飲み物屋さんの露店ができちゃってちょっとしたお祭りです。
いろんな人が訪れてきて重機達を見物してるわ。
楽しんでもらえてるんならいいんだけどね。
その重機達が置いてある空き地の端にちょっとした人だかりが出来てる。
「あれ?お父さん?」
よく見ると……その中心にいるのはまさかのお父さん。
周りの大人達はお父さんに詰め寄ってなにか騒いでるわ。
私は近くに寄って話を聞いてみた。
「お宅のお嬢さんは素晴らしい!是非ウチで働いて欲しい!」
「ウチだ!ウチの働く条件はいいですよ!きっとお嬢さんも気に入ってくれますから!」
「いや、ウチの息子と婚約をしようではないか!」
大人達がそう言いながらお父さんに詰め寄ってる。それをお父さんは目を瞑り黙って聞いてるわ。
その光景を見た私の心がザワついた。
ちょっと勝手が過ぎる気がする。
去年の鑑定会の時、私のスキルは大人達からダメスキルとか不要スキルといった『落ちこぼれスキル』って呼ばれたの。
学校でもひとりぼっちにされて、先生にまでそれを利用される始末。気にはしてなかったけど私だってそれなりには傷付いたわ。
そんな事を言った人達が手のひらを返して私を手に入れようとしてる。
私の所には来ず、お父さんの所に行って確約を取り付けようと躍起になってるわ。
さすがの私もカチンとくる。私の事をバカにしたからこっちに来にくいのだと思うけど、それがさらに私の気分を害してる。
あなた達の言い分に私の意思が入ってないのよ。
その時、黙って話を聞いていたお父さんがカッと目を開いて静かに語り始めた。
「ふん、お断りだな。あなた達は今までうちの娘に何をしてきた?あなた達が私の娘に対して示した態度は知っている。あなた達の子供が私の娘に行ってきた仕打ちも同様だ。私は親としてそれを許すつもりは無い。私にも商人の矜恃があるので商売に当たってはその考えを押し通すつもりなど無いが、それ以外であなた達と関わるつもりはないよ。お引き取り願おう」
お父さん、すっごい怒ってる。あの優しいお父さんがこんなに怒るなんて!
私、思わずお父さんに向かって駆け出してた。
「お、お父さん、怒らないでください!私は平気ですから!」
お父さんに抱き着いてがんばって話したわ。
「わ、私お父さんやお母さんが悲しい思いをしてたのを知ってます!でも、お父さんもお母さんも私を変わらず可愛がってくれたわ。スキルがダメでもがんばってるエリーゼは偉いって言ってくれた。私はお父さんお母さんに恩返しがしたいの」
私の目から涙が零れた。
「私がんばったわ!スキルを磨いて商売のお手伝いもしたわ!お友達も増えたし商業ギルドの会員にもなれたの!お父さんやお母さん、ミノルおじさん達やついでにお兄ちゃんが落ちこぼれスキルなんかないって言って私を大切にしてくれたから、そしてこのマールの街を大切にしてきたから私はがんばれたのよ。だからこんな事で怒らないでください!」
私は勇気を振り絞って周りの大人達の方を向いて話した。
「皆さんが悪い人じゃないことは知ってます。この街に悪い人なんかいないわ。でも、皆さんのスキルに恵まれなかった子供達に対しての考え方は改めて欲しいです。私だってあの時は悲しかったしいっぱい泣いたわ。でも、優しい大人達のお陰でここまでやってこれました!これを機会に是非スキルに恵まれなかった子供達を助けてあげてください。この世界に無駄なスキルなんてないわ。スキルは神様からいただいた素敵な力です!みんなが素敵なスキルを持ってるんです。お願いします、お願いします!」
ポロポロ涙が零れたけど一所懸命お願いした。
周りのみんなは誰も口を開かず黙ってしまったわ。
お父さんはそんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「エリーゼ、お前は私の、いや私達の誇りだ。今日を機会にマールは変わる、変わらなければならない。お前はそのきっかけを作ったんだ。私達は変えていくよ、なあ皆さん!」
お父さんの優しい声に私は頭を上げる。
「はっはっは!ウォールの旦那、カッコイイぜ!」
「おうよ!俺も友人として鼻が高いってもんだ」
「流石はこの街一番の商会『ウォール商会』の商会長だ」
「あなたあってのエリーゼ嬢だったと言う訳ですね」
「旦那の啖呵、痺れたぜ!流石元冒険者の商人さんだ!」
「エリーゼさんも凄いけど、お父さんも凄かったんだな」
いつの間にか私とお父さんの周りにはミノルおじさんやモジャおじさん、ギルドマスターさん、隊長さん、冒険者のおじさんと黒いおじさんまでが集まってきてたわ。
「エリーゼ嬢、今日の君の言葉がこの街を更に発展させていく事だろう。商業ギルドギルドマスターとしてこの功績を是とする。君は素晴らしい!尊敬に価する立派なレディだ。エリーゼ嬢、君に2ランクアップの『Bランク移動用店舗』の会員証を、ウォール商会に『Aランク商会』の会員証を受理しよう。両人とも益々の成長と発展を期待する」
ギルドマスターさんの高らかな宣言が重機祭り会場となった空き地に響き渡ったわ。
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