第33話 本当の幸せ
「エリーゼ嬢、領主様の了解を取り付けてから道の整備をしてほしかったんだがな」
「す、すいません、練習を兼ねてブルドーザーを動かしてたらこんな事になりました」
翌日も練習ということでカバルの街から酪農村までの道路工事をやっちゃいました。
あ、あくまで練習だったのよ。でもつい楽しくなっちゃって地面を削りまくってたら酪農村の牧場のおじさんに見つかってしまったの。
まあ牧場のおじさんは喜んでくれたんだけど、それを村の人にしゃべってしまったから私の重機のことがばれ、人づてにカバル、そしてマール、さらにはギルドマスターさんが知ることになったってわけ。
たった2日で伝わるって、なんか怖い。
「私が領主様にお会いして道路工事の件をお伝えすると、『報告によるともう大半が終わっているそうだな、流石ギルドマスターともなると仕事が早いな』などと嫌味を言われてしまったよ。まあ領主様は道路工事について了解して下さったから問題はないがね」
「重ねてすみませんでした!」
まさかの領主様にまで伝わってた!!
どこの国だってそうだろうけど、勝手に街道を整備しちゃダメだよね。いくら便利になったとしても管理してる人からすれば驚くだろうし人によっては嫌な気持ちになるかもしれないわ。
勝手なことするなー!人の仕事取るなー!って。
それにちょっと考えたら、勝手に、それもひとりで道を作るなんて異常だしね。
あっ私は元からあった道を整備しただけですから!道を作ったわけじゃないですから!
もしひとりで勝手に新しい道を作るような人がいたら、それはかなり変わった人なんだと思います。
森を切り開いたり山を削ったりを趣味みたいにやっちゃう人……異常だわ。
……いないよねそんなひと。
「だがエリーゼ嬢の重機の力が凄まじいことは証明できた。たった2日で60キロメートル以上の距離の道を平らに出来るなど、素晴らしい力だ!」
もうギルドマスターさん怒ってない。よかったわ。
「でもまだ坂道を減らして道のでこぼこをならしただけです。表面処理や締め固めなんかはまだまだやってませんから」
「これ以上の道になるのか?素晴らしい!私には充分に見えたがな。カバルまで馬車で1時間以上掛かっていたのが45分になったんだぞ?馬の負担が減って途中休ませる必要がなくなったからな」
隊長さんが馬を走らせてカバルまで行き、そのまま帰ってきてから馬車を用意してまた往復したらしいわ。
馬だったら往復1時間程度だったから馬車ならどれくらい掛かるか試したくなったそう。
あの人も元気よね。
「馬の負担が減ったんなら嬉しいですね」
「その馬の負担のせいで今までは荷を減らし人を歩かせ時間を掛け移動していたんだ。これで物流に関してはエリーゼ嬢に負担を掛けずに済む。君に荷物を運ばせるだけでは能力の無駄遣いだからな」
ギルドマスターさんはお髭を撫でながら私を見て笑ってる。
そっか、まゆげちゃんで荷を運ぶのは私の能力の一部でしかないもの。私にはまだ見たことない重機が沢山あるわ。
重機でいろんなことをして便利になればみんなが楽ちんになったり幸せな気持ちになれるかもしれないから。
「ギルドマスターさん、私まゆげちゃんで荷物を運ぶのは嫌いじゃないです。でも、他のことでマールの街のためになるならもっとがんばれるわ」
「うむ、よく言ってくれたな!君のスキルに頼るだけの仕事では皆が幸せにはなれないのだ。君のスキルが街を発展させ、他者がそれを利用して更なる発展をしてこそ本当の幸せだ」
「私の重機の力だけじゃダメなんですか?」
「そうだ。いいか、君の重機があるうちはそれでいいかも知れない。君が多くの品を街にもたらし多くの品を売る事が出来るだろう。道は美しく整備され遠くまで苦もなく行く事が出来るだろう。だが、もし君が他の街へ行ってしまったら?もし君の重機が使えなくなってしまったら?もし……君が死んでしまったら?どうなる」
ギルドマスターさんの目は私を見つめているようで、どこか遠くを見ているような、そんな目だった。
もし私がいなくなったら……考えたことなかったわ。
「そっか、私がいなくなっても大丈夫にならなきゃ本当の幸せじゃないのね」
「そうだ。一人欠けたらお終いな制度など無いのと同じだ」
私はただみんなが喜んでくれたらいいと思ってただけでそんなこと考えたことなかったわ。
