第17話 応接室②
「あー……。
お前たちがどんな世界から来たのかは知らないが……いや、上辺だけは聞いた事がある。
魔法や魔物がいない世界なんだってな。この世界、リンファーレに慣れるのは大変だと思うが、俺が十分にアシストしてやる。だから安心しろ」
俺達が愕然とした表情をしていたからだろうか、頭を掻いて気まずそうな顔をしたティーンスさんがそう言葉を掛けてくれた。
そして皮膚のぶ厚そうな、明らかな武人と言った手で俺達の頭を撫でる。
撫でるまではしなくていいとは思ったが、大人しく撫でられた。
妙に安心感のある手だった。
ラピも俺に体を寄せてくれた。それらが俺には深く沁みた。
「ん……?これって、現実に帰ったらこっちの世界と同じステータスを発揮できるって事っすよね?
……私達、勝ち組じゃないっすかっ!!」
現時点ではまだ憶測だが、この世界で魔物以外に殺されたら事実上の死に繋がるという話から立ち直ったニーナは掲示板を再度確認して、目に希望を宿していた。
確かに地球で魔法を、このステータスを行使できるとしたら間違いなく凄い事になるだろう。
いや、凄いで片付けてしまうには少し危ないか。
力を得た人間がとる行動。
一瞬想像しただけでも完全にアウトだ。それを止めうるのはやはり各国の防衛・取り締まる機関。
しかし、下手したらあと一ヶ月もする頃には最前線組はB級に至るだろう。
掲示板でちらりと見た話だが、B級はもう既に人外の領域だと書かれていた。
素肌で矢をも弾くそうだ。そんなのが現実世界に行ったらどうなる?下手をしたら銃弾が効かない。A級、S級ともなれば核でも殺せなくなるかもしれない。
そんなのもう、どうしようもないじゃないか。
だから俺もそんなバカげた強さを持つ人間たちに対抗できるように、力を得る必要がある。それに悪役も――。
この世界の住人が生きていると仮定して、それでも俺はこの世界の住人を、罰を受ける必要もない人間を、悪役として殺せるのだろうか?
今はまだ、答えが出そうにない。
先程、ティーンスさんから俺の職業を聞かれた。
俺は少し言うのを渋ったが、これから一緒に行動するのだから把握したい。把握した上でどう行動するべきか指南するからと言われてしまった。
そう言われては断れない。
俺は職業を教えた。
意外にもニーナは笑ったりしなかった。ただ哀れみの目を向けてきただけだった。
まあそれでも心には来たがな。
ティーンスさんは俺が不遇職だと知っても哀れむことは無かった。
何故か俺のスキル構成を知っていた彼は、よく工夫して戦っていると褒めてくれた。
加えて【錬金術】で作ったポーションを見せてくれと言われた。
その時は意図が良く分からなかったが、悪いようにはしないだろうと思い、初級回復ポーションを渡した。
「ふむ、錬金術の腕も良いみたいだな。品質がBとは、結構凄いぞ」
だが、ここで満足してはいけないのは分かるよな?」
品質Bだと分かるという事は、ティーンスさんも鑑定を持っている……?又はそれに準ずる品定め方法があるのか。
「あ、ああ」
俺は褒められたことに動揺しつつも頷いた。
ここで満足してはいけない。
わかっている。
実際、それは実力面でも製作面でも将来ずっと言い聞かせれることだと思う。
それに品質がAになるとどうなるのか、この手で確かめたいというのもある。
「フィエル、君は恐らく品質Bがどれだけ凄い事なのか分かっていない。
……これを全て自らの手から作れる者はこのリンファーレに一千万人に一人といないだろう」
「そう、なのか」
全て自らの手から。
それは恐らく俺の採取の出来の事も含まれているだろう。
薬草の品質は製作物の出来に直結する。
それにしても一千万人に一人とは驚きだ。
目算だとは思うが、それが合っているとしたら命を狙われてもおかしくない。
「これも、隠す必要がある。という事だな」
「そうだ。
恐らく君は鑑定されたら一たまりもない。だから隠蔽系の魔道具を獲得するためにダンジョンに行くことも視野に入れないとな」
ティーンスさんはそう言って、空中に出来た穴に手を突っ込むと何かを取り出した。
あれは……インベントリのような物だろうか?
空間に突然ブラックホールが現れたかのようだった。
「お前たち、これを身につけていろ。
これは後輩を気にかけた先輩からのプレゼントだと思えばいい」
そう言いながら黒い宝石がはめ込まれたブローチを渡してくれた。
綺麗な宝石だ。
その宝石をまじまじと見ると、黒の中に白い点々があるのに気づく。
まるで宇宙をこの宝石を介して覗いている様だった。
==========
【魔黒石のブローチ 等級:B 品質:S 分類:魔道具】
詳細:魔黒石を主体としたブローチ型の魔道具。
他者からの下位鑑定系スキルをレジストする。また、他者へ鑑定返しをする。
我を覗く時、我もまた貴様を覗いているのだ。
付与:下位鑑定系スキル抵抗、鑑定返し
製作者:???
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等級B!?品質S!?
こんな物を易々と贈ってくるなんて……流石はA級というべきか。
それにしても下位鑑定系スキル抵抗……要はプレイヤーの持つ鑑定を弾く効果があるようだ。加えて、鑑定返しまで。とても有用だ。
受講費1万Rより絶対高いだろこれ。
ティーンスさんはなんでこんな強力なものをプレゼントしてくれたのだろう。
あれ、そういえばさっきティーンスさんが隠蔽系の魔道具を獲得するためにダンジョンに行くとかどうとか言っていたが、このブローチで事足りるのでは?
俺の考えている事を察したのかティーンスさんは付け足す。
「ああ、勘違いするな。
それにはレジストできるのは下位鑑定系スキルだけだ。
それより上位の鑑定を持っている人間は驚くほどいるぞ。
だからダンジョンにより上位の隠蔽魔道具を獲得しに行く」
俺は理解したと頷く。
横を見るとニーナが中二病ポーズをとって、ぶつぶつと呟いていた。
原因は分かる。見てないフリをした。
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