第42話 魔法とコンクリート

 ギルドマスターさんの宣言に街のみんなもほっとしたのかお祭りはさらに盛り上がりを見せたわ。


「よし嬢ちゃん、今のうちに残りの仕事をやっちまおう。黒オヤジに倉庫の柱を建てる場所を指示してもらう。そこをニュートで掘り下げるんだ。出来れば固い層まで掘るか、杭を打って強化したい。嬢ちゃんなにか杭打ち機みたいな重機はないか?」


「あ!ありますよ!パイリング車です。借りる重機だから精神力の貯蓄でいけますよ。さっき見たらまたレベル上がってたから今日から70万ポイント貯めながら寝ますね」


「な、70万……ちなみにレベルは幾つになった?」


「えーっと、31ですね」


「31で70万超えか……まるでアイツの嫁並だなぁ。いや、なんでもねぇ。とりあえず穴を掘って杭を打ってくれや」


「は、はい!」




 パイリング車はボーリング車と同じ様な仕様の重機だったわ。


 3メートルほど掘り下げた穴に重りを落とすためのガイドレールを設置して、重りを巻き上げては2メートルほどの杭をガンガン打ち込んでいく。埋まったらボーリングの時みたいに次の杭を繋いでどんどん打っていったわ。


 1ヶ所に3本目を打ったら急に杭が入らなくなってきた。どうやらすごく固い層まで到達したみたい。


 穴と杭の合わせて9メートル位が岩盤と呼ばれる固い層のようね。


 柱は全部で20ヶ所建てるらしいから杭は全部で60本必要なんだけど、最初のセットは50本しかなかったから追加で30,000mp支払って10本の杭と交換しちゃった。


 お陰できっちり杭を打ち込めました。パイリング車はこれでお役御免です。


「よし、穴にこの鉄筋で組んだスリーブを入れよう。黒オヤジ、頼むわ」


「ミノルさん、アンタ俺を黒オヤジって呼んだ!?」


 2人で協力して丸く組まれた鉄の棒を穴の中に降ろしていってる。


「これは何をするものなんですか?」


「ああ、コイツにセメントって呼ばれる石灰石や粘土、 珪石、酸化鉄、石膏を混ぜて焼いてから砕いて粉にした物に、水と砂、砕石をいい具合いに混ぜた物を流し込むんだ。コンクリートって言うんだ。友達からたくさん貰っててな、今回はそいつを使う」


 ミノルおじさんは腕輪を触ってニヤリと笑った。どうやらその腕輪は私の指輪と同じ空間収納が付与されているみたいね。


「それはどうなるの?」


「セメントと水が化学反応という不思議な変化をして固まるんだ。それが砂や砕石とくっついて固まると強い塊になる。それを柱の下に入れるって寸法さ。この鉄筋スリーブはそのコンクリートが砕けてしまわないように繋いでくれるんだ」


「へぇー!ミノルおじさんは物知りですね!」


 本当に感心するわ。そんな私の言葉に黒いおじさんも腕を組んで頷いてる。


「いやぁ、俺もこれは知らなかった。普通は泥と砂利と石灰を練って作る固め土ってのを使うのが主流だな。今の話を聞いたらそのコンクリートって俺達でも作れない物じゃないんだな」


「なるほど三和土か。石灰を作る加熱なんかの手間は変わらないし、魔導具や魔法があればセメントを作るのは難しくない。後でレシピをやるよ」


 ミノルおじさんに言われて木箱をひとつ出したらその中にコンクリートを入れた。


「後は混ぜるだけっと……『ウォーターカレント』、いやぁ魔法は便利だわ」


「な、なんですかそれ!?水流が!」


 ま!魔法!?


 木箱の中のコンクリートがダバダバと混ざってる。み、ミノルおじさん魔法使えるんだ!すごーー!!


 魔法使いなんてほとんどいないのに。


「ミノルさん!こ、これは!?」


「ん?ああ、魔法か?これは生活魔法ってやつだ。幾つか教えて貰っててよ、便利なんだ。こいつで洗濯とかすると楽ちんでよ」


 ミノルおじさんはニカッと笑って言ってるけど、幾つか教えてもらったって、魔法はそんな簡単なものじゃないわよ?


「洗濯に魔法を使う人聞いたことないです」


「『クリーン』の魔法でも綺麗になるぞ?」


「いやいやミノルさん、『クリーン』という魔法自体を知らないぞ?」


「そ、そうか、まあアイツらから習ったからな。そうか、この魔法は異常だったのか……」


 きっと前に聞いたお友達の奥さんから習ったのね。だいたい魔法を使える人自体が少ないんですけど。ほんとミノルおじさんてすごいです!


