第21話 初めてのコーヒー
脳筋おじさん達は仕事を始めたら早かった!
1本数百キロはあるだろう木を2人でヒョイヒョイ運んでいくわ。積む時の木こりのおじさん達は5人がかりで積み込んでたのに!
すごー!脳筋すごーー!!
あっ!全部終わったからすぐにまゆげちゃんに乗り込まなきゃ!
だってこのおじさん達絶対話し掛けてくる!
「お嬢ちゃん!おじさん達のパワーも凄いだろ?」
ほら来た!
「毎日肉食って牛乳飲んで鍛えてるからな!まあお嬢ちゃんには勝てねえがな」
「そりゃ女の秘密だから聞いちゃ駄目だって言われたろ?だからお前はモテないんだぞ!」
「お前よりはモテる!」
「いーや俺んがモテる!」
「嬢ちゃん、俺とコイツのどっちがタイプだ!?」
「私は頭がいい人がタイプですぅ!」
「そうか!なら俺だ!」
「なんだと!?俺だろ!?」
「お父さんもう帰ろうよ!嫌だ!ここにいるのはいやーー!!」
私の魂が叫び声を上げたわ。
脳筋おじさん集団から逃げるように走り去った私達はお昼ご飯を食べるためグレース市の中心街にやってきたわ。
まゆげちゃんはしまってある。
「材木が驚く程高値で売れたよ。今日持って来たお金の3倍は軽くある」
「ええっ!?お父さん大丈夫なの?悪い人に狙われない?」
お父さんからお金が沢山あることを知らされた私はちょっと怖くなってきたわ。だって、お金のために悪いことする人がいるって聞いたことあるもん。
「お金はまゆげちゃんのダッシュボードの中にしまったから今はないよ。もし悪い人に絡まれたら財布を投げ付けて逃げよう。お昼ご飯代位なら渡してしまってもたいした損じゃないからね」
おおう、お金はまゆげちゃんの中なのね!私グレース市を出るまで絶対まゆげちゃんを出さないから!
街中を歩いていたら『ネコの尻尾』っていういい感じの喫茶店があったのでそこでお昼ご飯を食べることにしたわ。
私はパンとスープとサラダと果実水、お父さんはパンとコーヒーっていう飲み物。
お父さんは目をつぶってカップの中の黒いコーヒーの香りを嗅いでいるわ。
なんかかっこいい!!
「お父さんコーヒーっておいしいの?」
「ああ、美味いよ。以前飲んだ事があるんだけどここのは特に美味いな。ちょっと苦くて焙煎された芳ばしい香りが高く、なんか癖になる味なんだ。エリーゼも大人になったら飲んでみるといい」
えええ、私今飲んでみたいな。
私は今大人の練習中なのよ。あと2週間もすれば11歳になるわ。
今だってしっかりお父さんのお手伝いで商品の買い付けをしてるし。
うん、私はもう大人ね!
「お父さん、私ちょっぴりコーヒー飲んでみたいです」
「おっ!大人の練習だな。お父さんのを飲んでみるか?ちょっぴりにしとくんだよ」
やった!
私はお父さんからコーヒーカップを受け取って自分の顔に近付け、香りを嗅いでみた。
ほわーんと鼻の奥をくすぐる暖かで少しクラクラする香り。何かを軽く焦がしたようなそそる香りだわ。
その香りに包まれると大人になったような気持ちになっちゃった。
カップに口を付けて、ちょっぴりすする。
ぐわっ!に、にがい!!何この苦さ!
