第13話 ラピ
おはようございます。農民です。
昨日は錬金術に没頭しすぎて、気付いたら夜になってたので寝ました。
丸一日狩りをしていないので、感覚が鈍っている可能性がある。
今日は草原で狩りをしつつ森へ進出予定だ。頃合いを見て帰り、ギルドで要らない素材を売るという一日にする予定だ。
そしてついでに例の『冒険者講習』を申し込むつもりである。
朝から御開帳な東門から出て、草原を駆ける。
ウォーミングアップもせずに陸上選手並みの速度が出るのだから、レベルってやつは厄介だな。
ある程度市壁から離れると俺は辺りを見回して獲物を探す。
やはりか、魔物の数が初日より多い。
それだけこの街にいたプレイヤーも他のエリアやフィールドに行ってしまったという事だろう。
俺はもう既に出遅れている。
それを自覚しながら突進してきたホーンラビットを蹴とばす。
すると面白いように吹き飛んだホーンラビットは這う這うの体で逃げようとしている。
逃すわけない。
俺はサッと近付くとなるべく苦痛を与えないように、背後から頭に向かって剣を突き刺した。これで討伐完了。
さて死体はそのままインベントリに入ったのだが、一旦取り出して初めて【解体】のスキルを使ってみる。
するとこのホーンラビットのどこを解体すればいいのか手に取るように分かった。
……もっとゲームらしく、解体ナイフを突き立てて解体完了とかにならないのかなぁ。と思いながらも難なく解体してインベントリに収納。
グロかったがいい経験になったと自分に言い聞かせ、背の高い雑草を刈る。
このリトル・グラスはG級だが、上位種にグラス・グラスという名の魔物がいるらしい。それはF級だそうだ。
あ、そうそう、
G級……女子供でも難なく倒せるレベル。
F級……一般人が辛うじて倒せるレベル。
E級……完全武装した一般人が辛うじて倒せるレベル。
D級……開拓村や村が滅ぶレベル。
C級……町が半壊、または機能不全に陥るレベル。
B~Z……俺の知識不足。
今の俺ならギリE級……か?
因みに冒険者ランクの判定基準は、その同ランクの魔物とタイマンはって勝てるかどうからしい。
つまりC級冒険者なら、C級の魔物と十分に渡り合えるという事。
因みに冒険者ギルドグルト支部には最高でD級の冒険者が6人存在しているらしい。
そしてグルトの街には衛兵や兵士が常駐している。両方50人ずつは居るそうだ。
その実力はE~D級。隊長クラスや兵団長クラスが恐らくD級なのだと思う。
更に言うと大きな街や都には騎士や聖騎士、近衛、宮廷魔術師などもいる。
俺が悪役を始めるなら、そんな明らかに強そうな者達を超える強さを手に入れていなければいけない。
警戒すべきはプレイヤーもだ。
プレイヤーは生き返る。それ故NPCとは違って命が軽いのだ。
命が軽いとどうなるのか。強さを求めるプレイヤー達は死なない事を良い事に、強大な魔物に特攻をかけるだろう。そして勝利を強引に掴む。するとレベルが上がるだろう?そんな調子でトントン拍子にレベルが上がるのであれば、間違いなく脅威になる。
今はまだ始まったばかりで、掲示板ではD級に達した者が数人しかいないと聞いている。だがそれも直ぐにC級、B級と上り詰めていくだろう。
俺は何が何でも、悪役を執行するために強くならなくてはいけない。
そのためにはまず、焦らずに基礎を固めるべきだと思うのだ。
そのための『冒険者講習』である。
そんな事を考えながら順調にホーンラビットを屠っていく。
「さて、ここらであのアイテムを使ってみるか」
さぁさぁここに取り出したるはなんと!