「これまでは商人達が苦労して商品を運び、街の人々は高い金を払ってそれを買っていた。中には暴利で販売していた者もいるだろう。馬を鞭で叩き回して山を登り、高い金を払って冒険者を雇い森の中で魔物に怯えながら野宿をしていたのだ。中には生命を落とした者もいる。君の行いはそういった人達を限りなく減らす事が出来るのだ」
冒険者のお兄さんとお姉さんの傷付いた姿とおじさんの悲痛な叫び声を思い出した。
「商業ギルドで物流をコントロールして安定した物品供給をしたり、山を削り坂を減らして流通改善をする事はそういった今の負担を減らすだけでなくこれからの知識や制度として残るのだ。これらは君の功績だよ。君のスキルがあったからこそ実現可能になったのだ」
私のスキルはみんなから無能って言われてたのに、お父さんやお母さん、ミノルおじさんやモジャおじさん、隊長さんも冒険者のおじさんも、グレース市の市場の人や他の街や村の人達も、出会った人達はみんなすごいって言ってくれた。
その人達のためになるならがんばろうって思ってた。ただそれだけだったの。
でも、ギルドマスターさんは私のスキルは人の役に立てるだけじゃなく新しいものを作れるって言ってくれたんだ。
その新しい物が次の新しいことになって利用されていくのね。
すごい、すごいことだわ!
「エリーゼ嬢、君には可能性がある!だからそんな君を蔑ろにした貴様を許せんのだよ!」
えっ?
振り向くとギルドの職員さんに連れられたこの前私をバカにした工事担当の黒いおじさんがいたわ。
「こ、こんにちは」
「お、おう……こんにちは…」
挨拶をしたらいちおう返答があったわ。でもこの前の威勢のいい態度はなりを潜めてる。この人いつからいたんだろう?
「貴様、整備され道を見てきたか?」
「へ、へぇ……先程馬車で実際に道を走り確認してきました。あれは何人の魔法士を動員されたんで?」
「貴様……何を見てきたのだ?」
あわわ、黒いおじさんの一言はギルドマスターさんの気に触ってしまったみたい。ギルドマスターさん、お顔が怖いわ。
「魔法士などひとりもいない。この街に魔法士はいないと言ったのは貴様だろう。この工事は全てそこにいるエリーゼ嬢がひとりで行ったのだ」
「ま、まさか!ありえない!」
「み、ミノルおじさんに教えてもらいながらだからふたりでやりました」
黒いおじさんがあまりにもオタオタしてるから思わず2人でやったと言ってしまったわ。
そんな私を見てギルドマスターさんはニッコリ笑ったわ。
「ミノル氏の知識も素晴らしいが、エリーゼ嬢のスキルを用いればたった2日であの通りなのだ。今の話を聞けば私が彼女を期待の新人だといって遇する理由が少しは分かったかと思ったが……貴様には失望したよ。もうギルドから抗議も何もしないから二度とここには来ないでくれ」
「そ!そんな!!」
ガッカリした素振りのギルドマスターさんの態度に黒いおじさんは大慌て。
うーん、これはどうしよう。
このおじさんの態度が悪いのはちょっと引っ掛かるけど、このままではなんだか可哀想だわ。
おじさんは私のことを知らないか、無能スキル持ちだって思ったからバカにしただけだと思うの。
だから、知らないなら知ればいい。
「ギルドマスターさん、こちらのおじさんは土木工事のプロなんでしょう?私そんな人に土木工事を教わりたいわ」
「だが、彼は君を馬鹿にしてその力を認めない。それなのに君は彼から学ぶつもりか?」
「はい、私だって分からないことは学びたいです。おじさんも私が分からないなら知ればいいんです。それに、このおじさんが作業をする人達が快適に仕事出来るようになって欲しいって話をしたから私は道を整備したんです。この人はとっても良い人だわ」
お願いギルドマスターさん、黒いおじさんを許してあげて!
「うーむ……」
ひと声唸ったギルドマスターさんは額に手を当てて足をトントンと踏み鳴らした。
「……おい貴様、エリーゼ嬢に感謝しろよ?もし彼女に不遜な態度を取ったら私を筆頭に『マール紳士同盟』が黙っていないからな」
「あ、ありがとうございます!エリーゼさんもありがとう!ありがとう!!」
ん?まーるしんしどうめい??なにそれ??
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