第15話 冒険者ギルドにて

「おい、あれって……」

「嘘だろ?なんだってこんな辺境の街に……」

「まさか外なる旅人の取り締まりに来たって言うのか?」

「確かメバロの街に来てたって噂があったが……」


 飲んだくれていた男達が口々に呟く。

 何人か酔いも醒める程の出来事だったようで顔を青くして固まっている。


「……そこのお前とお前、それと君も」


 睨みを飛ばされたのであろう、掲示板近くに立っていた黒髪の男と茶髪の男。そして黒髪の少女は同様に「――ひっ!?」と震え上がる。


 無理もないだろう。

 横から見てもあんな鋭い眼光を浴びせられたら俺だって腰抜かすね。


「無暗に人を鑑定するんじゃない。

 竜種にでもしてみろ、文字通り首が飛ぶぞ」


 そう言って男はこちらに目を向けて歩き出す。

 いやこちらというよりかは、受付係に目を向けてか。


 それを見届けた黒髪の少女はへなへなと床に崩れ落ちるように座った。


 ……ってか、あぶねえぇええええ!!

 俺も鑑定しようとしてました!ゴメンナサイ!!


 にしても強大な魔物の襲撃とかじゃなくてよかったぁ……現時点の俺じゃ歯が立たないだろうしね。

 にしてもこのダンディーなおっさん?明らかに強いだろ。


 冒険者にしては駆け出しにしかあり得ない軽装だが、何より内包する威圧感と魔力量が半端ねぇ。今日戦ったアサシン・フォレストウルフが小枝のように見えるわ。

 年齢は俺の少し上くらいだろうか?顔の年季というか、そう感じさせる。


「あの……フィエルさん?

 それで、どうされますか?」


 俺より先に復活していた受付嬢が尋ねてくる。

 恐らくは先程の昇格試験の話だろう。ああ、一応あの話もしないとな。


「昇格試験の事だよな?受けるぞ。

 後、『冒険者講習』も頼みたいのだが」

「承りました。では、一万R頂きますがよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 俺は大銅貨一枚を渡し、代わりに番号札を渡された。


「この番号が呼ばれましたら受付までお越しください」


 との事だ。

 呼ばれるまで時間が掛かりそうなので俺はこの酒場でさっさと昼飯を済ませてしまおうかと、空いていた丸テーブルの席に座る。


 カウンターテーブルの上に大きく張り出されているメニューを見て、なるべく早く食べれそうなものを代金を払い注文する。

 そうして届いたものを咀嚼する。


 頼んだのは野菜多めのサラダチキンである。

 この世界にしては贅沢な野菜とチキンにも合うドレッシングが掛かっていてとても美味。野菜は鮮度が良く、ミニトマトらしき野菜も噛むとプチッと甘酸っぱさのある果肉が舌の上で踊った。尚、チキンは及第点だった。


「隣、失礼するよ」

「ああ。――!?」


 突然声を掛けられて驚くものの、相席する際の声掛けだと気付いてそのまま料理にフォークを伸ばすと、視界に入ったブロンドの髪とダンディな顔を見て俺は吹き出しそうになる。


「……大丈夫か?」


 原因となった本人から心配のお言葉頂きました。


「だ、大丈夫だ」


 俺は苦し気にそう返して、視界に彼の顔を入れないようにサラダに目を向ける。


 なんでぇ??なんで俺の丸テーブルに相席しに来てるのこの人!?

 ほ、他に空いてる席は無かったんか!?


 俺は顔を上げ、目だけで辺りを見回す。

 しかし空いている席は一つもなかった。


 そりゃ唯一空いてる俺の対面側に座るわな!本当にありがとうございました。

 しかも周りの冒険者、若干距離開けてるじゃねえか!どんだけなんだよこのおっさん!!


 俺が内心叫んでいる間にダンディなブロンドおっさんは、ウエーターに声を掛けて「胃に優しいハーブティーを頼む」と注文していた。


 やばい、サラダの味がしない。

 背中を伝う冷や汗も滝のようだ。

 なんでだろう。特にこの世界に来てまだ悪いことをしていないのに、悪いことをしたような気分になってしまうのは。


「「はぁ……」」


 溜息が重なる。

 驚いて少し顔を上げてみれば、ブロンド髪のおっさんと目が合った。


 まさかこの人も溜息を?

 そう思った瞬間、ブロンド髪のおっさんが口を開いた。


「……君も、悩み事か」

「あ、ああ」

「若そうなのに大変だな……。

 俺でよければ、話だけでも聞こうか?」


 思いがけない提案が返ってきた。

 しかし、俺は大して若くもないし、何なら溜息を吐いた原因はあんただ。

 だけど折角の親切。このおっさん自体、根は悪い人ではないようだし違う悩みでも聞いてもらおうか。


 と、なると、悩みというか不安要素は『冒険者講習』の教官……先輩冒険者は誰になるのかだな。


 それを話すと


「そうか、君もだったのか……。

 確か私が受け持つのは二人、という話だったな。よし、掛け合ってみよう」

「……え?」


 ぶつぶつと呟いて届いたハーブティーを飲み干すと、急に立ち上がったおっさんは傍まで来ていたギルド職員に連れられて二階へ上がって行った。


 ……なんだったんだ。マジで。




 その数十分後、番号を呼ばれ受付に行ってみると……


「試験官が見つかりました。それで一つご相談なのですが……。

 『冒険者講習』と同時進行で昇格試験を受けてもらう事ってできますか?」

「はぁ……それは何故?」


 話を聞くと、試験官に該当するD級冒険者が『冒険者講習』が理由でこの支部から出払っていて、居ないと。しかしそれより高ランクの冒険者ならいるので、その人に試験官を担当してもらい、ついでに『冒険者講習』も一緒にという話らしい。


 そして加えて聞けば、俺以外に一人、その両方に参加する冒険者がいるそうだ。


 その話ならば俺的には願ってもない話なんじゃないか?

 冒険者講習と試験を同時に受けれて、しかも通常より高ランクの冒険者。断る理由がない。


「なるほど分かった。それでお願いする」

「ありがとうございます、では部屋まで案内しますので付いてきてください」


 そうして俺は応接室2のドアノブを捻ったのだった。

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