第29話 認めてもらおう
「エリーゼ嬢、穴を掘る重機はないのか?」
商業ギルドに来たらいきなりギルドマスターさんに詰め寄られました。
「こ、こんにちはギルドマスターさん、突然のお話に意図がわかりません」
「おや、これは失礼」
私の返事にちょっと狼狽えてから咳払いをして姿勢を正したギルドマスターさん。
「こんにちはエリーゼ嬢、突然詰め寄った事は謝罪する。実は、例の倉庫を建てるため基礎工事を行いたいのだが、その為の土魔法士がいないのだ。人の手で掘り返したり埋め直したりするのは日数や費用の面で難しい。そこでエリーゼ嬢の重機の力を借りたいのだよ」
「なるほど……」
仕事をするための重機なら穴を掘ったり土を入れたりすることは出来そう。
でも、私自身に建設工事の知識がないからどの重機を手に入れればいいかわかんないわ。
「幾つか使えそうな重機はあります。でも、私は工事について詳しくありません。だれか建設工事に詳しい方を紹介してください」
「ふむ、それはそうだ。分かった、それでは工事担当を連れてこよう」
そういってギルドマスターさんは近くにいた職員さんに声を掛けた。何かを伝えられた職員さんはそのまま外へ出掛けて行ってしまった。
「エリーゼ嬢、貴女が分かっている範囲で使える重機はあるのか?」
うーん、土木工事なら『油圧ショベル』と『ブルドーザー』かな?『ホイールローダー』は最終的な調整工事なら使えるけど大規模工事には不向きかも。
「穴を掘ったり土を掬って移動させる『油圧ショベル』っていう重機と、地面を削ったりならしたりする『ブルドーザー』っていう重機があります」
「ほう!どの位の大きさかな?」
「今私が貯めてるワーキングポイントは1800万くらいです。小さめの油圧ショベルとブルドーザーならギリギリ交換できますね。でも、でっかい工事ならブルドーザーの大きな方しか手に入れられないわ」
「うーん、上手く行けば第2第3の建物を作らないといけないからな。出来れば大きな方を手に入れたいものだ。」
ギルドマスターさんがお髭をつまみながら悩んでる。私も一緒に考えてみようかな。
要はワーキングポイントを稼げばいいのよ。
まゆげちゃんは私専用だから誰かに貸すのは嫌だしだいたい精神力を消費するから他の人じゃ無理があるわ。
フォークリフトの仕事なら今職員さんが練習してるから貸し出して運転してもらえるな。
でも、でっかい油圧ショベルは2000万ポイントも必要なのよね。
今まで木を運んだりフォークで箱を積み上げて管理したり、街中でちょこちょこ配送の仕事や荷造りの仕事をしたりしてやっと1800万貯まったんだもの。
2000万はかなり大規模なことをしないと無理だ。
「お待たせしました。工事担当者を案内いたしました」
職員さんがひとりのおじさんを連れてきた。
「魔法士がいないんじゃ無理だぞ!それに隣の街や開拓村から出稼ぎが来るのに道が悪過ぎて手間が凄い。道の改善をしてから話を回せ!段取りが悪いな!」
茶髪のボサボサ頭で真っ黒に日焼けしたムキムキのおじさんが突然がなり立てたわ。とっても強そうだしちょっと怖いなぁ。
「おい、彼女を怖がらせるんじゃない!お前は気が荒すぎる。もう少し優しく話さないか!」
「むっ、なんだ嬢ちゃん怖かったのか?そりゃすまんな」
ムキムキのおじさんは腕組み仁王立ちで私に謝ってきたわ。その態度はどう見ても謝る姿勢じゃないけどね。
「こ、こんにちは。私はエリーゼです。基礎工事のことでお話を聞きたかったんですが、なぜ隣の街や村から人が来れないんですか?」
「この街はまだまだ発展中の街だから色々足りてないんだ。出稼ぎの者を送り迎えする馬車は乗り心地が最悪だし、道中は悪路だから運ばれてきた乗員は移動だけで疲れちまう。それに宿泊施設がないから毎日通いになるんだ。どうだ、聞いただけで仕事にならないだろ?幼いお前には分からないかも知れんがな」
「おい、彼女を丁重に扱え」
ギルドマスターさんが怖い顔してる。
たしかに隣のカバルの街や酪農村まではかなりでこぼこ道だったわね。まゆげちゃんだからスムーズに走れたけど。
そっか、働く人が来るだけで疲れちゃうなら駄目だよね。ムキムキのおじさんはその人達のことを心配してるのかな。
ちょっと威圧的だけど根は優しい人なのかもね。
「た、たしかに……なら魔法士は?」
「魔法士がいなきゃどうやって土を掘って固めるんだ!?」
え!?地面って魔法で掘るの?なら私の重機の方が練習次第で誰でも掘れるからお得かも。
「私の重機で掘りますけど」
「ハッ!」
私の言葉にムキムキのおじさんは鼻で笑ったわ。ちょっと失礼じゃない?
