第3話 無能なスキルなんか無い!

「アンタがもっと大きかったら1杯やりながらといきたいが、まだ子供だからそうはいかんだろ。ここで聞かせてやろう、いや、語らせて下さい!」


 こっちが聞いたのになぜか語らせてくれとお願いされたわ。


「重機とはまず『重機関銃』の事だな。重量の比較的大きい数人で扱う機関銃で命中精度が高く長時間の連続射撃が可能だ。でも嬢ちゃんは『トラック』『リフト』って言ったろ?ならこれは違う。『大型工業用機械』も重機って言うけど多分これも違うな。つーことは、嬢ちゃんの言う重機とは、土木建設に用いられる機械、この場合は多分車輌だ」


 な、なんかこのおじさん生き生きと喋り出したわ!気持ち悪っ!


 でも私の知らないことを知っているんだもの、黙って聞こう。


「嬢ちゃんが言った『トラック』とは、主に貨物の運搬に用いられる荷台を備えた車輌で、本来は無蓋貨物車輌の事なんだが現在は貨物自動車全般をトラックって言うんだ」


「よく分かりません。」


「ああ、言葉が難しいか?」


「しゃりょーとか、じどーしゃって、何?」


「そっからか!車輌とはタイヤの付いた箱だな。馬車の後ろに付いてる荷台なんかが車輌だ。自動車とはその馬車の荷台が馬で引かなくても自動的に走行出来る装置が付いた車輌の事だよ」


「むむむ……トラックって言うのは、馬が居ないのに走って行く荷馬車のこと?」


「まあ、そうだな」


「気持ちわるぅ!!」


 荷台だけが勝手に道を走ってたら、お化けに取り憑かれてるのかと思われちゃいそうよ!


「見たら分かるよ。全然気持ち悪くないさ。それどころかかなりイカしてるぜ」


「えー。じゃ、『フォークリフト』って何?」


「フォークリフトとは、油圧機構を利用して昇降や傾斜が可能な荷役用の爪を車体前面に備えた荷役自動車の事だ。箱状の重い荷物を素早く運べる」


「えー」


 それはマリアちゃんのお兄さんと同じってことかな?いつもうちの荷物を担いで荷馬車からお店からと運んでる。


 筋肉ムキムキなんだから。


「えー、ってなんだよ。タイヤ式フォークリフトはちゃんと平らな地面の上なら荷馬車を運ぶ事だって出来るぞ!」


「それは嘘だ!」


「ホントだよ!馬車なんてよっぽどじゃなきゃ1つ500kg位のもんだろ?2.5トンフォークリフトならその馬車を5個積んで走れる計算だぞ!」


「す、凄い!」


 それがホントなら私すっごい力持ちになれるんじゃないかな!?


 でも、そのスキルの使い方が分からないわ。


「使えないんじゃ意味が無いわ。やっぱり役立たずスキルなんじゃないかな」


「おい、スキルってのは有能だから技能=スキルなんだぞ?無能なスキルは存在しない!もしあるとしたらそのスキルをちゃんと使いこなせないソイツのせいだ!」


 ミノルとか言ったおじさんの言葉が胸に突き刺さる。涙が出たわ。


「おっおっおっ!ど、どうした!?なんで泣いてるんだ?」


「だって……スキルの使い方分かんないんだもん……ぐすん」


「そりゃしょうが無いぜ、だってそのスキルは手に入れたばっかなんだろ?なら使いこなせなくて当たり前だ。練習や訓練無しでスキル使える奴はいねえし。だから心配すんなって、泣くなし」


 ミノルおじさんはあたふたしながら私を慰めてくれたわ。


「スキル画面には何て書いてある?」


「ぐすん、あのね、『重機購入画面 LV1ラインナップ』ってのがあって、よく分からないwpって数値が書いてあるよ。『4トンフォークリフト 750万wp、2.5トンフォークリフト 280万wp、0.5㎥ホイールローダー 450万wp』みたいな感じなの」


「何だ?定価か!高ぇな!そこのどこかに『中古』ってのがあるんじゃないか?」


 あっあるわ中古って文字!ミノルおじさん凄い!私のスキルステータスが見えてるみたい!


「あります。えーっと『550ccトラック(中古) 0/500,000mpって書いてあって、その後ろに書いてあるのが『現在のwp=0 貯蓄mp=0』です」


 おじさんはウーンと腕組みしながら顎に手を当てた。


 無精髭をゴシゴシしてるわ。


「mpか……もしかしたら精神力の事かもな……wpは俺にも分からない。おい嬢ちゃん、精神力は幾つある?」


「まだレベル1だから、25です」


「レベル1で25ったら滅茶苦茶多いな!そうだな、それをそのスキルステータスに入れる事は出来ねぇか?」


 私はスキルステータス画面を触ってみたわ。


 あっ!貯蓄の所を触ったら数字が増やせるわ!指で弾いたら0から25を選べるようになってる。


「出来そうです」


「分かった、これから言うことは秘密な。いいか、今晩から寝る前に余った精神力を全部そこに入れるんだ。そうすると『精神力枯渇』状態になって気絶する」


「ダメじゃん!」


「最後まで聞け、だから寝る前なんだ。そうすれば明日の朝には精神力が回復してる筈だ。誰にも迷惑掛けない。更に『精神力枯渇』になるとな、精神力が鍛えられて最大値が増えていく。増えたらその分沢山貯蓄出来る様になるだろ?それで500,000mp満タンになったら中古の重機を手に入れる事が出来るんだと思う」


「何故言っちゃいけないの?」


「理由は2つ、1つ目は精神力枯渇状態での訓練は一般的に危ないとされているんだ。実際は危険なんかないんだけど気絶するからな、それが危ないんじゃないかと思われてるからやる奴がいねぇ。2つ目の理由は、そんな気絶しちまう様なやり方は嬢ちゃんの父ちゃんと母ちゃんが心配しちまうだろ?」


 ミノルおじさんの説明を聞いて分かったことが幾つかあるわ。


 どうやらこのおじさんは只者じゃないわ。悪い人ではないと思うけど、普通の人じゃない。


 だって色んなことを知ってる、いや、知り過ぎてると思うのよ。


 でももっと分かったことは、このミノルおじさんと言う人は私や私の両親の心配までしてくれるとっても心が優しい良い人だということ。


「ミノルおじさんありがとうございます!私がんばるわ!もし精神力が貯まって中古トラックを手に入れれるようになったらまた会ってくれますか?」


「良いぜ!て言うかトラック見せて下さい!お願いします!」


「その時にミノルおじさんの秘密を教えてね」


「秘密……なるほど分かったよ。まあ俺は3番通りにある魔導具屋の裏で魔導具のメンテナンスをやってる。ちょくちょく来てくれや」


「イタズラされたら困るから遠慮します」


「しねぇし!俺嫁さん居るし!」


「居るの!?」


「失礼な奴だな!じゃあな!」


 ミノルおじさんはワハハと笑って手を振りながら行っちゃった。


 おじさん良いこと言ってたな。


『スキルってのは有能だから技能=スキルなんだぞ?無能なスキルは存在しない!もしあるとしたらそのスキルをちゃんと使いこなせないソイツのせいだ!』


 私も帰ろう。帰ってお父さんとお母さんにありがとうって言おう。


 私に素敵なスキルが付くように生んでくれてありがとうって!



 お兄ちゃんには……黙ってよう。

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