第30話 プレゼント

 商業ギルドを後にした私はおうちに帰ってお父さんとお母さんに事情を話したわ。


「……というわけで道路を整備するお仕事を受けることになりそうです。新しい重機を試してからでないとどれくらい時間が掛かるかは分かりません。でもきっと上手くいくと思うの」


「ギルドマスターから直に受けた仕事か。エリーゼ、きっちりやりなさい」


「エリーゼがまたギルドからの依頼を受けてきたのね!素晴らしいわ!あなたは私達の誇りよ」


「ありがとうお父さんお母さん!ちゃんと仕事をこなせるようミノルおじさんに相談してくるわ」


 私はうちを飛び出してミノルおじさんの工房へ急いだ。



「道路整備か!重機にはもってこいの仕事だな!嬢ちゃん、『ブルドーザー』見せてくだ……いや、見せてみろよ」


「言い直した!でもミノルおじさんはそれくらいサバサバしてた方が似合うわ。カッコイイです!」


「そ、そうか?ありがとな」


 ブルドーザーはでっかいので、出すのは街の外でやってみることにしたわ。まゆげちゃんに乗ってマールの門まで行ったらそこには隊長さんがいた。


 連日お勤めごくろうさまです。


「おやエリーゼ嬢、ミノルさんもごきげんよう!今日はふたりでお出かけかな?」


「こんにちは隊長さん!街の外で新しい重機を出してみるんです。実は隣町までの道の整備を任されることになりまして」


「そういうこった。嬢ちゃんは重機の操作は出来るだろうが道の整備に関しては素人だろ?だからちょっとアドバイスをするのさ」


 そう言って私達が門から外に出ると、なぜか隊長さんも付いてきた。


「ん?隊長さん、なにかご用ですか?」


「ん!あっいやいや、新しい重機とはどんな物か見たくてなぁ」


 なんだかモジモジしてる隊長さん。うーん、おじさんのモジモジはあんまり気持ちのいいものじゃないのよねぇ。


 隊長さんはイケおじなんだからいつも通りシャンとしてほしいわ。


「ははーんなるほどなるほど……おい嬢ちゃん、そういやアンタ誕生日だったそうだな。後でと思ったが今プレゼントやるよ」


 ミノルおじさんはズボンのお尻ポケットをゴソゴソしてそこからなにか取り出したわ。


「手を出してみな」


 私が手を差し出すと、ミノルおじさんは手のひらに指輪をポンと落とした。


 その指輪は鈍く銀色に輝くちょっとゴツめのリングで青くて小さな石が付いてる。綺麗!


「指輪だわ!すごい綺麗!ミノルおじさんありがとうございます。はめてみていいですか?」


「おういいぞ!その指輪は利き手じゃない方の人差し指に嵌めるのがいいな。俺の若い頃の友人が錬金術師でな、そいつに頼んで作って貰ったんだ。嬢ちゃん専用だぞ」


 へえ、いつの間にそんな物を手に入れたのかしら?ミノルおじさんの若いころの友達って……あれ?


「ミノルおじさんの若いころの友達ってもしかして……」


「おっとそいつはいいじゃねえか、まぁおいおいだ。その指輪には仕掛けがあってな、石が魔石になってて収納魔法が付与されてる。容量は小さいが……中を出してみな?」


 私は指輪を左手の人差し指に嵌めてみたわ。うふふ、ちょっと大人になった気分。青い石を触ってみると、なんと石の中から1本の黄色い棒がにゅーっと出てきたの。


 あれ?ただの棒じゃないわ。棒の先端に赤いでこぼこした大きな塊が付いてる。なにこれ?メイス?ハンマー?


 なんだか玩具みたい。


「な、なんですかこれ?」


「最近嬢ちゃんは冒険者達に戦闘を学んでるだろ?だから武器を作って貰ったんだ。でも剣とかは嬢ちゃんには物騒だからな。その武器は俺の故郷にある玩具をモチーフにしてあるんだ。『ピコピコハンマー』ってんだよ、おもしれえだろ?」


「ぴ、ピコピコハンマー……」


 なにこれ?名前からして武器じゃなくジョークアイテムな雰囲気が伝わってくるわ。


 赤いハンマー部分は蛇腹になってて押すとちょっとへこむ。しゃがんで地面を叩いてみた。



 ピコっ!



 いやーん!ピコっていったわ!


「か、かわいいわ!ピコっていうからピコピコハンマーなんですね。素敵!」


「だろ?それで叩かれても痛くねえんだ」


「でもそれじゃ冒険者のおじさんから習った身を守る技が使えないわ。これは戦うためのものじゃないのね」


 うーん、かわいいし面白いけど意味ないわ。だって武器として役に立たないもの。


「そいつは嬢ちゃんの精神力を使って固くなるんだ。強く叩こうと思って叩くと立派なハンマーになるぞ。」


 へえすごい!こんな玩具みたいなハンマーにそんな機能が付いてるんだ!


 試しにもう1回地面を叩いてみよう。精神力を使うんだっけ?そうね、1000くらい使うつもりで……えいっ!



