第17話 まゆげちゃんを見たらみんなビックリするよね

 次の場所は村だったわ。


 お父さんはそこで牧草を売った。小さい村だから牧草は中々の高級品らしい。まあ人が少ないから牧草をたくさん収穫するのが大変なんだろうな。


 まゆげちゃんから牧草が出てくるのを見た村人さん達はみんなビックリしてたわ。


 村人さん達はみんな各家で牛や馬を飼ってるそうで、牧草はたいへん喜ばれたわ。私は嬉しそうな村人さんを見て満足、お父さんは買い付けた牧草の売値との差額を見て満足です。


 その村で麻糸と布製品を買い付けてから次の場所へ急ぐ。


 次の場所も村で、同じように牧草はたいへん喜ばれたわ。そこは開拓地だったんで、切った木を頂いたわ。それもただで!


 なんでも切り倒した木を遠くの集積所に運ばないといけないらしく、そこには既にとんでもない量の材木が積み上げてあるんだって。


 だから今切り倒してる木はもう必要ないし、だからと言って放置も出来ないから細かくして焚き付けにでもするしかないそう。とっても面倒だって言ってたわ。


 持って帰ってくれてありがとう状態ってわけよ。


 お父さんも木こりのおじさん達もウホウホしただらしない顔してるわ。


 私とお父さんじゃ木を積み込めないんで積み込みは木こりのおじさん達がやってくれた。どんどん荷台に吸い込まれていくでっかい木を見た木こりのおじさん達ビックリしてた。


 また手伝って欲しいって言われちゃった。


 木こりのおじさん達に挨拶をしてまゆげちゃんを走らせる。トリップメーターはすでに100キロメートルを超えそう。


「お父さん、最後の街まであとどれくらいですか?」


「このまま走れば後30分掛からないだろうな。あれだけの売買をしてまだ昼前だ、凄いなぁ」


「帰りは牧場まで真っ直ぐ帰れるし、もっと速いわ」


「ああ、あの牧場主をビックリさせてやろう」


 お父さんと一緒に悪い笑みを浮かべながらまゆげちゃんを走らせる。




 木々が立ち並ぶ中を抜ける1本の道。ちょっとデコボコしてるけどしっかりとした幅の道。


 ちょっと窓を開けたら少し冷たい風が入ってくる。


 ああ、もう秋よ。私も11歳になるんだわ。去年の誕生日は何の新しいスキルが身に付くのか楽しみにしてたっけ。


 確か『教師』とか『歌手』とかになれればいいなと思ってたんだわ。


 まさか『重機』が手に入るなんてこれっぽっちも思ってなかった。


 うふふ、私はきっとラッキーね。


 だって『重機』よ?中々イケてるでしょ?きっと誰も持ってない私だけのスキルだもの!




 木々がまばらになってきた。


 なんだか嗅いだことのない匂いがする。なんだろう?


 木々の間、私達の向かって右側に見えたのはでっかい川……いえ、これ川じゃない!


 う、海だ!この香り、海の匂いだったんだ!


 す、凄い!海初めて見た!


 海って……空より青いわ!凄いなぁ……


 キラキラしててとっても綺麗。


 そして向かう先の地平線に人工建造物が見えてきた。あれって防壁!?すっごい大きいわ!


「おお!見えてきた。あれが今日の目的地、グレース市だ。グレースはこの辺りじゃ最大の都市だ。マールの10倍位の人が住んでるぞ。港もあるし市場もでかく、なんと言っても競争が凄いから物が安く買えるし珍しい物は競って高く売れるんだ!」


 お父さん楽しそうね!


 私は目の前に見える巨大な防壁の中を想像して震えちゃった。




 グレース市が近くなったからまゆげちゃんの速度を20キロまで落とす。周囲に馬車や荷車が増えてきたからね。


 でっかい門の前に沢山の荷馬車が止まってる。何してるのかな?


