第16話 応接室①

 その応接室の中に居たのは、あのブロンド髪のおっさんと睨まれていた黒髪の少女だった。


 ブロンド髪のおっさんは俺を見ると「お、来たか」と挨拶代わりか手を上げ、席に座るよう促す。

 促された通り席に座ると、ブロンド髪のおっさんが咳ばらいを一つして話し始めた。


「……まずは自己紹介からだな。

 私……いや俺の名前はティーンス。

 こんな寂びれたおっさんだが、一応A級冒険者だ」

「——っ!?」


 俺はまさかのランクに目を見開いて驚愕する。


 A級だと!?C級で町が半壊くらいだから……つまり簡単に言えば、この人――ティーンスさん一人でこの街を滅ぼせるほどの強さって事か!?ぶっ飛んでるな!流石ファンタジー。


 ちらりと横の少女を見て見るとこちらはなぜか納得気に頷いていた。


 ああ、この少女、このティーンスさんを断りもなく鑑定して怒られてたな。その時、知ったのだろう。この人の能力値を。


「それで、二人の名はなんという」


 ティーンスさんのその言葉に我に返る。

 そしてどうやら二人の視線が俺に向いているので、流れ的に俺が自己紹介した方がいいだろう。


「俺はフィエル。

 ティーンスさんは先程俺の事を若いといったが、これでも34歳だ。

 今回はよろしく頼む」


 そう言うと二人は衝撃を受けたような顔になった。

 ん……?何か俺おかしなことでも言ったか?


「そ、そうか。

 私と五歳ほどしか変わらないとは。君はエルフか何かだったりするのかい?」

「え?いや、人間だが……」


 また衝撃を受けたような顔になるティーンスさん。

 俺ってそんなに若く見えるのだろうか……。まあ確かに昔は童顔だとは言われたが、会社で働いていると全然言われなかったので自分が童顔だと忘れていた。


 それにしてもこの少女はいつまで俺の顔を見てるんだ?

 次は君の番だ。とジト目で訴えかけると「あっ」とハッとしたように言った少女は姿勢を正した後、話し始めた。


「私の名前はニーナ!職業は賢者っす!

 あっ、歳は乙女の秘密だから言わないっすよっ?」


 快活な笑顔を浮かべた少女――ニーナは右手をピンと上げながらそう名乗った。


 って待て待て待て!?今賢者と言ったか!?

 俺のそんな思いが顔に出ていたのだろう、ニーナはニヤリと笑うと胸を張って口を開く。


「ふっふーん、羨ましいっすよね?

 そこは優しいニーナちゃんが、賢者の職業付属スキルを教えてあげるとしましょう!」

「いや、自慢したいだけだろ」

「ふ、ふふ。負け惜しみっす!

 で、賢者の職業付属スキルは――」


 そうしてべらべらと喋り出した内容は明らかにチートでは?って内容だった。


 魔力操作、感知を初っ端からレベル8で使えて、更に酷いのが最初から基本七属性が全てレベル3で使えてしまうという話。

 なんだよそれ。なんでまだ最初の街に留まってるんだよ。その意見が思わず言葉に出た。


「な、なんすかっ、私が最初の街に留まってちゃいけないんすか!!」

「いや、そうは言ってないが……ニーナ程の職業があればすぐにでも、次の街に行けたんじゃないかと疑問に思っただけだ」


 するとニーナは少し俯いてポツリと言葉を零す。


「……私、魔力が少ないんすよ。直ぐに魔力切れ起こしちゃうので、次の町まで行けてないんっす」

「ああ……なるほ――ん?」


 おかしいな、例え魔力が少なかろうとも、この辺りの魔物ならばレベル2程の魔法で斃せる上に、魔石が手に入る。だったら魔石を消費して魔法を放てるはずだが……?

 まさか……


「ニーナ、掲示板とか見てるか?」

「え?いや、見てないっすけど」

「……見た方が良いぞ。魔石を使用して魔法を放つ方法とか載ってるぞ」

「……え?え、マジっすか!?」


 ニーナは目の前でウィンドウを操作しているのか、空中で指を動かすと目を見開いて驚く。

 やはりか、こいつ掲示板全然チェックしてない勢か。


「……フィエル、お前たち職業がどうとか一体何の話をしているんだ?」


 一人だけ話に参加していなかったティーンスさんが問いかけてきた。

 非常に困惑した顔だ。


「……?何と言われても、自分が就いている職業の話だが」

「何言ってるんだ?お前たちが就いている職業は冒険者だろう?」


 出会ったばかりとはいえ、この人が冗談を言うような人ではないと思う。

 もしかして、この世界の住人NPCは職業を持っていない……?


 俺はティーンスさんに対してプレイヤーの職業について軽く説明をした。


「はぁ、なるほどな。通りで」


 ティーンスさん曰く、知り合いの冒険者も講習を受け持ったらしいが、それに参加したプレイヤーが思いのほか強く、ぐんぐん成長するそうだ。

 それに文字も書けると来た。加えてインベントリという自分だけの収納空間もある。荷物持ちには最適だ。と評判があるそうだ。


 中にはプレイヤーを飼殺し――つまり、いいように顎で奴隷のように使う冒険者もいるという。


 俺は深刻な話に内容が傾いてきているのを悟り、生唾を飲み込んだ。


「まだこの街にはそういった冒険者が来てないようだがな。

 お前たちはくれぐれも外なる旅人……ぷれいやー?だって事は隠した方がいい」

「分かった」「……っす」


 俺は深々と頷いた。

 しかし、俺は心の中で思った。


 飼殺しにされたんだったら大人しくこのゲームを止めればいいんじゃないか?最悪、キャラクリし直すって言う手もある。


 そう思っているとティーンスさんが渋柿を食ったような顔で言う。


「俺は、外なる旅人は死んでも生き返るという話を聞いた事があるが、それは虚構だと確信している」

「「……え?」」


 俺はまさかの言葉に硬直する。


「確かに殺されれば、街の広場や安全地帯で復活するのを見た事があるが……。

 それは魔物だけの話だ。魔物以外の生物に殺された場合、復活はしなかった」

「——っ」


 それってつまりどういうことだ?

 もし人間に殺された場合、俺は、フィエルというキャラクターは死んでしまうという事なのか……?それとも、現実の俺も死ぬのか?

 どちらにしても恐ろしい。この世界の住人すべてが、下手したら自分を殺せる者に見えてしまう。


 そこまで考えた時に俺はチラリと覗いた掲示板の情報を思い出した。


『最前線組のプレイヤーが冒険者に殺されてリスポーンしなかったのってマジ?』


『なんか、現実世界でステータスウィンドウが見えるんだけど』


 前者は『嘘乙』とか『いじけてデータ消したんじゃね?』とか言われていたが、後者の事に関しては肯定する人が多かった。


 そう言うノリかと思って流し見していたが、もし本当だとしたら?

 このVRだと思っていた世界が、実在する世界だとしたら?


 俺はそれでも悪役を目指せるだろうか。

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