 バガァッッ!!



 じ、地面が割れた!うそぉ!


「お、おじさん!」


「魔素を詰め過ぎだ!ちょっとでも効果があるぞ。一体どれだけ詰めたんだよ!?」


「せ、1000くらいです……」


「多いわ!使うのは10とか20の話だぞ!そんなに使ったら普通の奴なら一撃でガス欠だ!あ、そうか、嬢ちゃんは精神力めっちゃあるからな……こりゃ説明不足だったな、すまん。だがこれで身を守る事位出来るだろ」


 うふふ、ミノルおじさんは自分の身を守るためとはいえ女の子の私が武器を持つことを快く思ってなかったのね。だからこのピコピコハンマーを手に入れてくれたんだわ。


 おじさんはいつも私のことを考えて手を貸してくれる。ありがとうミノルおじさん!


「はい、気を付けます。ミノルおじさんありがとう!私の為に手に入れてくれたんだね!」


「ははっ、なんか照れるな。ちなみにその指輪の収納魔法は俺の友達の奥さんが付与してくれた。その魔法付与はこれ以上魔素を使わないのにまだまだ容量があるんだよ。そうだな…小さい盾や小物なら入りそうだぜ?なぁ衛兵の旦那」


 ん?なにか変な言い回しね。ミノルおじさんは何を言ってるんだろう?隊長さんも驚いてるわ。


「み、ミノルさん、ちょっと気を回しすぎだぞ」


「ははっ、良いじゃねえか!しかしアンタも準備がいいねぇ」


 おじさんふたりがはしゃいでる、何事?


 私が首を傾げていると、隊長さんが目の前でしゃがんで青い布の包みを出してきた。


 どこから出してきたの?


「う、いやまあ近頃エリーゼ嬢が訓練をしていると聞いて俺も何か出来ないかなと。ち、丁度衛兵詰所にいい感じの盾があったんだ。使って欲しい」


「ありがとうございます!えー盾かぁ、すごいなぁ」


 なるほどミノルおじさんのへんな言い回しは隊長さんに話しをしやすくさせるためだったのね。私は隊長さんから包みを受け取り開けてみた。


 中には皮製だけど所々に金属のレリーフがあしらわれた腕に装着するタイプの小さな盾が入ってた。


「すごい!綺麗だし素敵だわ!皮製だから軽いけどところどころ金属で補強されて防御力は高そう。隊長さん、これもらっていいんですか?」


「ああ、君に使って貰う為手に入れたんだからな。」


 あり?余り物じゃないの?


「え?衛兵さんの詰所にあったんじゃ……」


「ああいや、その、エリーゼ嬢に合わせて小さくリメイクしたんだよ!」


 そのやり取りを聞いてミノルおじさんが吹き出してしまった。


「はっはっは!もうバレバレじゃねえか!だいたい衛兵なら大楯だろ?バックラーなんか使わねぇし。嬢ちゃん、そりゃあ隊長さんが嬢ちゃんの為にオーダーした逸品だぞ!良かったな」


 ええええ!?それって凄く高価な物なんじゃないの!?


「ミノルさん!そういうアンタの持ってきた指輪だって只の金属じゃないだろ!どう見てもミスリル的なやつだよな!」


「……ミスリルじゃねぇし、オリハルコンだし」


 お!おり!おり!オリハルコン!?本でしか見たことないわ!確か幻の金属でとんでもない高値で取引されてるんだよね!?


 11歳にして既婚の男性から高価な貢物を受け取ることになるとは!このおじさん達は私にいったい何を求めているのかしら!?


「ふたりとも…私こんな高価な物貰えないわ。お父さんに叱られてしまいます」


「ああ心配すんなって、誕生日プレゼントだからな。父ちゃんには渡すって話してあるし」


「そうだ、君に使って貰わないと誰も使わないしね。是非使ってくれ」


「いいのかなぁ。まぁお父さんが知ってるんなら……じゃあいただきます。ふたりともありがとう!大切にします!」


 すごいプレゼント貰っちゃったな。右手にピコピコハンマーを持ち左腕にバックラーを嵌めてポーズを取ってみる。


 すっごく強くなった気がする!素敵!


 嬉しくなってむん!むん!ってピコピコハンマーを振ったり盾を突き出して教えてもらった防御の型をやってると、なにやら呟きが聞こえてきたわ。


「いやあ、やっぱり娘はいいなぁ。ウォールさんが羨ましい」


「ウチは子供がいねぇからな。ったく、娘は可愛いぜ!」


 ミノルおじさんも隊長さんも私を見て破顔してる。


 ていうかめっちゃニマニマしてるやん、うへぇ……


 ミノルおじさんも隊長さんも普段はカッコイイんだけど……どうしよう、さすがにこの顔はだらしない。


 見ちゃおれん!


 ああ、おじさん達のそんな顔をまじまじと見つめると失礼になるわね。うん、見てないわ!そんな事実はなかったのよ!



 そ、そうだ!ブルドーザーを出すんだった!ブルドーザー出そう!

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