第6話 私ががんばるの!

「ミノルおじさんこんにちは!まゆげちゃんいますか!?」


 勢い良く工房に突撃したからおじさんはちょっとビックリしてた。


「お、おう嬢ちゃんか、驚いたぜ!まゆげは居るぞ」


 おじさんが親指で差した方にはピカピカのトラックが置いてあったわ。


 え?それまゆげちゃん?全然雰囲気違うんですけど!


 この世のものとは思えない様なファンシーでファニーな鉄の箱がそこに居たわ。


 上側がクリーム色、下側がエメラルドグリーンに塗り分けされたピカピカなボディ。タイヤの真ん中、ホイールには輝く鏡のようなホイールカバー。ちょっと錆びてたボディも錆なんかひとつもないし、可愛い目の周りにもピカピカに光る銀色のカバーが。眉毛は磨かれて綺麗なオレンジ色、やっぱり銀色の縁取りがされてる。よく見るとあちこちに銀の縁取りがあったわ。


「す、凄い!これがまゆげちゃんですか!?見違えたわ」


「だろ?俺としてはもう少しスポーティな仕上げにしたかったんだが、乗るのは嬢ちゃんだ。だから可愛らしい仕上げにした」


「ミノルおじさん、センスいいかも……」


 やばい、超可愛いんですけど!!!


 前と後ろに表札がついてて、『エリーゼ01 まゆげ』って書いてある。中に入るドアには白い丸の中にオレンジ色で『01』って模様が付けてあったわ。


「外装だけじゃないぞ。内装もフカフカの白くて毛足の短いファーで出来たシートにした。内張りは柔らかなピンク色にしてみた。ハンドルはやっぱり定番の白だな。インパネ周りも白くした。長く乗っても飽きがこない。ついでに機能も弄ったぞ。ガソリンエンジンは燃料の問題があるから俺の開発した魔導エンジンに変えた。ハンドルを通じて嬢ちゃんの精神力をエネルギーに変換して走る。距離は1ポイントで4〜5キロ走れるぜ。更にルーフ上にとある技術で魔素を発生させるシステムを貼り付けてる。何やらオークの魔石と魔狼の魔石を魔導回路で結ぶと光や熱を魔素に変換出来るらしいな」


 ミノルおじさんは自慢げに捲し立ててる。正直後半の意味はさっぱり分かりません!


 とりあえず燃料と言うのが無くても私が精神力を消費したら走るのね。


「まだある!もし街の外を走っていて魔物に襲われたりしたら前面パネルに付いてる黄色いボタンを押せ。すると『M-Dシステム』が作動してオートバトルモードになるぞ!ちなみにM-Dシステムとは『まゆげデストロイモードシステム』の事でその車体に搭載された大量のサイコフレー……


「ああもうミノルおじさん!もういいから!あんまりいっぱい言われても分かんないから!」


「むっ、そうか、そうだな済まねぇ」


 なんかえげつない物がついているみたい。私、その黄色いボタン絶対触らないわ!


「所でちょっと聞きたいんですけど、まゆげちゃんにはどれくらい荷物が積めますか?」


「おっ!忘れてた!荷台には空間収納と重力魔法が掛けてあるぞ。容量は分かんねぇ、やれるだけやった。嬢ちゃんが念じたら吸い込まれるし、取り出したい時も手を翳して念じれば取り出せる。積載内容物は鑑定魔法を利用して助手席側のフロントガラスに映せるぞ。ちょっとした物は荷台に載せる事も出来るからな。重力魔法で物が落ちないし揺れないから壊れ物も安心だ!」


「すごーい!それならうちの商品の買い付けや運搬も安心ね。」


「トラックだからな!沢山運ばせてやれよ」


 ミノルおじさんは私の頭をガシガシと撫でたわ。


「親孝行してぇんだろ?頑張りな!」


 おじさんのガシガシはちょっと痛かったけど、気持ちよくて誇らしい気分になりました。




「まゆげちゃん戻って!」


 私がそう唱えるとまゆげちゃんは地面に沈んでいっちゃった。


「ミノルおじさん、実は『重機』スキルがLV2になったの!また来た時にお話するわ!」


「おう!急いで帰んな。お父さんとお母さんをビックリさせてやれ!」


「はーい!またね!」


 私はおじさんの工房から駆け出した。おうちまで走って10分かからないけど早く家族にまゆげちゃんを見せたいわ!


 お家に帰ったらお父さんとお母さんがお店の前に立ってたわ。


「ただいまお父さんお母さん!」


「お帰りエリーゼ、お母さんから聞いたぞ。何か店の商品を運ぶ方法があるって言ったんだって?」


 お父さんはお母さんから話を聞いてたみたい。少しお顔が不貞腐れてるから話半分で疑ってるんだろうな。


「あのね、まずは私のスキルの事を聞いて欲しいの。『重機』のことなんだけどさ、あのスキルの秘密が分かったのよ!」


 私が捲し立てて話してるのを聞いてお父さんもお母さんも明らかに顔色を曇らせたわ。


 何か言いたそうにしてる。でもここは押し込む!


「私のスキルって実は異世界のスキルだったの。よその世界の働く車を使える様になるスキルなのよ。その車に荷物を積んだら何処へだって運べちゃう!見て!これが私のスキル『重機』の力よ!」


 私はお庭に向かって右手を差し出した。


「出ろォーーッ!まゆげちゃぁぁん!!」


 パチンッ!指を鳴らす。


 ドドドドドドドドドド!


 地響きと共にお庭からピンク色のブロック塀が生え、中から可愛い私のトラック『まゆげちゃん』が姿を現したわ!


「うおおお!?」


「あわわわわ!!」


「お父さん!まゆげちゃんの荷台に何か載せてみて!」


 お父さんはポカーンと口を開けて突っ立ってるわ。お母さんは座り込んで声も出ない。


「お父さん!」


「あ、ああ……荷物か、分かった!」


 慌てて走り出すお父さん。倉庫から空のポーションの瓶を出してきたわ。それをまゆげちゃんの荷台に積んでいく。


「お父さんあるだけ積んでみて」


「分かった、これは工房に返さないといけない瓶なんだ。こんなに増えたから返そうにも運べずに返しに行けなくなってたんだ」


 それは好都合ね。工房はミノルおじさんの工房のある3番通り辺りにあるわ。


 道も知ってるし、今の時間はお昼過ぎで人通りも少ないから安全よ。


「よし、これで全部だ。もういっぱいになったぞ。」


「大丈夫!ミノルおじさんが空間収納を付けてくれたからまだ積めるからね。じゃあお父さん、まゆげちゃんに乗ってね」


「これ、乗れるのか!?」


「私が運転するのよ。『重機』ってそう言うスキルだったのよ!」


 運転席に乗り込んでキーを捻るとプルルン!と魔導エンジンが鳴いたわ。


「……母さん、ちょっと行ってくる」


「あ、あなた!?……いえ、いいわ。エリーゼ気を付けてね」


「はーい!行ってきます」


 よし、初めての運転よ。気を付けて出発するわ。


 前方よし!後方よし!左右よし!もう一度前方よし!!


 行くわよ!はっしーーん!!

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