明らかにバカにされちゃったみたい。
私がちょっと悲しくなって下を向こうとした瞬間、突然目の前にいたムキムキのおじさんの姿が消えた!
ドーーン!
なんと、ギルドマスターさんがおじさんを投げ飛ばしちゃった!
「おい、うちの若手の期待の星をぞんざいに扱うな!ましてや年少の女性を悲しませるんじゃない!」
壁に激突して転がった所をギルドマスターさんによって床にうつ伏せにされてなぜか足をロックされて首まで絞められてるおじさん。
「ぐうっ!く、苦しい!」
「謝罪だ!彼女に丁寧に謝罪しろ!お前の替えなら幾らでもいるが、彼女の替えは世界中探してもどこにもいないのだ!」
ええええ……そんな大袈裟な!
「ギルドマスターさん、離してあげてください!まだ私が小さいからおじさんには仕事の役に立たないように見えたんだと思います!」
ギルドマスターさんは私の顔をみて申し訳なさそうに手を離し、起き上がったわ。
ムキムキのおじさんよりギルドマスターさんの方が怖いわよ!めちゃくちゃ強かった!
「ギルドマスターさん、こちらのおじさんに私の能力を知ってもらう方が先だと思うんです。私に仕事をいただけませんか?」
「仕事?何をするつもりか?」
「カバルの街や酪農村から人が来やすくすればいいんですよね?私に道を作らせてください。私の重機『ブルドーザー』は土をかきおこしたりならしたりする整地に特化した重機なんです。でこぼこの道を平らに出来るわ」
ギルドマスターさんはまたお髭を撫でながら考え込んだわ。
「うーむ、エリーゼ嬢の『ブルドーザー』がどういう物かは分からない。だが今までの実績からその能力は十全と判断出来る。その『ブルドーザー』で道を作れば出稼ぎの連中が楽に移動出来、エリーゼ嬢のワーキングポイントも貯まる。すると……うむ、面白そうだな!」
うふふ、説明ありがとうギルドマスターさん!
「すぐに領主様に会いに行く!先触れを出すのだ!エリーゼ嬢は貴女の父上やミノル氏に相談し工事に当たれるよう手配して欲しい。必ず仕事を取ってくるからな!」
ギルドマスターさんは周囲の人にテキパキと指示を出してる。
わあ!やっぱ出来るおじさんはカッコイイな!
対するムキムキおじさんは目をシパシパさせながらキョロキョロしてるわ。
「な、なぜこんな子供にそこまでするんだ?訳分からんぞ」
「エリーゼ嬢の配慮に感謝するんだな!道が完成した暁には当ギルドから正式に抗議と謝罪を求めるから覚悟をしておけ!」
青い顔のムキムキおじさんと真っ赤な顔のギルドマスターさん。
こわぁ……
「そ、それじゃ私は支度をしてきますね、ごきげんよう……」
私はそそくさと商業ギルドを後にしたわ。
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