第23話 加護と眷属

 マールの街には17時40分に着きました。ただいま。


「エリーゼ嬢!無事に帰ってきたな。良かった良かった!ウォールの旦那さんもご無事で何よりだ」


「隊長さん!ただいま戻りました!」


 私はギルド証を隊長さんに見せたわ。門を潜る時はこれを見せないとね。


「うむ、確認したよ。とは言え君の顔は忘れないから大丈夫だけどね」


「まあ隊長さん、ズルはダメ!お仕事ですよ?それに私もギルド証見せたいですし、えへへ」


 せっかく貰ったから見せたいの。


「うむ、そうだな。これからもちゃんと確認しよう」


 隊長さんは嬉しそうに笑顔で私にギルド証を返してきたわ。


「エリーゼ、先に帰っていてくれ。お父さんはちょっと用事があるから衛兵さんと話をしてくる」


 そう言ってお父さんはまゆげちゃんから降りちゃった。


 なんの用事なのかしら?お父さんがお家に帰らないのなら荷物がほどけないわ。


 それなら私もミノルおじさんの所に行ってお話してきたいわ。


「ミノルおじさんの所に行ってワーキングポイントの話をしてきてもいいですか?」


「そうだね、ちょっとならいいよ。なるべく早く帰りなさい。お父さんもすぐに帰るからね」


「はーい。それじゃ隊長さん、また会いましょうね」


 隊長さんは笑顔でバイバイと手を振ってくれたわ。


 うふふ、隊長さんは優しくて素敵なイケおじだわ。




 時速20キロでゆっくり街中を進んでいくわ。道行く人が手を振ってくれてる。


「おっ!エリーゼちゃんだ!初仕事おつかれさん!」


「おう初仕事はどうだったかい?」


「嬢ちゃん、明日からお店に商品が並びそうかい?買いに行くからな!」


 声を掛けてくれる人の割合がおじさん高めなのがちょっと気になるけど、私も手を振って応えてみました。


 そのままプルルンとまゆげちゃんの軽快なエンジン音を響かせながら3番通りのミノルおじさん工房へ向かう。


「おじさんいますか!エリーゼです!ただいま帰りました!」


「おう嬢ちゃんか!入んな!」


 ガラガラガラ


 工房のドアを開けて中へ入った。もう勝手知ったるだね。


「おじさん!あのね、今日グレース市まで行ってきたわ!海を見たの!」


「ほうグレースっていやぁ距離は150キロはあるな。どうやらワーキングポイントをドッサリかせいで来たみてぇだな!」


 ふふふ、そうなのです!


「はい、だからミノルおじさんに相談して今後どうするか決めようと思って。あと、レベル上昇した時のステータスの上がり方がちょっとおかしいんです。それも相談したかったの」


 ミノルおじさんは得意の腕組み顎いじりで私の話を聞いてくれた。


「うーん、ステータスの方は専門外だからなぁ。父ちゃんは何て言ってんだ?」


「ギルドマスターさんに相談するって言ってました!」


 私がそう言うと腕を組み直しうんうん頷くおじさん。


「おう、それが良いかもしれねぇな。俺だと憶測でしか言えねぇ」


「おくそく?」


「ああ、予想とか何となくこうかな?ってのはあるぞ。今の話を聞いて感じたのは『眷属ボーナス』だ」


 なにそれ?けんぞくぼーなす?


「それはなんですか?」


 ミノルおじさんはいつものニヤリとした笑顔を私に向けたわ。


「嬢ちゃんはまゆげを眷属にしてるだろ?眷属として強い魔物や生物を従えた場合、主人とその眷属の力がお互いのステータスに作用する事がある。それかも知れねぇ」


 へえーー!ミノルおじさんなんでも知ってるな!


