第8話 商業ギルドに行こう!

「ミノルおじさんはモジャおじさんの工房の近くで魔導具を直してる職人さんなの。まゆげちゃんを直してくれたんだよ」


 私はお父さんにミノルおじさんのことを話してみた。とりあえず異世界のこととスキルのこと、訓練のことは秘密の約束なので、川土手で出会った時の話や工房のこと、奥さんが美人だったことを話したわ。


「うーん、何か要点が掴めないな。エリーゼ、お父さんに隠さず話しなさい」


 私を見つめるお父さんの顔は厳しい顔だ。


 父親の顔。


 私は凄く怖い気持ちになったわ。ミノルおじさんとの秘密の約束は話せない、でもお父さんはそれを聞きたがってる。


 私が心配だから知りたいのは分かってるの。でも、でも………


 悲しくなって涙が出た。


「お父さんごめんなさい、おじさんとの約束なの。ミノルおじさんが誰なのかは話せるけどおじさんの秘密は話せない……約束なの……ごめんなさい…」


 だって、約束だから!


 お父さんは立ち止まったまま私をじっと見てる。


 その表情が笑顔に変わったわ。


「そうか、エリーゼは約束を守る娘って事がよく分かったよ。そこまで言うならお父さんはもう聞かないさ。エリーゼが悪い事をしてないって神様に胸を張って誓えるならそれでいい」


「わ、悪いことはしてないわ!それは神様に誓えます!それにミノルおじさんも悪い人じゃないの!私がスキルのことが分からなくて困ってた時、助けてくれたのよ!」


「そうか、ならいいよ。うん、エリーゼも商人の子だね。約束は必ず守るのが商人の心意気だよ。覚えておきなさい」


「は、はい!!」


 私、思わず笑顔になっちゃった。お父さんはポケットからハンカチを出して私の涙を拭ってくれた。


 お父さんは優しくて立派な人。私お父さんが大好きよ。




 中央通りにある商業ギルドに着いたわ。大きな建物ね。3階建てで1階と2階は吹き抜けのホールになってるの。正面にズラーっと受付カウンターがあって、その上が2階になってるの。3階はここからじゃ分からないわ。


 前にも何度か来たことはあるけど、いつも『でかーい!』って思っちゃう。


 お父さんは私を連れて1番右奥のカウンターに行った。そこには『ギルド会員様専用相談受付』って看板が出てて、メガネの綺麗なお姉さんが座ってた。


「あのすいません、ちょっと相談がありまして」


「いらっしゃいませ、会員の方でしたら会員証をご提示下さい」


 お父さんは懐からカードの様な物を取り出してお姉さんに見せたわ。


「はい、ありがとうございました。ウォール商会様ですね、いつも当ギルドがお世話になっております。本日はどの様なご相談でしょうか?」


 お姉さん、仕事出来そう!カッコイイわ!青い髪を耳の上の所でピン留めして、後ろで纏めてる。


 私もこう言うイカした女性になりたいわ。


「ええと、娘のスキルについてなのですが、少々特殊、いえ、特異なスキルでして…それを我が商会で利用する為ギルドのお知恵をお借りしたいと思いまして……」


 お父さんはなんだかしどろもどろしてる。


 もう!私のまゆげちゃんを見せたら1発で説明出来るのに。


「どの様なスキルをどういった方法でご利用になられるのでしょうか?」


「あ、えーっと、何と言いますか、娘は半年前にスキルを手に入れたばかりでして、余り人様にお見せ出来るようなものでは無いと言うか……」


 だ、駄目だ!こりゃ駄目だ。


 お父さん、さっきはカッコよかったのに…なんか残念な気持ちだわ。


「お姉さん、私から説明してもいいですか?お父さんは私のスキルをまだ余り理解していないんです」


「はぁ、理解していない物を商会で利用する相談とはなんだか解せませんね」


 ほら、お姉さん疑ってる。


 私がしっかり説明するから!お父さんは黙っててね。


「それでは説明しますね。私のスキルは『重機』って言って働く荷車を扱えるスキルなんです。荷物が積めるので私の家のお店の商品を運んだり、よその街に買い付けに行く時に使いたいのですけど、余りにも珍しいので街のみんなを驚かせたり怖がらせたりしてしまうかも知れないんです。だから商店ギルドに相談して上手く使えるようにして欲しいんです」


 お姉さんは目を見開いて私を見たわ。


「まあ!小さいお嬢さんかと思ったらしっかりしていますね」


「はい、スキルを身に付けるのは大人になる練習の時期だからちゃんとしなさいってお父さんから教えて貰っています!」


「確かにそうですね、あなたの言う通りだわ。分かりました!私があなたのスキルを見てアドバイスしてあげましょう!」


 おおお!お姉さんカッコイイ!これは是非お姉様と呼ばせて貰いましょう!


「分かりましたお姉様!それでは私のまゆげちゃんをしっかり見て下さいね!」


 私は受付カウンターの前にあるホールの広間に向かって右手を差し出した。


「出ろォーーッ!まゆげちゃぁぁん!!」


 パチンッ!


 ゴゴゴゴゴという地鳴りと共に床からいつものピンクの壁が出てきたわ。壁が崩れて中から現れたのは私の可愛いまゆげちゃん。


「お姉様!これが私のスキル『重機』によって生まれた魔導トラック『まゆげちゃん』なのでーす!!」


 私は鼻高々にまゆげちゃんを紹介したわ。


「ひっ!ひええ!ギルマスーーー!!」


 振り向くとそこにお姉様は居ませんでした………解せませぬ!




「こうなると思ったから慎重に言葉を選んでいたのだ……はぁ」


 お父さん、ごめんなさい。

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