第19話 お買い物
厩舎で待ってたらホクホク顔のお父さんが帰ってきた。どうやらいい取引ができたみたいね。
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま。いやぁまゆげちゃんの空間収納は時間停止が付いているんだね。卵と牛乳は凄く高品質だからって言い値で売れたよ。麻製品もまあまあな売れ行きだった。売り切れだ」
「良かったね。遠路はるばる走ってきた甲斐があったわ」
高値で売れたのなら嬉しいわ。
お父さんと一緒に市場にある飼料を売ってるお店に入ったら、中からおじさんとおばさんが飛び出してきた。おばさんは手に箒を握りしめてる!
「あ、あんた達!あれはなんだい?」
「あんな荷車見たことない!大丈夫なのか?」
ああ、まゆげちゃんが目立っちゃったみたいね。
「こんにちは、私はエリーゼです。あれは私のスキルで生まれた荷車なんですよ。まゆげちゃんっていいます。よろしくお願いします!」
「あらま!きちんと挨拶が出来るなんて偉いわねぇ!」
私がごあいさつしたらおばさんが箒を背中に隠して急にニコニコし始めた。
「驚かせて済みません。ここで飼料を購入するつもりで娘に荷車を停めておくよう頼んでおいたのです。お邪魔でしたでしょうか?」
「い、いやそういう訳じゃないんだ。見た事ない物を見たもので驚いただけだ。こちらこそ悪い事をした、許してくれ」
お父さんが上手く商談を絡めて説明したからおじさんも頭を掻きながら謝ってきたわ。
「おじさん、おばさん、まゆげちゃんは珍しい荷車だから初めて見た人はみんなビックリするんです。さっきも衛兵さんをビックリさせてしまって囲まれちゃいました。こっちがビックリしちゃった」
「まあ!それは可哀想に!全くなんて事するんだい!こんな可愛らしいお嬢さんを脅かすなんて。エリーゼちゃん、今度酷い目にあったらおばさんに言うんだよ。うちの息子が衛兵なんだ、尻を引っぱたいとくからね!」
おばさんは手に持ってた箒をぶんぶん振り回してるわ!
なんと!これは悪いことしちゃったな。どの衛兵さんかは存じませんが余計なこと言ってごめんなさい。
そんな話をしたからみんないい気になったのか、飼料の買い付けは順調に終わった。ていうかめっちゃ安くしてもらったわ!
「いやあ安くして頂いてありがとうございます、助かりました」
「こちらこそお買い上げありがとう。もう冬も近いからそろそろ売り切っときたかったんだ、助かったよ」
お父さんとおじさんが握手してる。私は市場の人足さん達がまゆげちゃんに飼料を積み込んでるのに立ち会うことにしたわ。
いい感じに積んだら下の段を収納していく。そうしたらパッと見収納に入れたようには見えないの。
「これで全部だよ……あれ?もっと沢山あったと思ったんだけどな」
人足さん達は首を捻って考えてるけど私は何も言わないで黙ってました。
おじさんとおばさんに別れを告げて食料品や衣料品、雑貨の市場を見て回る。市場の道はかなり幅広いからまゆげちゃんを徐行させて、お父さんの目に止まったお店の前で停車、お父さんが品物を購入してはまゆげちゃんの荷台に積んだわ。
麦、お野菜、お肉にお魚、果物にお酒に調味料に塩や砂糖などいろいろ。ちょっと高いけど胡椒も買ったわ。
タオルや衣類、シーツなんかも買った。ポーションの材料になる薬草や魔石の粉も売ってたわ。
「実はまだうちから持ってきたお金に手を付けてないんだよ。さっきの卵と牛乳が異常に高く売れちゃってね」
「えええ、まだ材木を売ってないよ?」
「そうなんだ。街では材木は高く売れるのが分かってるからね、運ぶのが大変だから」
「そっか、なら雑貨屋さんで珍しい物を買って帰ったらマールの街の人が喜ぶんじゃないかしら?」
雑貨市場は私もついて行くことにしたわ。
雑貨市場で蝋燭やランプの油、鉛筆なんかを購入。これは普段使いにしては高級品だからみんな喜ぶわね。
あと、本や魔導具を購入。石鹸や化粧品、香水も購入。お母さんが喜びそうね。
「あっ!何これ!?」
そこにあったのは腕に嵌める時計機能の付いたバングル。渋めの金色で細くてカッコイイわ。
「おやお嬢さん、それは身体の魔素を使用して動く時計型バングルだよ。ネジを巻かなくても動くんだが使用魔素が多過ぎてみんな使えないんだ。良いもんなんだが売れない、困ったもんだよ」
お店のおじさんが私に説明してきた。申し訳ないけど使えないよ、って言うように。
「おじさん、魔素ってなあに?」
「魔素ってのは身体の中にある魔力の素だ。魔法を使ったりする時に使用するんだ。まあステータスが優れている人には『精神力』とか『mp』って表示されてるが、そんな奴は滅多に居ない。最近知られた能力値なのさ」
精神力?私は24万あるわよ。
「おじさんはなぜ知ってるんですか?」
「俺にもその『精神力』がステータスで見えてるんだ。昔から何の数値なんだろうって不思議だったんだけどな、その話を聞いて納得した。だって俺は魔法が使えないんで精神力が減らないからな!ハッハッハ!」
そっか、精神力って見える人にしか見えないんだ。私は見えてる。
でも『重機』のスキルを手に入れるまではステータスを見れなかったから、これはきっとスキルに作用して見えたり見えなかったりしてるんじゃないかな?
「ねえおじさん、そのバングルはどれくらい魔素…精神力を使ってしまうんですか?」
「ああ、1日中付けてたら1000位吸われてしまうぞ。ちなみに俺は精神力の値が120しかないから朝付けたら昼にはぶっ倒れちまう、ははは」
え?それって超余裕じゃん。
「お、お父さん!この時計型バングル、私欲しいです!」
私、思い切ってお父さんにおねだりしてみた!
「確かに…これはエリーゼの為にある様な物だな。ご主人、これ幾らですか?」
私達の話を聞いた雑貨屋さんは驚いた様子。
「あ、あんたら俺の話を聞いてたかい?倒れちまうんだぞ!?」
「大丈夫です。私精神力24万ありますから。1000なんて1%にも満たないわ」
「嘘つけ!」
「ほんとです〜!」
嘘つき呼ばわりされた!ひどーい!
おじさんはムッとした顔で後ろにある戸棚から何かの板を出してきたわ。
「これはステータスを計る魔導具だ。これで確認させてくれ!もし本当だったらそのバングルは嬢ちゃんにやるよ!」
「えええ、普通に売ってくださいよ」
「他人のステータスを見るんだから俺にだってリスクを負わせろ。それに見たものは絶対に他人に喋らない。商売人の誓いだ」
おじさんは自分の口の前で指を重ねてバッテンを作ってる。
おじさんのかわいい仕草か……得しないなぁ。
「お父さん、やってみていいですか?」
「そうだなぁ、この店主を信用するならやってご覧」
他人を見極める、商人にとっては大事なことね。でも、それをおいてもまずは人として他人を信用することからやってみたいわ。
騙されるのも勉強だし、だいたいステータスを見られても特に損はしないわ。
「おじさんを信じてみます」
私はステータス確認用魔導具の前に立った。
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