第13話 爆走!安全運転
「どうした!?何事だ!」
「隊長!冒険者のパーティが帰って来ました!何だか大荷物の上怪我をしている様です!」
あれっ?このおじさん隊長さんだったんだ!私失礼なこと言ってないかしら?
「嬢ちゃん済まんな、ちょっと忙しくなった様だ。またいつでも話し掛けてくれ!」
そう言って門に向かおうとする隊長さん。
さっき衛兵さんは今帰って来た冒険者さん達が大荷物を持っている上怪我人も居るって言ってたわよね。もしかしたらまゆげちゃんに積んで行けばその人達も荷物も楽に運べないかしら?
「お、おじさん!もしよかったら私のまゆげちゃんで荷物と怪我人を運びましょうか?人は積んだことないけど、多分大丈夫です!」
隊長さんは振り返り、私をじっと見た。
「冒険者は何人だ!?」
「はっ!4人です!内2名が負傷!1人が荷を、もう1人が2人の人間を担いで戻って来たようです!」
「回復士の手配は!?」
「……冒険者ギルドか救護院に向かった方が早いかと!」
目を閉じて考えてる隊長さん。
「エリーゼ嬢!協力要請だ!今帰還した冒険者及び荷物を冒険者ギルドまで速やかに移送して欲しい!」
隊長さんの言葉に私はまゆげちゃんから飛び降りてお辞儀をしたわ。
レディはどんな時だってお淑やかさと礼節は忘れちゃいけないのよ。
「お受けいたします!何なりとお申し付けください!」
隊長さんはヘルメットを脱いで私に対し敬礼したわ。その口元に笑みが溢れてる。
「助力、感謝する!」
私はまゆげちゃんを格納したわ。そしてそのまま隊長さんに着いて行く。
「エリーゼ嬢!まゆげちゃんは!?」
くすくす、兵士さんがまゆげちゃんに『ちゃん』付けすると、なんだか可愛い!
「まゆげちゃんは私の眷属なんです。だから好きな所に出し入れ出来るんですよ」
「なんと!それは便利だな!」
「はい!」
がんばって門まで走ったわ。数人の兵士さんが集まって何かしてる。
そこには2人の男女が倒れていたわ。男の人は血塗れで意識が無いみたい。女の人は……左腕と左足が変な方向を向いてた。
2人共小さい息をしてる。とっても苦しそうだわ!
私は思わず顔を背けてしまった。でも、この2人を運ぶのが私のお仕事なの!
「た、隊長さん!この人達を運べばいいですか!?」
「ああ、頼む!」
「分かりました、皆さんちょっと離れてください!」
この人達は絶対に動かしちゃだめ。なんとなくそう思ったの。だから、この人達の下にまゆげちゃんを召喚しよう!
やったことないけど、きっと出来る!
「出ろォーッ!まゆげちゃぁぁぁん!!」
指を鳴らすと倒れている2人の周りに壁が出来た。その中からまゆげちゃんが現れたわ。
荷台には2人が乗ってる!成功よ!
「空いた所に荷物を載せてください!収納します!」
「君は誰だ!これは一体何なんだ!」
身体中から血を流しながら叫ぶ大きな男の人。きっとこの2人の仲間なんだろうな。急にわけ分からない荷車に仲間を乗せられて怒ってる。
でも、答えている暇なんかないわ!
「私はエリーゼ、商業ギルド会員です。この荷車の持ち主よ。あなた、後ろの荷台に乗ってください!早く!」
私は男の人に叫んだわ。もう一刻を争う状況、急がなきゃ!
「誰か、冒険者ギルドまでの道を教えてください!隣に乗って!」
私はまゆげちゃんに飛び乗りエンジンを掛ける。プルルンと音がしたわ。
「俺が行こう!」
隊長さんが隣に乗り込んだ。でも、隊長さんにとってまゆげちゃんはちょっと狭いようね。
「後ろの方!絶対に荷台から足を離さないでください!荷台には魔法が掛かってるから落ちません!そして出来れば大声で周りに注意を促して!スピードを出します!周りの人をはね飛ばしたらいけないから!」
「わ、分かった!」
「隊長さん!シートベルトを締めてくださいね。飛ばします!」
「しーとべると?なんだそりゃ?」
ええい!説明するのが面倒よ!
