第38話 山崩しと砕石積み込み

 油圧ショベルに乗り込みエンジン始動!ドルルルと元気にお返事してる。


「ニッタツ建機とはまた渋いねぇ。このオレンジよりちょっと赤いボディが堪らんよ。力強いよな!」


 ミノルおじさんはいつもどおり。でも、残りの人達の反応というと……


「ド!ドラゴンだぁっ!ドラゴンが出たぞ!エリーゼさんはドラゴンテイマーだったのか?」


「ひえええ!か、神様!俺は美味しくないです!食べないで〜!!」


 大パニック!


「あわてないでください!これは私のスキル『重機』で呼び出した『油圧ショベル』です!土を掘り起こす乗り物なのよ!」


 一生懸命説明してみたけどあまり効果はなさそうね。


「嬢ちゃん、かけるとまゆげを呼んでくれ。まゆげの空間収納はオートにしておく。嬢ちゃんがどんどん岩肌を砕いて砕石を掘り起こしてくれたら俺がかけるで集めるからな。ただしあんまり床や壁を掘るな、山を崩せ。崩落するぞ」


 なるほど、それならちょっと高いところから掘った方がいいのかな?


 私はキャノピーを半周旋回させて排土板を後ろ側に持っていった。そのまま斜面に向かって前進!


 ガガガガガガガガ


 クローラーがキュイキュイ音を立てて砂利だらけの岩肌を登る。ちょっと地面がけずれて沈んできたんで登るのをやめて停車、排土板を下げ地面にがっちり固定。


 そのままバケットを前面の岩肌に差し込む!


 ザシュウッ!


 バケットの先が岩の中に吸い込まれた。そのまま掬い上げるとバケットの中にはいい感じに岩が砕けて砕石が入ってた。


 そのままバケットとアームを抱え込むようにして旋回、後ろを向いてバケットを開放した。


 てんこ盛りになった砕石が油圧ショベルの後ろに盛られる。これを繰り返して平らな足場を作っていくわ。


 20回も砕石を掻きだせばいい感じの足場ができた。


 そのまま左に移動して同じように斜面を崩して少しずつ足場を拡張していく。


「ミノルおじさん、右側は取っちゃっていいですよ!このまま左側に盛り土しながら移動します!」


「了解だ!気を付けろよ!硬い所があったら先に盛り土して足場を作るんだ。上から崩せ!」


「はーい!」


 私が足場を作って高い所の岩を砕いて砕石を掘っていく間、ミノルおじさんがかけるくんを駆ってどんどん砕石を掬ってる。


 みるみるうちに安山岩の岩山が削られ崩され掬われていくわ。


「流石エリーゼさん!仕事が早い!それにミノルさんも『重機』を操れるんだな、こいつは凄いぜ!」


 黒いおじさんが喜んで飛び跳ねてる。子供みたい。


「おい、かけるの走行範囲に入るなよ。ホイールローダーのバケットは発進と停止時に中身を溢し易いからスムーズに動かしたい。正直周囲確認がしづらいから走行範囲上のものは撥ねるからな!」


「分かった!ぞんぶんにやりな!」




 小1時間掘りに掘って掬いに掬った結果、そこにあった山はほぼ平らな土地になりました。


「もう勘弁してください!あなた方を馬鹿にしたのは謝ります!これ以上取られたら俺は生活できなくなってしまう!だいたいその荷車の空間収納はどれだけ入るんだ!?」


 確かに!凄い量の砕石が入ってしまったわ。一体どれくらい入ってるのかしら?


「ミノルおじさん、このくらいにしませんか?砕石のおじさんがちょっとかわいそうになってきたわ」


「嬢ちゃんは優しいな、俺ならケツの毛まで全部抜いてやるよ。元々自分が蒔いた種だ、伸びた物は財宝だろうが呪いだろうが全て自分で受けとりゃいいさ」


 それはそうだけど、私達は砕石を買いに来ただけで奪いに来たわけじゃないわ。このおじさんのお口がちょっと滑っただけ。


「油圧ショベルの練習もさせてもらったし、砕石も手に入ったからもういいですよ。砕石のおじさんも反省してますよね」


「反省してるよ!ちゃんと人の話は聞きます!馬鹿にしたり挑発したりしません!金輪際しません!」


 砕石のおじさんちょっと泣いてる。それを見て黒いおじさんが肩をポンと叩いた。


「俺も最初はエリーゼさんの事を舐めてたんだ。商業ギルドのギルドマスターに呼ばれたと思ったら、娘より幼い少女が受けた土木基礎工事の手伝いをしろって言われたんだ。魔法士がいないから無理だし人手はないし、何より少女だぞ!?鼻で笑ったよ」


「そうだよな…俺だってこんな嬢ちゃんに何が出来るかってたかを括ったよ」


「だろ?そしたらギルドマスターに投げ飛ばされてうつ伏せの状態から脚を固められ首を絞められた。殺されるかと思ったよ」


「え、STFか!?ギルマスはなんでそんな技知ってんだ?」


 あー、そんなことあったわね。


 大人があっという間に投げられて拘束されたわ。黒いおじさんは床をばんばん叩いてた。


「へーそんなことあったのか、あんたも大変だぁ。って言うかギルマスそんなに強かったんだな」


 ミノルおじさんが感心したように頷いてる。たしかにギルドマスターさんはすごく強かった。


「あの人、ああ見えて若い頃は赤金等級の冒険者やってたんだ。確か拳闘士…いや、武闘…格闘…そう、格闘家って言うレア職だった!噂じゃジャイアントグレーベアーを締め落としたって話だ。なんでそんな人が商業ギルドのギルドマスターやってんのか謎だよ」


 砕石のおじさんはなぜかギルドマスターさんのことに詳しかった!


「ジャイアントグレーベアーって言ったら金級相当の凶悪な魔物だぞ?締め落とすどころか個人で討伐するのも大概だ」


「そんな人にSTF掛けられたの?ぎゃはは!良かったな死ななくて!」


「ああ、全くだ…ちくしょう聞くんじゃなかったぜ……」


 ミノルおじさんは手を叩いて笑ってるけど、笑いごとじゃないんじゃないかな?そんなすごいクマを素手で締め殺しちゃう人にやられた黒いおじさんがかなりかわいそうになってきちゃった。


「確か、二つ名が『粉砕鬼』だったかな?彼が狩った魔物の多くは骨が粉々になってるから素材買取が叩かれまくるって噂だった」


「ま、マジか、あんまり弄らんとこう」


「俺、よく生きてたなぁ……」


 おじさん達は意気消沈。ちょっとしんみりした空気が流れたわ。


「と、とりあえず砕石はもう結構です。貰い過ぎだもの。お返ししましょうか?」


 いちおう返却の意思を示しとこうかな。取り過ぎちゃったのは確かだし、もうこのおじさん達がかわいそう過ぎて見てられない。


「嬢ちゃん、せっかく更地にしたんだ、同じ安山岩を返すなら今から出てくる残土を降ろしちゃどうだ?どうせこれからも掘れば土砂が出る。不要残土の処理場にしちまえば処理も出来るし埋まった所はこいつが有効利用出来る。あんたもただの山よりゃ平地の方が幾分使い勝手がいいだろ?」


「え?いいのか?それならあんな岩だらけな山より使い道があるな!助かるよ」


 ミノルおじさんの提案は砕石のおじさんにとってもいい話だったらしい。


 私はまゆげちゃんから白い土と粘土の土を出してダンプ機能で辺りに撒いて、ブルータスでならしてから砕石のおじさんにお別れをしたわ。

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