第20話 友達はおじさんばっかりね

「いやぁぶったまげた!嬢ちゃん本当に精神力24万あるんだな。約束だ、そのバングルはお前さんにプレゼントするよ」


「えええ、おじさんちゃんとお金取ろうよ」


 魔導具に映し出された私のステータスを見て雑貨屋さんがぶっ飛んだ。その後なぜかご機嫌になって私にバングルを押し付けてくる。


 こんな高価なプレゼントは私には早いわ!


 どちらかと言えばおっきなネコのぬいぐるみとか、素敵なブーツとかがいいわ。貴金属類は気が引けちゃう!


「お、お父さん!」


 困ったからお父さんにヘルプを出した。


「エリーゼ、店主さんが下さると言っているのだから受け取りなさい。大人の男というのは1度言った事を引っ込めるのには勇気がいるんだ」


 お父さんがうんうん頷きながらそんなこと言ってる!ヘルプ失敗!役立たずだったわ!


「お父さんは話が分かるな。そうだよ嬢ちゃん、受け取ってくれ。だいたい他のやつじゃそいつは使えない。使ってやってくれ」


 私はしぶしぶバングルを受け取ってハンカチに包みポーチにしまう。


「あ、ありがとうおじさん。大事にします!」


「いいって事よ。それにしても大したもんだな嬢ちゃん、精神力をどうやって増やしたんだい?」


 うう……教えてあげたいけどミノルおじさんとの約束だからな。


「教えてくれた人との約束で教えられないんです。でも、毎日ちょっとずつ頑張って半年でこうなりましたよ」


「そうか、それは残念だ。実はうちの娘が今年冒険者になったんだよ。珍しいスキル『回復士』でな、精神力が沢山あったら重宝されるだろ?教えてやりたかったんだ」


 おじさんはちょっと残念そうな顔でそう言ったわ。


 なるほど娘さんのためか、確かに精神力は魔法や回復を使うのに必要になりそうだもんね……そうだ!


「ねえおじさん、私はマールの街に住んでるんです。そこに訓練方法を教えてくれた人も住んでるの。私、その人と仲良しなんですけど……ふふふ」


 おじさん、私が何考えてるか分かりますか?


 おじさんはちょっと考え込んで、ハッとしてから私の顔を見てにっこりと笑ったわ。


「娘にはマールの街にエリーゼちゃんって言う良い子が居るから会いに行ってみろと伝えておくよ」


「うふふ、おじさんさようなら。バングルありがとうございました!行きましょうお父さん」


「エリーゼ、良い買い物をしたね。店主さんまた来ます、では」


 私はお父さんに手を引かれて市場を後にしたわ。




 まゆげちゃんに乗って町外れの建材を扱ってる市場を目指す。


「エリーゼは賢いし優しい子でお父さんは嬉しいよ」


「やだお父さん、私は自分がマールに住んでてミノルおじさんと仲良しだからって言っただけよ?」


「あの場合ミノルさんとの約束を破って訓練方法を伝えたら、余り良い結果にならなかったと思う。さっき雑貨屋の店主にかけたエリーゼの言葉はきっと100点だ。上手く行けばエリーゼに友達が出来るかもな」


 友達!そういえばマリアちゃんが王都に行っちゃったから今の私には友達がいない。


 学校のクラスメイトはいるけど、私の『重機』が無能スキルだと思われたので相手にされてないし、私自身訓練とおうちの手伝いのことで頭がいっぱいだったから眼中になかったわ。


「友達かあ……あんまり必要ないなあ」


 私の返事を聞いたお父さんがでっかい溜息を吐いた。


「おいエリーゼ、あんまり情けない事を言わないでくれ。友達は大事だぞ。全ての人が真の友になる訳じゃないからこそ友はたくさん持つべきだ。その中からお前が背中を預ける事が出来る者や心を開く事が出来る者が現れるかも知れないよ」


「うーん……」


 私にはお父さんやお母さん、ミノルおじさんやモジャおじさん達がいるからいいんだもん。んーお兄ちゃんはどっちでもいいかな。


 でも、同じ世代の同性の友達も欲しいといえば欲しいかな。


 まあそれはその時のことね。それよりも喫緊の問題があるのよね。


「ねぇお父さん、ミノルおじさんとどこまでお話したのかしら?さっきから聞いてたらお父さんはミノルおじさんの秘密を知ってるような気がするんですけど!」


 精神力の訓練方法も知ってる気がするし、まゆげちゃんの能力も詳しいのよね。


 もしかしてミノルおじさんが異世界から来た稀人ってことも知ってるんじゃないでしょうね!