私は助手席に座る隊長さんによじ登ってシートベルトを締めたわ。そして私のも締める。
急いでギヤを入れクラッチを繋ぎアクセルを踏む!
ギャギャギャ!
軽くホイルスピンをしたけどまゆげちゃんは力強く走り出した!
は、速い!凄いスピード!
余りの速さに私の心臓がドックンドックンしてるのが分かるわ!
目の前のスピードメーターは70キロを差してる!私はクラクションを鳴らしながら中央通りを爆走した!みんな、お願いだから飛び出して来ないでっ!
「みんなぁっ!!どいてくれぇ!!早くしないと仲間が死んじまうんだ!」
荷台から声が聞こえるわ。あの、大きな男の人の声が!
声が頭の中を木霊した。
死ぬ……ひとが、しぬ!
パーーッパッパーー!!
クラクションでも注意を促す。そのまま中央通りを進む。
涙がポロポロ零れてくるけど拭ってる暇なんかない。
ふーっ!ふーっ!落ち着け私!
急ぎながら安全運転よ!
「確かエリーゼは商業ギルドを知ってるんだな!?冒険者ギルドは商業ギルドの道を挟んだ反対側だ!」
助手席に座ってヘッドレストを両手で握った隊長さんが叫んだわ。
「分かりました!ギルドに着いたら先に降りてください!私はまゆげちゃんをそのまま建物の中に乗り入れますから中の人や物を避けてくださいね。」
やるべきことをやるのよ!エリーゼ!今は1秒でも早く2人を運ぶのが私の仕事!落ち着きながら全速力よ!
「り、了解だ!」
隊長さんがお返事をした時、中央通りの1番奥が見えた。そこの左手が商業ギルドだわ。という事は、反対側の大きな建物が冒険者ギルドね!
私はまゆげちゃんを横滑りさせながら冒険者ギルドの入口に助手席のドアを横付けしたわ。
ドリフトって言うのかしら?そう言う運転方法はスキルのお陰で出来るようになってるわ。便利!
「隊長さん!」
「分かった!後ろの方!俺と共にギルドの中の物を避けて荷車が入れる様にするんだ!」
「お、おう!お嬢ちゃん!こいつらを頼むぞ!」
「はい!」
2人がまゆげちゃんから飛び降りて冒険者ギルドに入って行ったわ。私はギルドの出入口からゆっくりバックで中に入って行く。
ミーッ、ミーッ、ミーッ、ミーッ……
バックブザーの音がすればきっとみんな避けてくれるはず!
早く!早く助けてあげて!
ドックンドックンドックンドックン……!
心臓が口から飛び出ちゃう!
中に入ると机や椅子が端に寄せられて広くなってた。私はその真ん中にまゆげちゃんを停め、運転席から飛び降りた。
そして、荷台の左右と後ろのあおりを倒す。これで簡易ベッドの出来上がり!
「このままここで処置をして構いません!早く2人を助けてあげて!」
私は大声で叫んだわ。
ぷつり。
あっ!叫んだ途端緊張の糸が切れたのが分かったわ!
どうやらここが私の気力の限界だったみたいね。そのまま後ろに倒れ込んでしまった。
でも倒れる途中で身体がガシッと押さえられる。
「良くやったエリーゼ嬢!君は完璧に仕事をこなした!君は素晴らしい!後は、他の人の仕事だよ」
倒れたはずの私は隊長さんに抱き止められていたみたい。
薄れていく視界には数名の冒険者さん達が魔法を使ったりポーションを振り掛けたりしてるのが見えたわ。
はあ……良かった……
私は意識を失った。
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