第9話 ギルドマスターのおじさん
商業ギルド内は騒然となってた。
そりゃ床から訳わかんない荷車が現れたらみんなビックリしちゃうわ!
「お、お父さん、まゆげちゃんをしまった方がいいかな?」
「いや、今仕舞うと逆に騒ぎになる。この状況を利用して皆に理解して貰おう。エリーゼ、ちょっと怖いかもしれない、お前はまゆげちゃんの中に入っていなさい」
そう言ってお父さんはまゆげちゃんの運転席のドアを開けて私を中に入れたわ。
「エリーゼ、怖かったら窓を閉めなさい。だが絶対に走らせてはいけないよ。怪我人が出てしまうと交渉が出来ないからね」
「は、はい!」
私はお父さんに言われた通り窓を少しだけ開けてまゆげちゃんの中で大人しくした。
怖い!私とまゆげちゃんどうなっちゃうの?
するとカウンターの後ろにあった階段からお姉様と知らないおじさんが降りてきた。
白い髪をキッチリ固め、お口の上には白いお髭を切り揃えた目付きの鋭いおじさんよ。
カッコイイスーツがキマってて、お父さんより歳上な感じがするおじさん。
そのおじさんは私の方を見て駆け寄ってくる!怖い!
私は逃げ出したいのを我慢してまゆげちゃんのハンドルを握り締めたわ。
「御機嫌ようギルドマスター、お世話になっております!」
その時おじさんの前にお父さんが割って入ったわ。
「むっ!なんだ?邪魔するのか?」
「ええ、私は自分の娘を怖がらせないよう庇ったまでです」
お父さん、強気!1歩も引かないわ!
「おお、それは失礼した。その奇妙な荷車に入っているのは君の娘だったか。確かにこの勢いで近付くと怖がらせてしまうな。済まない」
「いえ、こちらこそお騒がせしてしまって申し訳ございません」
お父さんが頭を下げてる。
私が調子に乗ったからお父さんに謝らせてしまったんだわ。でも、冷静に謝罪をするお父さんは凄く頼もしかった。
「で、これは一体何なんだね?」
「はい、この荷車は私の娘が授かったスキル『重機』によって手に入れた自らの力で走る事の出来る荷車なのです。現在我が商会は契約していた御者が廃業してしまい商品の買い付けや運搬が出来ない状況なのです。私の娘は自らのスキルで荷を運ぶ事が出来ることを知り、我が商会の商品運搬を行ってくれると申してくれたのです。ですが、この様な奇妙な荷車を勝手に走り回すのは如何なものかと思い、商業ギルドへお知恵を借りに来たのです」
お父さんが長ゼリフ言ってる!噛まずに一気に話したわ。
やっぱりお父さんは直感や閃きで商売をするのが性に合ってるのね。
お母さんってばお父さんのことをよく見てるのね。流石お母さん!
「うーん確かにそうだな。だがこの荷車は娘さんのスキルなのだろう?それなら特に問題ないと思うが」
「しかしここでこの荷車を出しただけでこの騒ぎです。娘はこの荷車に『まゆげちゃん』と名前を付けてたいそう可愛がっています。私としては娘の所持品が他人に恐れを与える事で娘の心が傷付くを見たくないのです。先程の受付嬢の様な態度をされると娘は悲しんでしまいます」
確かに!私傷付いちゃったわよ。自信満々で美人なお姉様が脱兎のごとく逃げちゃうんですもの。人は見かけによらないって知っちゃった!
無精髭のおじさんや髭モジャのおじさんは良い人ってことも知ってるけどね。うふふ。
「うむ、確かにその通りだ。お嬢さん、名は何と言うのかね?」
「は、はい!エリーゼです!」
「先程うちの職員が失礼を働いた様だ、非礼を詫びよう。済まなかったな」
おじさんはめっちゃ綺麗なお辞儀をしたわ。このおじさん、カッコイイ!
この街のおじさんのカッコイイ率が高い件!
勿論お父さんも含む!
「お父さん、まゆげちゃんから出てもいいですか?」
「どうしたんだい?」
「だって、立派なおじさんがキチンと頭を下げてるのに私が座っていたら失礼だわ」
「………!」
「ん、分かった、エリーゼ、出てきなさい」
私はまゆげちゃんから降りておじさんの前に立ったわ。
きちんとお礼をしなきゃ。レディはどんな時だってお淑やかさと礼節は忘れちゃいけないのよ。
「おじさん、ありがとうございました。私を、まゆげちゃんを許してくださって。私はお父さんやお母さんを助けるためにまゆげちゃんに乗って働きたいんです!いっぱい荷物を運んでみんなに幸せになって貰いたいんです!」
一所懸命に喋る私をおじさんは厳しい顔をしたまま黙って見てた。
「おじさん、さっき薬屋さんの工房のモジャおじさんが、ギルドにお願いしたらまゆげちゃんを従魔登録出来るかもって言ってたんです。それをしたらまゆげちゃんは外を走れますか?みんなから怖がられたり壊されたりしませんか?」
私、本当に一所懸命頼んでみたわ。私のまゆげちゃんを守りたい、認めて貰いたい、みんなに好きになって欲しいから!
おじさんは私をジロリと睨み、お父さんの方を向いた。
「ウォール商店さん、あなたは良い娘さんに恵まれたな。いや、あなた方の教育の賜物なのか?」
「ありがとうございます」
「あなたの娘さんは確か春の鑑定会で意味不明なスキルを所持していると鑑定された不遇な娘だと聞いていた。だがどうだ?親思いで物を大切にする心があり勤労に対して勤勉だ。素晴らしい!更に、その不遇スキルはどうやら特別製ときたものだ」
おじさんは再度私の方を見て、ニッコリと笑いながら私の前にしゃがみ膝を着いた。
「おじさん、お膝が汚れちゃうわ!綺麗な服が台無しになっちゃう」
「いやエリーゼ嬢、私は服よりも美しい物を持っているつもりだ。魂、そう商魂だよ。その私の商魂が君を素晴らしいと言っている。君の関心を惹くためなら服の汚れなどどうでもいい」
そう言って後ろに控えてた受付のお姉様の方を向いたわ。
「エリーゼ嬢にギルド証を発行するのだ。Dランク移動店舗扱いでな。それと運搬用のテイムシンボルを持って来い。そうだな、その『まゆげちゃん』には羽飾りが似合うだろう。急げよ!」
「は、はい!!」
私、何が起こったのかさっぱり分からないわ。私にギルド証?まゆげちゃんにテイムシンボル?
私はお父さんの方を向いたわ。
「エリーゼ、立派だよ。お前は私の誇りだ」
「うむ、素晴らしい商人になりそうだ。おっと、私の決めゼリフを言わないといけなかったな」
おじさんは膝頭をパンパンと払い、元のキリッとした姿勢に戻った。
「私はこの商業ギルドのギルドマスターだ。エリーゼ嬢、ようこそ商業ギルドへ!」
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