口の中がジャリジャリするわ。美味しくない!でも、さっきのクラクラする焦げた香りは口の中で拡がって……
こ、これが大人なのね………
「ははは、苦いだろう。この苦みの中にある仄かな旨みと甘み、そしてこの焙煎された豆の香りが分かれば癖になる。頭もスッキリするしね」
旨みや甘みはサッパリ分からないけど、確かに香りは凄いし頭はクラクラしたあとスッキリ爽やかな気持ちになった気がするわ。
「香りが素敵なのは分かったけど、旨みと甘みは分からなかったわ。苦いだけでした」
「おっ、香りが分かればたいしたものだ。それならこれを飲めばいい。すいません、これをお願いします」
お父さんがカウンターの中にいた女性の店員さんに何かを指さして注文したわ。
かしこまりましたとお返事をした綺麗な店員さんは不思議な形のガラス瓶にお水を入れ、そこにこれまた不思議な形のガラスの漏斗を差し込んだ。
その漏斗の中に黒いツブツブした物を入れ、下のガラス瓶をハンガーに掛けて魔導具のコンロに乗せたわ。
それとは別に小さなお鍋を出してきて、そこに白い液体と透明の液体を入れてコンロにかけて掻き混ぜてる。
瓶の中のお水に泡が発生してる。だんだんお湯に変わっていってるのが分かるわ。あっ!下の瓶の中のお湯が上の漏斗に上がっていった!なぜかしら?不思議ー!
漏斗に上がったお湯は黒く色付いていく。同時にさっき嗅いだクラクラする焦げた匂いが充満してきた。
あっ、あれがコーヒーなのね!コーヒーってああやって作ってたんだ。
お姉さんは木で出来たへらで漏斗の中身を3回掻き混ぜてから30秒くらい待ったわ。ゴポゴポと漏斗が泡立ってきたのを確認してから瓶をコンロから降ろした。
ついでにお鍋もコンロから降ろして搔き混ぜてる。
お鍋の中も泡立ってきた。漏斗の中のコーヒーはどんどん下に溜まってきてる。
コーヒーが下の瓶に溜まりきったところでお姉さんはお鍋を掻き混ぜるのを止め、ちょっと大きめのカップにコーヒーを半分くらいまで淹れた。お鍋の中の泡も入れちゃった。
最後に棚にあった瓶の蓋を開け、中身を匙で掬ってカップに振り掛けてる。
「お待たせしました、『マキアート』です。どうぞ」
「ああ、それはこの子に。私はもう一杯コーヒーを頂こう」
「かしこまりました」
な、なんということでしょう!私の前には泡立った茶色い飲み物が!
「お父さん、これは?」
「コーヒーは最近この国に伝わってきた飲み物なんだ。でもコーヒーは苦かっただろ?だから同時にコーヒーを苦くない様にして飲む方法も伝わってきたんだよ。それはコーヒーを泡立てたミルクとシロップで割って、更にキャラメルソースが掛けてある。甘くて美味くて香りも高い。飲んでご覧」
私はカップを口に付けたわ。さっきのコーヒーほどクラクラする香りはなかったけど、かわりにむせるようなミルクの香りとほんのり甘い焼き菓子のような香りに包まれた。
すすっ、こくり。
あ、甘い!ほのかに苦く口当たりはまろやかで、でもコーヒーのクラクラは感じられてる。
「お父さん、これ美味しいわ!ミノルおじさんにも飲ませてあげたいね!」
「そうだな、ミルクやシロップはあるからここでコーヒー豆を買って帰ろうか」
お父さんも賛成してくれたわ。
「お客様。コーヒーを飲むにはコーヒーサイフォンが必要になります。当店ではコーヒーサイフォンも販売しておりますよ。ついでに『美味しいコーヒーの淹れ方ハンドブック』もお付けいたします」
私達の話を聞いてお姉さん店員さんがすかさず商談を始めちゃった。
お姉さん、かっこいい!
「ははは、これはお上手だ。それも是非いただこうかな」
「お買い上げありがとうございます。当店のコーヒーは聖地『アストルギウス』から伝わってきた由緒正しい品でございます。お家で召し上がるコーヒーも素敵ですが、是非『ネコの尻尾』に再度ご来店いただければ幸いです」
綺麗なお姉さん店員さんが丁寧にお辞儀をしたわ。
素敵!これからはうちでコーヒーが飲めるんだ!
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