第34話 地質調査をしよう!

 マール紳士同盟のことを聞きたかったんだけど、私の視線に気付いたギルドマスターさんは『そうだったそうだった…』って言いながらギルドの2階に行ってしまったから聞けなかった。


 まあいっか、今は土木工事のことが先だもんね。


 それでは早速黒いおじさんに声を掛けてみましょ。


「おじさんは日焼けが凄いですね。いつも外で働いているからそんなに真っ黒なんですか?」


「えっ、あっ、まあそうだな。俺の仕事は土木工事の段取りを組む事ときちんと工事が行われているか確認する事だからな。だいたい外にいるぞ」


「ではさっそく基礎工事について指導してください。おじさんの言うとおりにやってみるわ」


「うーん、俺もエリーゼさんの仕事ぶりを見てみてぇし、倉庫の建設予定地に行ってみるか」


 まあ、黒いおじさんは私のこと『エリーゼさん』って呼んでくれたわ。


 うふふ、ちょっと大人な気持ちになっちゃった。


 私達は商業ギルドの倉庫建設予定地へと移動することにした。




「まずここの地盤調査をしないといけねぇんだ。もし地盤が緩かったら建物が沈んで傾いたり最悪倒壊してしまう。だから穴を掘って地盤の状況を見なきゃならねぇ」


「どれだけ掘るのですか?」


「そうだな、この広さなら4ヶ所を固い地盤が出るまで掘らなきゃならねぇ。土系の魔法士がいりゃすぐに取り掛れるんだがな」


 どうやら地面を平らにしたりする前にやらなきゃいけないことがあるみたいね。


 地面なんて固いものだって思ってたから、柔らかい部分があるなんて考えたことなかったわ。勉強になる。


 そういえば、確か重機の中にそういう調査用の機械があった気がする。


「黒いおじさん、私の重機スキルの中に少しの範囲だけ穴を掘って土を抜き取る機械があるわ。やってみていいですか?」


「く、黒いおじさん……」


 ステータスを調べてみる。あったわ!『ボーリング車』は150万mpで5日間借りれるみたい。


 現在私の精神力は480万ほど預けてあるから大丈夫ね。


 ここは黒いおじさんの信頼を勝ち取るためにも是非借りてみよう!


「いでよ、ボーリング車!」


 私の言葉に反応して地面から白い壁が現れた。その中から黄色いトラックが現れる。


「なっ!なんだこりゃあ!」


「これが私のスキル『重機』です。働く車が使えるのよ。まあ使うにはいろいろと準備はいるけどね」


 ボーリング車はまゆげちゃんみたいなトラックの形をしてるけど、かなり大きいわ。スキルの情報で扱い方は分かる。


 黒いおじさんは建設予定地の中の地面に靴の踵でバツ印を書いたわ。


「よ、よし、じゃあこの辺りの地盤を見てみよう。調査はエリーゼさんに任せたぞ」


「は、はい!」


 トラックを運転して後方をバツ印に向ける。運転席に後ろの地面が写った画面があって、そこにバツ印が入るようにトラックを動かしたわ。


 サイドブレーキを引き、エンジンを掛けたまま車外に出て後ろタイヤの辺りに付いてるアウトリガーを引っ張り出して地面に固定。


 再度運転席に戻りボーリングマシンの起動レバーを入れてアクセルをふかす。



 ガロォォォォォォォ……



 なんと、荷台に寝かせてあった機械が起き上がっていくわ!


 動かなくなるまで起こし、再度外に出てボーリングマシンに付いてるアウトリガーも出して地面に固定、そこに付いてる水平器という丸いガラス窓が付いた液体と気泡の入ってる道具を覗いてボーリングマシンを垂直に立てる。


 泡がガラス窓の中央に書いてある丸印の中にバランスよく収まったら機械が水平になってるって訳よ。


 アウトリガーのジャッキを微調整して気泡を中心に持っていく。


 最後にコアドリルという先端に刃物が付いたパイプをボーリングマシンに取り付ける。2.5メートルあるパイプをひょいと持ち上げコアドリルに差し込んだ。


 私体力値180あるからね、余裕です。


 ドリルのスイッチを押すとガラガラとパイプが回り始めた。トラックの荷台に乗せてあった水槽から水が送られてドリル先端を湿らせる。


 ゴリゴリとパイプが地面に埋まっていくわ。パイプが残り50センチメートルくらいまで地面にめり込んだらパイプを追加して接続する。パイプのおしりに次のパイプを差し込んだらいいだけよ。パイプ同士にはドリルの回転方向に向かって引っかかる機構が付いてるからどんどん繋いで長くできるの。


 そうして接続3本目で明らかにコアドリルの回転が重くなった。硬い層に当たったみたいね。


 ドリルを逆に回してパイプを抜いていく。抜き取ったパイプの接合部に付いてたロックを外したらパイプが半分に割れて中に詰まった土が露出したわ。


「はい、ここの土を採取しました。こっちが上でこっちが下ね。一番下は赤い土の層みたいですね。硬いわ。おじさん、チェックお願いします」


 あれ?おじさんが動かない。どしたの?


「エリーゼさん、これはなんだ?」


「ボーリング調査です。おじさんが指定した場所の下の土を集めたんです。この重機はそういう重機なんですよ。」


 スキルで使い方は分かるけど、私には土の見分けは付かないからね。黒いおじさんに見てもらうしかないわ。


 おじさんがわなわなと震えてる。なんだか怒ってるように見える。


 やばい、なにか間違えちゃったのかな?私おじさんを怒らせたのかも!


「ご、ごめんなさい!これじゃダメだったですか?やっぱり掘り起こして確認しなきゃダメだったのね。勝手なことしてごめんなさい……」


「い、いや違う!これは凄い!画期的だ!この採取方法なら折角の地盤を傷めず最小限で地質調査が出来る!更に早い!ギルドマスターが仰ってたエリーゼさんの力とはこういう事だったのか!」


 黒いおじさんはひゃっほうと奇声を上げながら私に駆け寄ってきて、がっちり手を握りブンブンと振った。


 あわわわわ!


「凄い!この重機があればどんな場所でも地質を調べられるぞ!もう職人が頑張って立てた建築物が地盤の歪みで曲がったり倒れたりする事はないんだ!エリーゼさん、ありがとう!ありがとう!!」


 なんかめっちゃ感謝されちゃった。


 どうやらおじさんは感激してたみたい。よかった怒ってなくて。


「この『ボーリング車』自体も凄いがこの機構は魔導具として代替が可能だ!こうしちゃおれん!是非魔導具師に作って貰わなければ……」


「お、おじさん!その前にここの基礎工事をやってくださいね!」


 おじさんは怒ってなかったし結果も良かったけど、この人の短絡で直情的なところは問題ね。ちょっと心配。


 でも建設に誇りを持ち、建物だけじゃなく職人さん達のことも気遣えるとっても素敵な人だってことはよく分かったわ。


 さすが、あの日焼けは伊達じゃなかった。

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