第12話 マールの門で

 お父さんと手を繋ぎながら歩いてミノルおじさんの工房へ向かったわ。


 おじさんは私とお父さんを快く迎え入れてくれたの。


 結論としてはまゆげちゃんをしまっている状態でもちゃんと荷物は運べるしワーキングポイントも1600増えてた。


 どうやら重機に荷物を積みさえすれば、どんな形でも移動するだけで仕事をしたことになるみたい。


「こりゃあ早く次のトラック手に入れなきゃな!次は土砂なんかを運べるダンプがオススメだぞ!」


 おじさんもすごく喜んでる。


「エリーゼ、お父さんはミノルさんと話をしたいんだ。お前はまゆげちゃんの運転の練習と街の皆さんのお披露目をして来なさい。日が落ちる前に家へ帰るんだよ」


 ちょっと難しい顔したお父さんと、お父さんの言葉に苦笑いをしてるミノルおじさんに促されるようしてに私は工房から出されちゃった。


 何の話をするのかな?もしかしてケンカとかするんじゃないでしょうね?


 でもお父さんもミノルおじさんも優しい人だから多分殴り合いまではしないと思うわ、多分だけど。


 まあ大人の人のことはよく分からない。考えても仕方がないわ。


 気を取り直した私はまゆげちゃんに街中を走らせてあげることにした。




 3番通りを端から端まで往復してみた。人通りも馬車もまあまあ多くて練習になるし、たくさんの人がビックリしながらこっちを見てる。


「こんにちは!私はウォール商店の荷物運びをすることになりましたエリーゼでーす!荷物を運んで欲しい人は声を掛けてくださーい!」


 宣伝は大事!私はまゆげちゃんの窓を開け大きな声で通りに向かって呼び掛けながら運転したわ。


 何人かの気のいい人が私に向かって手を振ってくれている。私も手を振り返した。


 良い気持ち!


 3番通りを往復したら次は中央通りね。2番通りは私のお家があるから1番最後に回るつもりよ。


 商業ギルドがある中央通りはマールの街の目抜き通りで、他にも宿泊施設とか大型商店なんかがあるわ。普段私があまり来る所じゃないけど、まあ運転の練習だからね。


 プルルンとまゆげちゃんのエンジン音も快調快調!


 ここでは宣伝しないでそのまま通りを走ってみたわ。通りの1番端っこにある街の門の所まで行ったら衛兵さんが出て来たからビックリしちゃった!


 衛兵さんもちょっとビックリしてる!


 やばい!ここはまずしっかりご挨拶しなきゃ!


「衛兵さんこんにちは!ウォール商店の荷物運びのお仕事をすることになったエリーゼです。重い荷物を運んで欲しかったら私に声を掛けてくださいね!」


 衛兵さんに顔を覚えて貰ったらお得な気がするわ。私は衛兵さんに向かって宣伝を兼ねた挨拶をした。


「嬢ちゃん、アンタの乗ってる荷車は一体何なんだ?」


 衛兵さんの中からひとりのおじさんが声を掛けてきたわ。お兄ちゃんよりは歳上っぽい茶色い髪のおじさん。髪の毛と同じ色をした茶色い鎧がとっても強そう。


 私はまゆげちゃんから降りて衛兵さんにきちんと挨拶をし直したわ。座ったままじゃ失礼ですからね、レディの嗜みですもの!


「私エリーゼって言います。春の鑑定で『重機』って言うスキルをいただいたの。使い方が分からなかったんだけど、色々特訓して何とか使えるようになったらこの『トラック』って言う荷車を使えるようになったんです!凄いでしょ!」


 衛兵のおじさんは私とまゆげちゃんをジロジロ眺めたわ。


「凄いと言うか何と言うか……あ、確か春の鑑定会で意味不明のスキルを手に入れた子が居たって話だな。嬢ちゃんの事だったのかい?」


 ポンと手を叩く衛兵さん。


「はい、そうなんです。」


「それなのにこんな立派な荷車を10歳で動かせるスキルを持ってただなんて、周りの大人は見る目が無かったんだな!ハッハッハ!」


 意地悪な笑顔で笑った衛兵さん。


「それは仕方ないわ。私だってまゆげちゃんを手に入れるまでは分からなかったんですから。」


 だって異世界のスキルなんですもの!


「確かにそうだ。だけどな、その場に居た大人の中に1人でも嬢ちゃんに興味を持って知恵を絞ってれば、今頃その荷車…まゆげちゃんだったか?そいつに荷物を積んで色々出来たんだぜ?見る目が無いだろ?」


 確かにあの時はお父さんやお母さんまで私のスキルが意味不明だから使えないって思ってたもの。あの時川土手でミノルおじさんに会わなかったら私は未だに無能スキル持ちって言われてたのかも知れないわ。


 そう思うとちょっと悲しくなっちゃった。


 そんな私の顔を見て衛兵さんは慌てたように話しかけてきた。


「おっ!す、済まない!別に嬢ちゃんを悲しませるつもりはなかったんだ!俺はあの時鑑定会には行ってなかったが、後で嬢ちゃんの話を聞いて腹が立ったんだ。大人は狡いよな。自分の役に立ちそうな子供だけ見てそうじゃない子には興味を持たない。俺は以前からそういう子供達にこそ大人は注目して助けてやるべきだと思ってるんだ」


 そう言っておじさんはちょっと悔しそうな顔をした。強く握った拳が震えてる。


 もしかしてこのおじさんも子供の頃嫌な思いをしたのかもしれないわね。


「おじさん……ありがとうございます!でもね、ちゃんと助けてくれた大人だっていたのよ!その人のお陰で私はまゆげちゃんと出会ったの。それにお父さんは商業ギルドのおじさんに掛け合ってくれてまゆげちゃんでこの街の中を走る許可を取ってくれたし、お母さんはスキルが使えなかった私のことを働き者の頑張り屋さんだって言ってくれたのよ。素敵でしょ?」


 あの鑑定会の景色が私にも世知辛い物に見えたことを思い出したわ。


 でもね、私はたくさんの物を大人達から貰ったのよ。私はミノルおじさんから技術を、モジャおじさんから知恵を、ギルドのおじさんからその心意気を貰った。お父さんお母さんは私を大事にしてくれたわ。


 いちおうお兄ちゃんも堕落を誘うような甘言をくれたわね。あの人は駄目だわ。


「そうか…そんな大人も居たんだな。良かったな嬢ちゃん!」


「はい!」


 衛兵のおじさんは私を見て笑ったわ。優しい笑顔。


 この街のおじさんはみんな素敵な人ばっかりだわ!


 その時、門の方が騒がしくなった。私が門の方を見ると向こうから衛兵のおじさんより地味な鎧を身に付けた衛兵さんが駆けて来てる!


 何かあったみたいね。

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