「それは……秘密だな」


 お父さん、おじさんがぶりっ子しても誰も得しないから止めてください。


「まあ他人の事を詮索しない方がいいだろうからこの話は終わろう。エリーゼ、そこの建物の前にまゆげちゃんを停めてくれ」


「むむむむむ……」


 釈然としないけど、市場に着いたしお父さんがお話は終わりって言ったから仕方ないけど聞くのを止めてまゆげちゃんを停車させた。


 お父さんはまゆげちゃんから降りてその建物に入っていったわ。少しして建物の中から沢山のおじさん達がワラワラと出てきた。


 なんか騒いでる。


「材木なんかないじゃないか!あんた嘘ついたのか!?」


「だからアイテムボックスに入ってるって言ったじゃないですか!アイテムボックスから出しても私達では運べないから手を貸して欲しいって言いましたよね!」


「おうそうだった!スマンスマン!材木があるなんて嘘つくから思わず叫んじまった!」


「だから!嘘じゃないですから!」


 ちょっと頭の中身が不足しているような会話だなぁ。


 あ!これが『脳筋』ってやつなんじゃない!?初めて見たかも。


「エリーゼ、済まないが材木を出してくれないか。」


「はーい。」


 溜息混じりのお父さんから指示が出たので私はまゆげちゃんの空間収納から木を1本出したわ。木はまゆげちゃんの荷台の鳥居と後ろあおりにズシンと乗ってる。


「うおおおお!ホントに材木だ!アンタ嘘つきの割に凄ぇな!」


「でけえな!こりゃいい柱になりそうだ!どうやって運んだんだろう?」


「かなりの力自慢が居るんだよきっと!」


 うひょうヤバイヤバイ!この人達人の話を聞いてない上に状況判断も怪しいわ!


 脳筋こわー。


「頭が痛くなってきたよ……悪い人達じゃなさそうなんだけどな……エリーゼ、材木は何本あるんだい?」


「20本です。今まゆげちゃんの上に乗ってる木を降ろしたら次を出しますね」


「分かった、お父さんは事務所で売買契約をしてくるよ、はぁ。済まないがエリーゼは材木の荷降ろしを頼む」


 沈んだ表情のお父さんは揉み手をしてる事務屋っぽいおじさんと一緒に建物の中へ入っていったわ。


 残った脳筋おじさん達。


「こんにちは!私はエリーゼと言います。この木を退けてくれたら次を出しますからドンドン運んでくださいね!」


 私は脳筋のおじさん達に声を掛けた。おじさん達は私に気付いて凄い勢いで迫ってくる!


「お嬢ちゃんが運んできたのか!?す、凄ぇパワーだ!」


「あのちっこい身体のどこにそんな力が!?」


「秘密の力だな!」


「そんな物があるのか!?」


「女には男に分からねぇ秘密があるんだよ!お前知ってるか!?」


「知らねぇ、教えてくれ!」


「俺に聞くなよ、女に聞けや!」


「嬢ちゃんはまだ子供だから秘密はねぇよな?」


「バーカ、女は小さくても女だぞ?今から大人になるにつれ色んな所の秘密が増えていくんだよ。な、嬢ちゃん」


「今から秘密があるなんて、こりゃあ大人になったら出るとこ出てくるな!パワーが有り余ってるからな!」


「違ぇねえな!」


 イラッ!!バカなの!?


「はよ降ろせぇ!仕事しろぉ!脳みそに詰まってる筋肉を総動員しなさいな!!それに10歳の女の子に対して言っていいことと悪いことがあるでしょ!」


 もう!レディに対して失礼しちゃうわね全く!!


 このおじさん達とは友達になりたくないわね。

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