第35話 ハイタッチ
その後調子に乗ってさらに7ヶ所ボーリング調査をしてしまいました。
ボーリング車には20本の延長パイプが備え付けられてたけど、全部で8ヶ所掘ったから足りなくなってしまったので5本20,000mpの延長パイプを追加で借りちゃった。
「おじさん、地盤はどうですか?」
「うーん、下はかなり良い感じだな。見てみろ、赤い層は岩盤の上に堆積した粘土の層だ。水を含むと軟弱で乾くと体積が減るから注意が必要だが、こいつは水気がなくてかなり高密度になってるからかなり強い。もうほぼ岩盤になり掛けているな。その上の黒い土や白い土は礫層だがこれもかなり密度が高い。建物を建てるにはいい地盤だ」
「でも、最後のパイプに入ってる黄土色の土はなんだか隙間だらけで弱々しいです。水分も多いわ」
「ああ、これがかなり水分を含んだ粘土層だ。こいつはやばいぞ」
上層から50センチくらいの所までは白い砂みたいな層で、その下の40センチ幅が粘土層って呼ばれたビチャビチャの土。
どうやら下の層が水を通さないからこの粘土層に水気を溜めちゃってるのね。
「建物を建てるとそこに雨水が来なくなるだろ?そうするとこの粘土層は凝縮してしまうんだ。すると地面が下がって上の建物が歪んでしまう。城でも建てればその自重で粘土層の水分を出し切れるんだけどな」
一番下の粘土層みたいになってしまえば問題なさそうけど、この粘土層は明らかに弱々しい。
「どうしよう。ここには建物が建てれないの?」
このままじゃマールに新しい市場が建てられないわ。せっかくみんなでマールを発展させて大きくしようとしてるのに。
「この層までを掘り返して土砂の入れ替えをすりゃあ問題ねぇよ。1メートル位の土砂を掘り出して小石やよく締まる砂や土を入れてやる。はぁ、この作業に土系の魔法士が必要なんだよ」
おじさんはため息混じりにそういったけど、これって私の重機の出番じゃない?
「そっか、それなら私にも出来そう!」
「なに?エリーゼさんにはこの土砂を掻き出せる重機があるのか?」
「はい、そのために2日間がんばって道を作ったんですから!」
2日間道を作るため山や丘を崩しまくり土を削りまくった総量は68,413,288キログラム。
そう、私が所持してるワーキングポイントはただいま7000万に到達したのよ!すごいでしょ!
それじゃボーリング車を送還して別の重機を呼び出す準備を始めるわ。
「よし、ではさっそく始めますね。上層1メートルを削り取ります。やってこいこいブルータス!」
私の前に赤い壁が反り立ち、中から現れたのは『ブルドーザー』のブルータス。
かっこいい名前でしょ?ブルドーザーのブルから名前を取ったのよ。
「いくわよブルータス、あなたの力を黒いおじさんに見せてあげて!」
「また黒いおじさんって言った!?」
ヒラリと運転席に飛び乗りエンジンを始動すると、ブルータスはドルドルドルってご機嫌にお返事したわ。
そのまま排土板の下を突き出し地面に差し込んで表面の土を削り取る。
30センチくらいを3、4回削ればいいだけよ、おじさん、すぐに終わるから待っててください。
ドドドドドドドドドドドド!!
表面の白い土はかなり柔らかいわ。一気に50センチ下の粘土層まで掘れちゃいそう。
ブルータスの排土板を更に突き刺して一気に削りこんだわ。土をグングン押して倉庫建設予定地のそばにある空き地の方へ押しやった。
平らな所が出来たら後は簡単。道を削るのと同じ要領で排土板を垂直に戻し土を押し出す。
ひと通り白い層を削り取ったらすごくぬかるんだ黄土色の層が出て来た。
「今の白い土とこの粘土層を混ぜるのはやだなぁ……そうだ!別の重機でこの白い土を掬ってまゆげちゃんに積めばいいんじゃないかな?」
重機の購入リストを確認して土を沢山掬える重機を探してみたわ。
えーっと……あった!
『3トンホイールローダー 450万wp』
これしかないわ!即交換よ!
私はブルータスを送還して土の山の前に立ったわ。
「まずは、出ろぉぉ!まゆげちゃぁぁん!」
ゴゴゴゴゴゴ!
まゆげちゃんを集めた土の山の横に出現させた。
「さらに、ホイールローダーカムヒヤー!!」
キラッ!ドドドドドド!
ピンク色の壁の中から現れたのはオレンジ色の車体が眩しいホイールローダー。
でっかい4本のタイヤ。その前タイヤと直接繋がった様に前方へと伸びる大きなバケット。
スキル情報によると掘る力はそれほどでは無いけど、ホイールローダーの力はなんといっても1回で掬える土の量が多いことよ。このホイールローダーは小型だけど、ひと掬いでまゆげちゃんの荷箱をいっぱいに出来ちゃう。
あと、中空タイヤの四輪駆動で胴体の中が折れて操舵するからある程度の高速走行ができて悪路に対して走破性が高く、そして内外輪差が存在しないから走りやすいの。
まさに小さな巨人です!
ホイールローダーに乗り込みエンジンを始動。土を掬い上げてみる。
「うふふ、たくさん取れちゃった。これをまゆげちゃんの荷台に入れて……まゆげちゃん、収納よ!」
まゆげちゃんの荷台の白い土が乗っかる端から収納されていくわ。
やった、作戦成功!
ホイールローダーでどんどん土を掬ってはまゆげちゃんに乗せ、収納する。
あっという間に白い土はなくなっちゃった!
「ホイールローダーって凄いわ!働き者ね。それにこんなビチャビチャな地面でもグングン走れるなんて素敵だわ。よーし、あなたの名前は『かけるくん』に決めた!がんばってね、かけるくん!」
かけるくんは『ドルルル』ってエンジンを吹かしてお返事してる。
「エリーゼさんの『重機スキル』は凄すぎる!確かこの子は春に無能スキル保持者って事で有名な子だったはず……そうか、誰もこんな力を理解できなかったから無能と言われてしまっただけなんだな!」
黒いおじさんがなんか言ってるけどよく聞こえないわ。
「おじさん、どうしたの?よく聞こえませんでした。もうちょっとで終わるから後でお話しましょうね!」
「こうしちゃいられない!この重機を使えばすぐに工事が終わってしまう!砕石を、掘った地面に入れる土砂を手配しなくては!」
おじさんがまだ何か言ってるけどエンジン音で全く聞こえないわ!
私はかけるくんから降りておじさんの所に走っていったわ。
「おじさん!今作業中でエンジンを吹かしてるから声が聞こえないんです!どうしたの!?」
「いや、なんでもない!次の仕事の段取りを考えてたんだ!このスピードで作業をされたら俺の段取りの悪さが足を引っ張っちまう。俺は出かけてくるから帰ってくるまでに粘土層を全部掬っちまってくれ!」
おじさんはちょっと困った顔をしながら私に向かって笑顔を見せたわ。
「はい、分かりました!すぐに終わらせますからおじさん早く帰ってきてね!」
「了解だ!俺が帰ってきたら一緒に出掛けるからな。どっちが早いか競走だぞ!」
そう言って私の前に手を掲げたおじさん。
あっ!これ見たことあるわ!仕事をしている人達がやってる挨拶ね。
私はおじさんの手のひらに向かって自分の手のひらを『パンッ』とぶつけたわ。
ハイタッチ、だったっけ。
うふふ、私このおじさんとも仲良くなれちゃった!
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