あのきび団子――擬きである。
このきび団子擬きは昨日薬品系アイテムを作った際に、簡単そうだしどうせなら作ってみようと錬金したものだ。
この世界、ゲーム的な錬金演出がマジで少ない。
それはこの団子も同じで、手作業でねることになった。
しかしこの団子、錬金過程ですり鉢の中で肉をすり潰したからか、回復効果の付いた団子になったのだ。
この一件で錬金術は奥が深いと思い知る事になった。
それでこの団子をどうするのかというと……あっ、丁度いい。
俺の方に向かってホーンラビットが駆けてきている。
それを見て俺はニヤリと笑った。
やることは簡単。
接近したホーンラビットを軽く蹴とばすと、近くに駆け寄り団子を差し出してみるだけだ。
『ギュゥゥ……』
重傷を負ったホーンラビットは威嚇するような鳴き声を上げながら後ずさる。
まあ警戒するよな。自分に危害を加えた相手だ、この団子にも毒が入っているとでも思っているのだろう。
だが、鼻はひくひくと動いている。あと一押しか。
俺は物理的に一押しすることにした。
団子を載せた手をホーンラビットの眼前にぐいっと押し出すと、観念したのか団子を齧った。
すると一瞬固まったホーンラビットだったが、直ぐに目を輝かせて団子に食らいついた。
よし!成功だ!
俺は心の中でガッツポーズしつつ、目の前の「おかわり、くれ!」みたいな目をしているホーンラビットの頭を指先で撫でる。
すると自ら頭を摺り寄せてくるではないか!くっ……かわいいっ!!
「愛い奴じゃのう~」
俺は爺さん言葉を口に出しながら、インベントリから団子を一つ取り出し与えた。
これはあれだ、まだホーンラビットの傷やHPが回復しきっていないと思っての事だ。
決してホーンラビットの可愛さに陥落した訳ではない。
え?ポーションを使えだって?あの、ほら、勿体ないじゃん?……し、仕方なく団子にしただけだ。
こほん。
それでこの団子は見ての通り魔物を餌付けするアイテムだ。
この後東の森にいるという、
それより先にこの子の従魔契約をしてしまわなければ。
従魔契約。
それは魔物と主従の契約を結ぶ行為の事だ。
その主従はどちらが『主』で『従』なのかは両者同意の上で決めることができる。
それは人間が『主』の場合も、魔物が『主』の場合も存在するらしい。
これは『使役』のスキルを持たない者でもできる行為だが、その際には第三者の『使役』持ちが介入する必要があるか、魔道具や魔法陣スクロールが必要になるとの事だ。
これらの情報は掲示板の魔物愛好家スレで書かれていた情報だ。
情報に齟齬がありそうで不安だが、現時点信じるしかない。
俺の住んでいたアパートではペットを飼う事が出来なかった。
実家では母親が犬嫌いで、さらには抜け毛も出るからと飼う事には反対されたのだ。
俺はずっと癒しとなるペットが飼いたかった。
それがまさかこの世界で叶うことになるとは。
「お前、俺の従魔にならないか?」
俺は目の前のホーンラビットに問いかける。
すると首を傾げた後に、二度瞬きした。
それが了承を表していたのか、俺達の足元に魔法陣が広がる。
俺は驚きつつも【使役】スキルのおかげかそれが従魔契約専用の魔法陣と分かり、警戒を解く。ホーンラビットもこれが従魔契約の魔法陣だと分かっているようだ。
魔法陣が広がりきると、靄が俺の右手とホーンラビットの前右足集まった。
それはやがて黄色の糸のようになり、俺達を繋いだ。
瞬間、ホーンラビットとの間に絆が生まれたような気がした。
それを感じた俺は笑みを作り、こちらを真摯に見つめるホーンラビットに言葉を掛けた。
「これからよろしくな、ラピ」
『キュ!』
この日から俺の異世界生活に小さな仲間が加わった。
―――――――――――――――
あとがき
実は従魔契約での黄色の糸は、運命の赤い糸をモデルにしています。
黄色の糸は絆の『糸』なので、儚く脆い物。もちろん切れることもあります。
切れた後は――今はご想像にお任せします。
果たしてフィエルは黄色の糸を引き裂かず、ラピとの良好な関係を保てるのか。
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