「だがよ、まゆげは生物じゃねぇからな、よく分かんねぇ…そうだ、俺がまゆげを鑑定したら分かるかも知れねぇな。やってみるか」


 ミノルおじさんは工房のドアを開け、外に停めてあるまゆげちゃんの所に行ったわ。


「ミノルおじさん鑑定とかできるんですか?すごーい!」


「ああ、『異世界転移ボーナス』ってやつさ。鑑定と言葉が分かるようになる……んん、やっぱりそうか、まゆげは嬢ちゃんの加護が付いてるぞ!」


「私の?」


「ああ、嬢ちゃんの加護のお陰で他人からの敵意を半減できる様だ。まゆげは怖がられにくいってことさ、良かったな」


 まゆげちゃんは私の加護が付くことでみんなから好かれやすくなって、私はまゆげちゃんの力を得て強くなってるってことか!


「なんだか……凄く嬉しいわ!」


「そうだな、機械だって愛されたら嬉しいだろうからな。大事にしてやろう」


 私はまゆげちゃんを抱き締めるようにキャビンへとへばりついた。まゆげちゃんが嬉しそうに車体を揺らした気がしたわ。


「んで、ワーキングポイントの方はどうなんだ?」


 あっそっか、ワーキングポイントの話もしなきゃ。


 えっと、現在のワーキングポイントは……


『現在のwp= 2,665,157 貯蓄mp=0』


「今ね、266万ポイントです!お家に買ってきた商品を降ろしたらもうちょっと増えるよ」


「ならもうちょいでリフトがいけるんじゃねえか?リフトは荷箱とか材木とかを移動させたり、上手いことやれば積み上げたりできる重機だ」


 へえー、商品を高く積み上げれば沢山置けるわね。それなら狭いところでも物が置けちゃう。


 でも、いっぺん積んじゃったらリフトがないと降ろせなくなるよねぇ……だめじゃん。


「うーん、フォークリフトの使い道が分からないわ。マールじゃ使えないんじゃない?」


 グレース市くらいの大きな市場だったら使い道がたくさんありそうだわ。


 でも、仕事のためだけにグレース市まで行くことはできないよ。おうちのお手伝いも学校もあるしね。


「そういう時のためのリースなんじゃねえの?商業ギルドや衛兵詰所の備蓄管理に貸し出したりすりゃあポイントになるしみんな助かるぞ」


 リース?ああ!貸すやつか!


 ミノルおじさんよく覚えてたなぁ、私忘れちゃってた。


 まゆげちゃんの荷台を治療用のベッドにしただけで30,000wpだったわ!


 1日貸したらいくらになるんだろう?ワーキングポイント増えるかな?


「明日商業ギルドのギルドマスターさんと隊長さんに聞いてみます」


「そうだな、俺も嬢ちゃんの父ちゃんに呼ばれてるからギルドに行くし、そん時聞いてみるか」


 えっ?お父さんミノルおじさんと何するの!?


「そういえば、おじさんはお父さんと何の話をしたんですか?異世界人の事話しちゃったの?」


「流石にそれは言ってねぇけど、嬢ちゃんの精神力訓練の話はしたぞ。流石に余所のお嬢さんの精神力が10万とかになったら言わない訳にゃいかないからな」


「ああ私の精神力、もう33万ありますよ」


「な、なんだと!?」


 ミノルおじさん、目を見開き過ぎよ!目玉が零れちゃう!


「レベルは16なんだけど、精神力は33万。もう使い切れないよ」


「嬢ちゃん、そんなにあるなら何で貯蓄しねえんだ?」


 あっ!


 ミノルおじさんはやっぱり凄いな!精神力貯蓄出来るんだったわ!


 完全に忘れてました!


「そういえば精神力で『燃料』って言うのに交換出来るんです!燃料って重機を動かす素だよね?」


「なるほどな!それならリース用の重機は俺が改造せず嬢ちゃんの出してくる燃料で動かせばいいな。それなら重機を乗り逃げする奴も居ねぇだろう。乗り逃げしても燃料が無くなりゃ動かねえ。ただの鉄の塊って訳さ」


 ミノルおじさんの話を聞いていたら、私のやる事がだんだん見えてきた気がする。


 私の『重機』を街中で使えたらみんな幸せになるんじゃない?

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