 私も魔法が使ってみたいなぁ。




 魔法の存在にちょっとバタバタしたけどこれでコンクリートがしっかり混ざったわ。


 これを流し込めばいいのね。


「ミノルおじさん、これをひっくり返して入れますよ。はい!」


 ダバババババ……


「ま、マジか。あー嬢ちゃんのステータスなら出来るのか」


「凄い……あれ何十キロあるんだ?」


「何百キロ、だぞ?嬢ちゃんの体力値は200を超えたらしいからな」


「に、200!?もう重機要らないよな?重機を見せられたり魔法を見せられたり馬鹿力見せられたりで今日はもう驚き疲れたぜ」


 おじさんふたりの失礼な声が聞こえてきたけどこれは私のミスね。確かにこんな物を抱えてまわるのは普通の人にはできないもの。


 ダバババーって入れたどろどろのコンクリートは穴の中におさまってる。


 同じ手順でほかの穴にもコンクリートを流し込んだわ。


「これが固まるんだ、なんだか信じられないわ」


「ははは、これは完全に固まるまで数日掛かる。それまでは工事ストップだから嬢ちゃんはなにかほかの事をやっててくれ。黒オヤジは人集めと柱の建方の準備だぞ」


「ミノルさん、地表にこのコンクリートを打てないのか?こいつは固め土より柔らかいから平らで美しい地面になりそうなんだけどな」


「いやあ、流石にこの量はないな。貰い物だからすぐには作れないし。柱の部分にだけでも使えればかなり頑丈な建物になるぞ」


 確かに綺麗よね。今入れたコンクリートの表面をミノルおじさんがサササッと撫でたらめっちゃツルツルになったわ。


 ん?コンクリートっていえば、なんか貸出重機の中にそんな名前のなにかがあった様な。


 私はステータスを見てみた。


 あ、あったわ!『コンクリートミキサー車』と『コンクリートポンプ車』!


 これならコンクリートが床に打てるんじゃないかな?


「ミノルおじさん、コンクリート打てます!私の重機の中に『コンクリートミキサー車』と『コンクリートポンプ車』ってのがあるわ」


「ま、マジか!それなら話は変わってくるぞ!黒オヤジ、さっき入れた鉄筋スリーブで使った鉄筋って手に入るか?それと人手もだ」


「もう黒オヤジでいいか、慣れてきた。渾名なんて何十年ぶりかなぁ……ああ、その鉄筋なら何とかなるぞ。どれ位の量かにもよるけどな」


「この敷地全体に縦横10センチ角ビッシリだ」


「そりゃ厳しい!せめて20センチ角位ならなんとかなる!」


 黒いおじさん改め黒オヤジさんは渋い顔をしてるけど、ミノルおじさんはさらに渋い顔してる。


 このふたりは案外良いコンビになりそうね。


「うーんまあいいか、車輌が通るから密度を上げたかったんだけどな、ないよりはマシだ。後は人手だなぁ……嬢ちゃん、1週間後に『コンクリート土間打ち』をやる。また声を掛けるからそれまでに精神力を貯めといてくれないか?」


「は、はい!」


「ははは、いい返事だ。黒オヤジ、もう一度打ち合わせだ。今夜は寝かさねぇぞ、へっへっへ」


「気持ち悪ぃな、まあミノルさんの話は面白いしタメになるから付き合うぜ!酒持ってアンタの工房に行けばいいか?」


「いや、商業ギルドだな。アイツらも巻き込もう。黒オヤジもギルマスにちぃとばかり良い顔しといた方がいいだろ?」


「ああ、助かるよ」


 本当に良いコンビだわ。


「じゃあ今日はお家に帰ります。ミノルおじさん、黒オヤジさん、またね」


「エリーゼさんに黒オヤジさんって言われるのはあんまり嫌じゃないなぁ」


 黒オヤジさんが頭に手を当てながら照れてる。なぜ!?


「嬢ちゃん、アンタは家に帰れないぞ?」


「え?どうして?」


 何言ってんだ?みたいな顔で私を見てるミノルおじさん。お仕事終わったならお家に帰りますけど?


「嬢ちゃん、お祭り騒ぎの主役はアンタだろ?仕事終わったんなら行ってやらなきゃな。それに重機出しっぱなしで帰る訳にもいかねぇだろうよ」


「あっ!!」


 そうだった、重機達を回収してあげないといけなかったんだ!


「ははは嬢ちゃん、楽しんでこいよ。この祭りはいろんな意味でアンタが主役だから。エリーゼ嬢の成り上がり伝説の始まりだ!今までの頑張りが認められたんだよ、良かったな!」


 そう言って私の頭をポンポンしながら高笑いをするミノルおじさん。


「もう!ミノルおじさんってば……」


 私、嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からない気持ちになっちゃった。でも自分の顔が赤くなるのはしっかりと分かったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る