第7話 素敵なモジャおじさん

 プルルルルルルルルルルルルン


 可愛いエンジン音で軽快に走り出したまゆげちゃん。


 ミノルおじさんが私にも上手く運転出来るように足元のペダルの位置を上げてくれてた。


 フカフカのシートに可愛いピンクの空間、もう素敵!


 お父さんはちょっと居心地悪そうだったけどね。ずっと黙って座ってたわ。


 3分くらい走ったら瓶を返す工房が見えてきた。魔導具店『カーバンクル』より3軒隣にある薬屋さん『妖精の雫』の裏にある工房よ。


 ここでお薬を作ってるんだね。


「着きましたお父さん、工房主さんに声を掛けてきて。私は瓶を出しておきます」


「あ、ああ、そうだね。行ってこよう」


 お父さんったらまだ難しい顔してるわ。もうそろそろ現実を見た方がいいわよ?


 あなたの娘とまゆげちゃんはお父さんのお店をお手伝いしますからね。うふふ。


 フロントガラスのウィンドゥに書いてある『空き瓶』をタッチしたら荷台に瓶の箱が出て来たわ。


 て言うか、空き瓶140本あったの!?めっちゃ溜まってるじゃない!


 まゆげちゃんから降りたら工房からお父さんともう1人髭モジャのおじさんが出て来た。


 なんか、ポーション職人とは思えないくらいの髭モジャね!


「あー瓶はウォール商会さんの所にあったのか!そういやアンタの所は運び屋が居なくなったから苦労してるんだってな?うちもあそこだったから苦労してるよ」


「ああ…ついさっきまでそうだったんだけどな……ほら」


 お父さんはまゆげちゃんの荷台に手を掛けた。


「何だこの荷車は……おおっ!瓶がぎっしり詰まってるじゃねえか!これをアンタと娘が引いてきたのか?済まねぇなぁ」


「いや……引いてきたと言うか、乗ってきた?」


「はぁ?」


 はぁ?じゃないわ。このおじさん達埒が開かないわね。


「おじさんこんにちは!瓶は何処に降ろすんですか?」


「ああエリーゼちゃんこんにちは!瓶はこの奥の広場で良いんだが…まさか嬢ちゃんが運ぶのかい?止めとけって、重いぞ!」


「ええ、降ろすのはお願いします。私は近くまで瓶を運びますから。誘導お願いしますね。」


 そう言って私はまゆげちゃんに乗り込む。キーを捻ってエンジンを掛けた。


 プルルン!


「おおっ!?な、なんだ!?」


「離れてくれ、動くぞ。これはそう言う荷車なんだ」


 私はギアをRに入れてバックで広場までの路地を進み、1番奥まで行ってまゆげちゃんを停めた。


「ここでいいですか?」


「あ、ああ、いいぞ……てか何だこの荷車は!」


「まゆげちゃんって言います。トラックって言う乗り物なの。私の『重機』スキルで手に入れたんです。」


 私はえっへん、と胸を張ったわ。


「こら、エリーゼ、調子に乗るな!」


「ご、ごめんなさい……」


 怒られた。


「い、いや、これは調子に乗るだろうよ!凄ぇじゃねえか!これがあればアンタの店の商品も運び放題じゃねえか!」


「ま、まあそうなんだが……良いのかな?」


「私のスキルなんだから問題ないと思うんだけどな。」


 折角のスキルなんだから使わなきゃ!


「そうか、エリーゼちゃんのスキルは意味不明のスキルだって聞いてたが、それは誰にも分からないってだけで凄く有能なスキルだったんだな!」


 薬屋工房の髭モジャおじさんはそう言いながらワッハッハって笑ったわ。


 うふふ、髭モジャのおじさんは話が分かるわね!


 でもお父さんが言う通り、まゆげちゃんで街中を走り回ったら街のみんながビックリしちゃうかも。


 もしかしたら怖がったり、中にはまゆげちゃんを壊そうとする人が現れるかも知れないわ。


 それは困る、嫌だわ!


「どうしようお父さん、まゆげちゃんがみんなに嫌われない方法はないの?まゆげちゃんが怖がられたり壊されたりするのはやだな」


「うーん……」


 お父さんは腕組みをして考え込んだわ。正直お父さんの考え込みはろくな事がないのよね。


 お父さんは直感や閃きで商売をするタイプってお母さんが言ってたもの。お母さんがお金の事で頭を抱えちゃってる時によく愚痴ってる。


 すると髭モジャおじさんがお髭をゴシゴシしながら言ったわ。


「なあ、商業ギルドに相談して、従魔契約扱いにしたらどうだ?エリーゼちゃんの従魔として登録したら問題ないんじゃねぇかな?」


「モジャおじさんナイス!」


 私ったら思わずおじさんのこと『モジャおじさん』って呼んじゃった!やばい!怒られちゃう!


「誰がモジャおじさんだよ!ハッハッハ!まあ確かに髭モジャだけどな!」


 モジャおじさんはお髭を握りながらガッハッハって笑ってる。


 あり?怒られるかと思ったのに。


「エリーゼ、失礼だぞ!なんか済まんな」


「良いって良いって!モジャおじさんか、気に入ったぜ。エリーゼちゃん、今度から俺の事はモジャおじさんって呼んでくれ。またポーション運ぶ時は頼んだよ」


「はい!ありがとうモジャおじさん!こちらこそよろしくお願いします!」


 元気にお返事したわ。私はこのおじさんが大好きになりました。




 モジャおじさんと別れてお父さんと商業ギルドに行くことになったわ。


 商業ギルドはマールの門がある中央通りの1番奥、冒険者街の近くにあるのよ。


 もう荷物は無いのでまゆげちゃんをしまってお父さんに手を引かれて歩いてます。


 なんか久しぶりにお父さんと手を繋いで歩いたら嬉しいような恥ずかしいような気持ちになりました。


「お父さん、私の『重機』のスキル、お店の役に立ちそう?」


「そうだね、本当に上手く行けば絶対役に立つと思うよ。だけどねエリーゼ、幾つか聞きたい事があるんだ」


「なぁに?」


 お父さんはちょっと怖い顔をして私を見たわ。


「エリーゼ、ミノルおじさんって誰だ?」


 あれ?私ミノルおじさんの話したっけな?

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