第14話 東の森
俺は森の入り口に立っていた。当然ラピも横にいる。
今から俺は初めて東の森に入る。
入る前に勝てると思えない敵に出会ったらすぐ隠れるか逃げる事をラピに言い含めてある。
回復アイテムの準備も完璧だし、武器はこの魔鉄の剣で十分のはずだ。
「ふぅーー」
俺は息を吐いて覚悟を決めてから森に足を踏み入れた。
……流石に入って直ぐの接敵は無しか。
森独特の木漏れ日を浴び、耳を澄ますと鳥などの生物の鳴き声が怪しく聞こえてくる。ほら『ハッハッ』という息遣いも――
「っ!?」
俺は振り向き様に抜刀し、息遣いの聞こえた方向へ剣を振る。
金属と金属がぶつかったような鋭い高音と鈍い振動が手に伝わる。力と力が競り合う。
そこには毛を逆立てた狼が敵意剥き出しに俺の剣を銜えて止めている姿があった。
「くっ……!」
凄い力だ。下手したら剣ごと持っていかれる。
片手を添えてより力を籠める。そして狼の牙と口内を引き裂くように振るった。
剣が狼の口を引き裂くと同時に、狼は飛び退ける。
そして口から涎と血を滴らせながら荒く呼吸を繰り返し、こちらの様子を見るように睨みつけてきた。
ここの適性レベルは8なんだろ!?話が違うぞ……!
レベル15の俺の筋力でも拮抗するって、アイツの適正レベルはなんだってんだ!
鑑定!!
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【アサシン・フォレストウルフ Lv.17 危険度:E】
詳細:フォレストウルフの特殊進化種。
木々を遮蔽物に忍び、敵の命を狩り取る。
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特殊進化種!?それに危険度E級だと!!?
クッソ、極力奴の死体の損害は少なく留めたかったが、仕方ない。魔法を使うか。
ここで【火魔法】は論外だ。なぜなら辺りの木々に燃え移る可能性があるからである。何より、俺はこの狼の死体の損害を軽度に留めておきたい。だから死体を燃やすであろう【火魔法】は使えない。
レベル0である諸々の魔法は恐らく奴には効かない。
だったらレベル3になった【水魔法】か?
周りにラピの気配はない。
言いつけ通り、上手に隠れるか逃げたようだ。
「だったらァ!思いっきり戦えるなァ!犬っころ!!」
俺は左手をポケットに突っ込みつつジグザグに駆ける。奴は動く気配を見せない。
素早さは奴の方が上だろう。だからこの薙ぎ払いの攻撃も避けられるはずだ。
しかし、避ける先々に既に攻撃を備えていたとしたらどうなるか。
『キャゥン!?』
殺気の込めた一撃を振るうと、案の定横に飛び退け俺の身体に食らいつこうとする奴。そこに俺の魔法が突き刺さった。辺りにも四本の槍が地面にヒビを入れる程の勢いで突き刺さっていた。
深々と水の槍が奴の胴体に突き刺さっている。
それを認識した瞬間、全ての水の槍は形を無くして地面のシミとなった。
今俺が放ったのは【水魔法】レベル3で習得した《
アサシン・フォレストウルフを串刺しにする程の威力だ。これをホーンラビットに向けたら消し飛ぶだろう。
それを念には念を重ねて、予測できる回避方向に予約設置しておいたのだ。
その数は五。消費魔力は計35となったが、ホーンラビットの魔石を使用して魔法を放ったので魔力は問題ない。
「……まだ動けるのか」
奴はよろよろと俺に近付こうとしていた。
奴の気高き本能が、意志が俺に一撃を入れようと足を突き動かしているに違いない。
奴の遅くなってしまった噛み付きを避け、首を斬り落とす。
討伐完了だ。
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【熟練度が一定値に達しました。【剣術】のレベルが上がりました】
【熟練度が一定値に達しました。【水魔法】のレベルが上がりました】
【経験蓄積によりスキル【並列思考】を獲得しました】
おお、流石に格上を斃すと経験値が美味いな。
インベントリには奴の死体が……うん、入ってる。
実はホーンラビットを狩っていて途中で分かったのだが、インベントリに死体を入れた状態で簡単に解体できるようなのだ。
一体途中まで頑張って解体していた俺の苦労はどこへやら。完全に時間ロスだった。
という事で意識一つで解体をし終えた俺は、辺りに視線を向ける。
すると草むらから白い顔が覗き込んでいるのを見つけた。
「ラピ!もう大丈夫だぞ」
その正体はラピだった。
声を掛けると辺りを見回すように首を振ってからこちらに寄ってくる。
俺の足元に体を摺り寄せてくるその姿は愛らしいの一言ですまないほどにキュートだ。
「今日はもう少し探索してから街に戻ろう」
ラピにそう声を掛けて前進する。
ラピが俺の言葉を理解しているか分からないが、愛情の一端として声を掛けたのだ。
俺はその後、森狼を三体討伐して森を後にしたのだった。
「すごいですね……『アサシン・フォレストウルフ』を単独討伐されたのですか……」
目の前の受付嬢が持ち込んだ素材を査定しながら感嘆する。
俺は森から帰った後、そのまま冒険者ギルドに直行し素材を買取してもらっていた。ただし、森狼の牙や暗殺森狼の牙や爪と骨は何かに使えないかと思い、査定には出していない。
ただ討伐証明として、暗殺森狼の牙は受付嬢に見せて鑑定してもらっている。
「フィエルさん、どうやら貴方はE級の昇格試験を受ける資格があるようですが、どうされますか?」
おおやっとだぜ、昇格試験。
でもあれ?俺は今G級だから受けるならF級じゃないか?
そのことを受付嬢に伝えると……
「資格さえされば、飛び級試験を受けることも可能なんですよ。
フィエルさんの場合は、一定数依頼も受けていらっしゃいますし、E級の魔物も倒す実力もあるようですから」
と返された。
そうだな、試験内容は教えてくれるわけもないだろうし、取り敢えず受けてみるか?どうせなら次の街に行く前にE級になっておきたいよな。
「そうか、では――」
そこまで言いかけて辺りの雰囲気がガラリと変わったのを感じ取った。
先程まで騒がしかったギルド内が静まり返ったようだ。
目の前の受付嬢もどこかを見て固まっている。その視線は俺の後ろに向けられていた。
腕元にいるラピも震えているのが伝わる。
振り向くと、そこにはブロンド髪の男が悠然とこちらに向かって歩いてくる姿があった。
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