第16話 カバルの街

 ミノルおじさんは冒険者さんや隊長さん達と話があるそうでここで別れることになったわ。私は運んできた荷物を降ろし、お父さんと一緒にお家に帰ることにした。


 まゆげちゃんに乗って安全運転。


 辺りはもう薄暗くなってきたからヘッドライトを点灯させた。


 道を明るく照らすヘッドライトの灯を見たお父さんはビックリしてたわ。


「これは…夜も走れるのか!凄いな」


「あんまり遅い時間になったらまゆげちゃんのエンジン音がご近所さんに迷惑を掛けちゃう」


「確かに。だが、朝早く街を出て隣町まで行けば……下手をすれば3往復位出来てしまうな」


 行商が可能になりました!


 とはいえ明日は買い付けをしたらすぐに帰ることになると思うわ。だって、お店に商品がないんだもの。


「エリーゼ、明日はがんばろう。お父さんに考えがあるんだ」


「どんな?」


「隣町で買い付けをせず、もう3つ向こうの街まで行けば農作物やポーション類が安いんだよ。そこで買い付ければ利益が大きいし街の人に安く売る事が出来るんだ。商品が品薄で街の人に迷惑を掛けたからな、少しでもみんなに返したい」


 お父さんの閃きはみんなが幸せになるいい考えだと思ったわ。まゆげちゃんなら全然行けると思うし。


 街の外ならスピードも出せるしね。


「私、明日はがんばって運転するね。たくさん買って帰ってみんなに喜んでもらいましょ!」




 お家に帰ったら心配したお母さんが大慌てで飛んで出てきたわ。お兄ちゃんは泣いてた。


 どうやら今日の行動が人づてに伝わって、私が大怪我をしたことになってたらしい。


 お父さんがお母さんとお兄ちゃんにきちんと説明してくれたわ。


 お母さんにちょっぴり叱られたけど、たくさん抱きしめて貰えたから嬉しかった。


 その後晩ご飯にシチューを食べてから明日に備えて早く寝ることにしたわ。


 ちなみにお兄ちゃんとのハグはしませんでした。




 朝早くに起きて軽く食事をしてからお父さんと家を出ました。


 今日は学校に行けないからちょっと残念な気持ちだけど、私初めて街の外に出るからワクワクの方が大きいわ。


 街の門の所には衛兵さんが居て、私達を見るととびきりの敬礼をしてくれたの。


 ちょっとビックリしちゃった。


「衛兵さん、私達のこと知ってるんですか?」


「ああ、昨晩うちの隊長が珍しく酔っ払って帰って来てから上機嫌で散々語ってたぞ。『ウォール商会の所のお嬢さんが凄い凄い』ってな。知ってるっつーの、俺も昨日嬢ちゃんを見たし」


 もう!隊長さんったら恥ずかしいわ!


「気を付けて行ってこいよ。それと……マールの街の住民を救ってくれてありがとうな!」


 衛兵さんは再度敬礼をしてくれた。私達はお礼を返してから街を出たわ。




「出ろォーッ!まゆげちゃぁぁぁん!!」


 パチン!ゴゴゴゴゴ!


 地面から現れたまゆげちゃんに乗り込んでエンジンを掛けるとプルルンとご機嫌なお返事が帰って来たわ。


「よーし、発進します!」


 プルルルルルルルルルルルル


 アクセルを踏み込むと一気に時速60キロまで加速した。


「速いな!これが1番速いのかい?」


「いいえ?これが一般速度ですよ、お父さん」


「普通の荷馬車の3倍は速いな」


 普通の荷馬車は時速換算すると時速約10キロから15キロって所かしら。もちろん飛ばせばまだ速く走らせることは出来るけど、それをやったら馬車が傷むし馬がもたなくなるわ。


 やっぱりまゆげちゃんは高性能の異世界仕様ね。


 このくらいの速さじゃ殆ど揺れないし、なんといっても私の精神力が無くならない限り止まることがないわ。


 ミノルおじさんが言うには私の精神力1ポイントで4キロメートル以上走れるそう。ちなみに私の精神力、24万を超えちゃってます。


 100万キロメートル……どのくらいの距離かもう分かりません。


 その後順調に街道を20分くらい走ったら街のようなものが見えてきたわ。


「おっ、もう隣町が見えてきたな。速いぞ。普段なら荷馬車で3時間は掛かるんだ。途中で馬を休ませたりするからね」


「そっか、まゆげちゃんはこの速度でノンストップだからね」


 お父さんはちょっと考え込んで、ポンと手を叩いた。


「エリーゼ、あの街に寄って特産品を買っていこう。次の街に行ってからそれを売って、またそこで何かを買う。最後の街に着く頃には売った差額で目的の物が買えてしまうかも知れないぞ」


 出たわお父さんの閃き。私としては荷物を積んだ方がワーキングポイント溜まるからおいしい。


 よってお父さんの案はオッケーよ。


「了解、じゃ街に寄りまーす」


 街の名前はカバルって言うそう。この街の特産は酪農と畜産なんですって。


 街の門でまゆげちゃんをしまい、衛兵さんに商業ギルドの会員証を見せれば只で街へ入れてもらえる。


 衛兵さんは私のギルド証を見てビックリしてた。お父さんに聞いたら10歳で正規の商業ギルド会員証を持ってる子供は滅多にいないんだって。


 滅多にいないってことは、いるにはいるってことか。なーんだ。


 お父さんは市場で卵と牛乳を買ったわ。買うたびにまゆげちゃんを召喚しては積み込みをしたらみんながビックリしてた。


「これは私のスキルで呼び出せる荷車です!まゆげちゃんっていいます!」


 そう言って私が説明するとみんなニコニコしながら私を撫でてくれた。


 この2日間、なんだかよく撫でられるわ。まあ褒めてもらうのは大好きだからいいけど、なんだか子供扱いされちゃってるのは嫌だな。


 子供だから仕方がないけど。


 その後近くの農場で牧草を買ったわ。お父さんが牧草の束をまゆげちゃんの荷台にポンポン乗せていく端から空間収納に入っていくので農場のおじさんがビックリしてた。


「こりゃあ凄いな!沢山入るのかい?それならアンタ、牛や豚の食べる飼料を買ってきてくれんかね。飼料は重いから沢山運べなくて困ってるんだ。もう秋になるし、冬支度をしなきゃならないんだ。頼むよ」


「エリーゼ、飼料は目的地の市場で買える。帰りにここに寄って貰ってもいいかい?」


「はい、構わないわ。おじさん夕方に来ますから待っててね」


「夕方!?冗談が面白い嬢ちゃんだな。そんなに急がなくてもいいよ」


 おじさんは笑いながらそう言ったわ。信じてないなこれは。


「うふふ、おじさんまた後でね」


 私はそう言ってお父さんと手を繋いだ。お父さんの顔を見るとニヤニヤしてる。


 ふふ、お父さんも意地悪ね。気持ちは分かるけど。


 私も牧場のおじさんがまたビックリした顔をするんだろうなぁって想像しながら牧場を後にしたわ。

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