「あれは衛兵が荷物を確認しているんだ。街中に不審な物を持ち込まさないよう衛兵が検めてるんだよ」


「えっ!?じゃあ私達はどうやって確認してもらうの?空間収納に入ってるのを全部出すの?」


「いやいや、アイテムボックス持ちは魔導具を使って確認して貰うんだ。ちなみにアイテムボックスはかなり貴重な魔導具だったりスキルだったりするからね。受付はあっちにあるよ」


 みんなが通ってるでっかい門から外れた所にちっちゃ目の門があるわ。


 ちっちゃ目とは言え、マールの門よりは遥かにおっきいんだけどね。


 私はお父さんの指示に従ってその門にまゆげちゃんを走らせた。


 そして門の前で停車する。


 すると突然衛兵さんが数名出てきて槍を構えてこっちに向けてきたわ!


「と、止まれ!!そこの不審な荷車!」


 えっ!?なんで!?


 思わず涙が出た。


「こ、怖い!!お父さん!!」


 私はお父さんにしがみついたわ。お父さんは黙って私の頭を撫でてからまゆげちゃんのドアを開け外に出た。


 そして衛兵さんに話し掛けてる。


 話し掛けてる?あれ?お父さんが衛兵さんを突き飛ばした!


 お父さん、なんか怒ってる?すごい剣幕で衛兵さんを指さして喚いてるわ。


 ひとりの衛兵さんが兜を脱いでお父さんに謝り始めた。どうなってるの?


 お父さんはその人の首の辺りを掴まえて私の方を指さしてる。


 するとその衛兵さんは槍を別の衛兵さんに渡し、こっちに向かって歩いて来たの。


「お、お嬢さん申し訳ない!罪のない少女とその持ち物に向かって槍を向けてしまった!」


 衛兵さんが悲壮感満載でめっちゃ謝ってきた!私も慌ててまゆげちゃんから降りたわ。


「こ、こんにちは衛兵さん、私はエリーゼと言います!ウォール商会の荷物を運んできました。この荷車は私のスキル『重機』の力で生まれてきた『まゆげちゃん』です!お願い!まゆげちゃんを壊さないで!」


 私、まゆげちゃんを壊されたくない一心で必死にお願いしたわ!ポロポロ涙が出た。


「見ろ!貴様のせいで私の娘が傷付いてしまったではないか!どう責任を取るつもりだ!そこに商業ギルドのテイムシンボルが付いているだろう!貴様はそれを確認せずに槍を向けたんだ!それに娘はきちんと門の前に荷車を停めたぞ!何故話もせず槍を向けたんだ!商業ギルドを通じて厳しく抗議させて貰うからな!」


「し、失礼しました!全ては私の怠慢です!お許し下さい!エリーゼ嬢も申し訳ない!この通りだ!」


 お父さんがこんなに怒るのを初めて見たわ……こわぁい。


「お父さん、衛兵さんは謝ってるわ。まゆげちゃんを初めて見た人はみんなビックリするじゃない。きっと衛兵さんもビックリしたんだよ。もう怒らないで……お父さんも怖いよ……」


「うっ……す、済まないエリーゼ。お父さんは怖くないよ。ほらもういつものお父さんだ」


 お父さんがめっちゃキョドってる。うん、いつものお父さんだ。


 よかった。


「衛兵さん、まゆげちゃんには空間収納……アイテムボックスだったかな?それが付いてます。中身を確認してください。もう謝らなくていいですから」


「許して頂けますか?」


 茶色い髪の衛兵さんはしょんぼりした顔で私に聞いてきたわ。


「はい、まゆげちゃんを大事にしてくれるならいいですよ。衛兵さんは分からない物を調べて危険がないか確認するお仕事なんだから仕方がないんですよね」


 私は涙を拭って衛兵さんに笑いかけたわ。


 衛兵さんは一瞬だけホッとした顔を見せたけど、気を取り直したように明るい笑顔をしてみせた。


「あ、ありがとうエリーゼ嬢!ようこそグレースへ!さぁ、君の『まゆげちゃん』をこちらに!中身を検めさせて下さい!」


 私は衛兵さんに勧められて門の中にある荷車の停車位置までまゆげちゃんを走らせたわ。

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