第31話 ブルドーザー

 よーし、1500万ポイント支払って『6トンブルドーザー』と交換よ!


「やってこいこいブルドーザー!」


 私の呼び声に合わせていつもと同じように壁が現れた。今回は赤い壁ね。


 その壁が上から消えていき、中から現れたのは黄色のボディカラーが眩しい四角い重機。


「おおっ!やっぱ大型重機はオオマツか!なになに?6トンクラスのキャタピラタイプねぇ。えーっと、D31PX……流石の俺もブルドーザーは分からねえなぁ。だが排土板の幅が3メートル近くあるしこれならただ往復するだけでもかなりしっかりした道になるんじゃねえか!?」


 あはは、ミノルおじさんいつも説明ありがとう。


 たしかに重量は8トン以上あるし、地面を削っていけば立派な道ができそうね。


「早速走らせてみます!」


 運転席に乗り込んでシートに座る。あれ?ハンドルがない。


 急に頭の中に情報が流れ込んできた。スキルが発動したようね。


 なるほど、左側のアームレストに付いてるレバーで走行や旋回、右側のアームレストのレバーで排土板を操作するのか。右側のフットペダルがブレーキで真ん中はデセルペダルっていうちょっとした坂や盛土を乗り越えたい時にエンジンの回転数をコントロールするペダルがある。


 よーし、エンジンを掛けてみよう。



 キュオッオッオッ……ドルルン!


 ドルドルドルドルドルドル………!



 か、カッコイイ!


 辺りを見渡すとミノルおじさんが飛び跳ねて喜んでる。隊長さんは座り込んじゃってるわ。


 隊長さんはびっくりしちゃったみたいね。ミノルおじさんは平常運転です。


 私はエンジンを止めてキャビンから身を乗り出した。


「ミノルおじさん!操作は分かるんだけどどうやったら道が作れるか分かりません!一緒に乗ってください!」


「おうとも!やった!ブルドーザーに乗れるぜ!」


 ミノルおじさんはキャタピラをよじ登りキャビンの後方に入り込んで座席のヘッドレストにしがみついた。早!


「それじゃ行きますよ!」


 再度エンジンを掛けて排土板を上昇、操作レバーを傾けてゆっくり前身。


「ほお、最近のブルドーザーは操作が簡単だなぁ。俺が知ってるのは左右のキャタピラを2本のレバーで操作するやつだ。ガチャガチャレバーを動かすから割と疲れるんだよな」


「この子は左手のレバー1本で動くわ。割と簡単よ」


「まあ簡単とはいえコツはあるんだよな。俺の故郷では重機を扱うには運転と操作で別々の勉強をさせて資格を持たせる制度がある」


「資格?それがないと重機を使ってはいけないの?」


「そうだ。重機とはいえ車輌なんだから道路を走るには当然ルールがある。他の人を簡単に踏み潰せる力を持つ重機等特殊自動車を安全に走らせる為の許可が『特殊自動車運転免許』。対してきちんと重機を使って仕事をするのは道を走るのと違う技術だろ?だから『車両系建設機械運転技能講習』ってのを受けてきちんとした知識と技術を養う。重機とは誰でも軽い気持ちで運転してはいけない車輌なんだ」


 ミノルおじさんのいた国はどうやら知識や道徳基準が高い国だったみたい。便利な道具にもちゃんとルールを作ってきちんと守り守らせる。だからこんな大きな機械を扱うような高い文化が生まれてるんだろうな。


「この世界には『ステータス』と、『スキル』ってもんがあるからな、ルールを無視できる程の能力が個人に備わってるんだ。嬢ちゃんのスキル『重機』なんかは最たるもんだ。だからこそ自分を律して常に学び、決して奢りを持っちゃいけねぇ。そんな大人になるんだぞ、嬢ちゃん」


 その言葉に握ったグリップが汗ばんだのが分かった。


 おじさん、重いわ。なんだかブルドーザーを運転してはいけない気がしてきちゃう。


 でもミノルおじさんの言ってることはそういうことじゃないよね。


 資格制度があるミノルおじさんの故郷はちゃんと勉強してた人達が重機を使って仕事をしてた。でも私のいる世界は資格がないし、これは私だけのスキルなのだから余計にでもしっかり学ばなきゃダメってこと。


 もちろん安全運転もしなきゃダメよね。




 気を取り直して再度操作レバーを握り、ブルドーザーを前進させた。



 ドドドドドドドドドドドド……



 音と振動がすごい。音は仕方ないけど振動はきっと道がでこぼこな証拠ね。これを全部削り取るのかな?


「嬢ちゃん、あそこの地面が出っ張ってるのが分かるか?」


 ミノルおじさんの指さす方にはちょっとした丘があるわ。坂の下から頂上まで距離20メートルはあるし高低差も3メートルくらいありそう。


 うん、立派な丘ですね!


「おじさん、あれは出っ張りっていうんですか?ほぼ丘なんですけど」


「それを切り崩して平らにするから道が出来るんじゃねえか」


「ええっ!じゃあそこから出た土はどうするの?」


「今までのでこぼこをその土砂で埋めるんだよ」


「言ってる意味がよく分かりません」


 いきなり無茶だ!道作り舐めてたわ!私ブルドーザーの排土板ででこぼこを削って平坦にするのかと思ってた!


「そんなことしたら道がまわりより低くなって雨水が溜まるぞ。それに削りっぱなしの残土はどこへやるつもりなんだ?削り取った分埋めていきながらなるべく平坦にする。それが道作りだぞ。大丈夫、そのブルドーザーなら2、30分もあれば削り切れる!」


 ミノルおじさんは自信たっぷりに言ってるけどホントかな?


「1番頂上を50センチ位削って押すんだ。排土板の下を少し出してみな。土を切るんだ」


「は、はい!」


 丘のてっぺんよりちょっと手前あたりで排土板を下げ上向きにする。少し運転席が持ち上がる感触がして排土板が地面にめり込む。


「排土板が地面に刺さり車体が平行になったら排土板を真っ直ぐにしろ。そして速度を上げて土砂を押せ!」


「は、はい!!」



 ドドドドドドドド!!



 す、すごい!土ががっつり削れていってる!そのままアクセルを一段階上げて速度を出してみた。


「土砂が溜まり過ぎたら流石に動かなくなるぞ。そうなったら1度溜まった土砂の上半分だけを押せ。そしたら向こうの坂道に土砂が行くだろ?ならバックしてさっきの続きを押すんだ」


「はい!」


 私はおじさんに言われた通り上側の土を押して進み向こう側の坂に押し出した。バックで戻ってさっきの続きを押す。


「その土砂山を乗り越える時に足元のデセルを使ってエンジンをふかせば速度を変えずトルクを上げて乗り越える事が出来るからな。おう、上手い上手い」


 坂の下りに全部土を押し出した。私はブルドーザーを旋回させて頂上の方を向かせる。


「わぁ!道が出来てる!」


 ブルドーザーが削り取った所が平らな道になってるわ!


「それを繰り返していけば坂が減り凹凸も埋まる。そうやって高い所から低い所へ土砂を持っていきなだらかにしていくんだ。今度は反対側に向かって押してみろ」




 何往復かしていくうちにさっきまであった丘はただの平らな道になっちゃった。掛かった時間も30分くらいかな?


「すごいわ!こんなに簡単に平らになったわ!」


「まあ普通はこんなに簡単じゃないけどな。流石は嬢ちゃんの重機スキルってとこか。見ろよ、もう100メートル位は平らだぞ。立派な道だ」


 丘が削られてちょっとした谷間の間を道がのびてるわ。幅は約5メートルくらいね。


 馬車も充分通れそう!


「カバルの街まではこんな感じの丘が後6ヶ所位あるな。まずそこを全部削って平らにしよう。全部終わったら道のでこぼこを削るんだ。その時に排土板を傾けて道の両端を少し掘り下げると雨水が道の真ん中に溜まらなくなるぞ」


「はい!」


 一旦ブルドーザーから降りて送還、まゆげちゃんに乗り換えて次の丘に向かう。


 そうすれば走行が遅いブルドーザーの移動時間が稼げるし、キャタピラで地面をイタズラに傷付けずにすむわ。


 さっきと同じように丘を高い所から削り、土を押し、更に削り、押すことを繰り返してだんだんなだらかにしていく。


 そして終わったら次の丘までまゆげちゃんでGO!とっても楽しい気分になってしまってどんどん先へ進んじゃった。


「ブルドーザーはすごいわ!こんなに簡単に道が作れるなんて!最初にミノルおじさんが丘を出っ張りって言った時はどうしようかと思ったけどね」


「ははは、ちょっとビビってたもんな。『言ってる意味が分かりません』って言ったもんな!ははは!」


「もう!ひどいわミノルおじさん、そんな意地悪言うんならここから歩いて帰ってもいいんですよ?もう坂道なくなったし」


「はははスマンスマン、幾ら坂がなくても遠過ぎる。見なよ嬢ちゃん、もうカバルの街が見えるぞ」


「え!?」


 丘を切り崩して平らにした先にはカバルの街が見えていたわ。


「流石嬢ちゃんの重機スキルだ。プロ顔負けの技術だぞ。普通は数台の油圧ショベルや締め固め機なんかを併用しながらやるんだからな!」


 えーっと、ちょっと練習と確認のつもりだったんですけど。


 ギルドマスターさんはまだ領主様に道作りの了解を取ってないんじゃないかな……これってやばい?

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