第12話 錬金術たーいむ

 宿に戻った俺は追加で一週間分の代金を払い、部屋に戻った。

 備え付けの椅子の上に座り、早速『通常級錬金セットBOX』を開けると念じる。


 開け方は宿の女将さんに錬金術をしてもいいか訊くと同時に教えて貰ったのだ。

 その方法は、とにかく水晶の中の物を取り出すと水晶に触れながら念じるというものだった。


 水晶は光を放ち始めるとそこからは一気に光量が上がり、ギリ目を開けていられるほどの眩しさになった。

 すると手の中にあった水晶の重みと感触が消失。それと同時に光も消えた。


 先程まで明るかったせいか、部屋の中が暗く感じる。

 いやそれより、錬金セットは?どこ??


 俺は机の上に現れると思っていたものだから、慌てて辺りを見回す。


 あった――いや、なんで床?


 錬金セットは何故か床に鎮座していた。

 小型錬金釜にすり鉢と棒、大中小大きさが違う瓶が入った木箱、使い捨てであろう濾過紙百枚以上。混ぜる為の道具……おたまっぽい物も入っている。後はレシピ本なんかも親切に入っていた。しかも手書きだ。

 いや、手書きしか書く方法がないのかもしれんけど。


 とにかく有難い。レシピまで入ってるとか予想外だ。

 後々図書館に行くか掲示板を見るか……そこになければ実験を繰り返してレシピを見つけるつもりだったのだが。

 そこら辺の楽しみを消された気がするが、そもそもの俺の目標は最前線組に追いつき、『史上最悪の悪役』になる事だ。面倒な手順が省かれて良かったと考える。


 さて、レシピも手元にある訳だし、いっちょポーションでも作ってみるか?


 俺は早速レシピ本を開いてみる。題名は『錬金術一般レシピ一覧』。

 1ページ目には何とご丁寧に目次が書いてあった。

 上から順に――


 3~18ページ、『 治癒薬 』錬金方法一覧

 19~34ページ、『 回復薬 』錬金方法一覧

 35~50ページ、『 魔力回復薬 』錬金方法一覧

 51~97ページ、『 各種能力値増強薬 』錬金方法一覧

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 ――と書いてある。


 ちらっと覗いてみた限り、武器や攻撃アイテム、トラップアイテム等の錬金は今の所必要ないから省いたとして、やはり必要なのは『回復薬』や『各種能力値増強薬』か?


 理由として俺にはHPの回復手段が殆どない。

 最悪、採った薬草を直に噛むという方法もあるが、それは極力控えたい。


 なぜなら薬草はクソマズだったからだ。

 最初から持っていたクソマズクッキーを超えるクソマズ。

 もう二度と食べたくないね。……やむを得ない場合だったら仕方ないけど。


 だから俺は『回復薬』を作る。

 露店や冒険者ギルドで見かけたポーションは高かった。初級でさえ一本1,200Rだぞ?ふざけてる。これなら自分で作った方がマシだと思えるわけだ。

 本当にキャラクリの時に【錬金術】取っておいてよかったとつくづく思う。


 次に『各種能力値増強薬』。これは冒険者ギルドでは見かけなかったが、露店では見かけることができた。

 その時値段とその効力に驚いたものだ。


 最下級の物でも3,000Rは超えていたのだ。しかもその最下級でさえ筋力であれば、10は上がる。ハッキリ言って強すぎだ。

 ドーピングで逮捕された選手もびっくりだと思う。


 材料は少ないができるだけ作っておこうと思う。


 他にさらっと除外した『治癒薬』と『魔力回復薬』だがやっぱり、念の為二本ずつ作っておこうと思う。


 よし、作るものは決めたし、どんどん作って行こうか。

 まずは『回復薬』だ。


 ページを詳しく見ていくと、ポーション以外にも色々な種類があった。


「へえ、『回復丸』に錠剤型の回復薬もあるのか」


 俺は独り言をぶつぶつ言いながらページをめくっていく。


 悩んだ末俺はポーションと錠剤型の回復薬を作ることにした。


 まずポーションの材料は『ギレフ草』十枚と綺麗な水100cc、魔力だ。


 ギレフ草を取り出し、すり鉢の中に置いて棒ですり潰していく。いい感じにペースト状になったらそこに水を入れる。尚、俺の場合【水魔法】が使えるので《ウォーター》で少量の水を出しすり鉢の中でかき混ぜていく。


 葉の欠片が薬液の中で漂うようになったら濾過紙を通して小型錬金釜の中にギレフ薬液を入れていく。

 これを後二度繰り返して……。



 目の前に300ccのギレフ薬液が入った小型錬金釜が鎮座しております。

 この錬金釜はどうやら魔道具らしく、魔力を込めるか魔石を填めれば火が灯るそうだ。


 魔石を使うのは何となく勿体ないので、魔力を込めてみる。


「おお?意外と吸うなこれ……」


 俺はステータス画面を見ながらそう独り言ちる。

 結局30ほど魔力を吸った辺りでもう魔道具は吸わなくなった。


 火はもう灯っている。

 後は簡単だ、付属の木の棒を伝って魔力を流し込みつつ混ぜるだけである。


 しかし、魔力は10以上込めてはいけないとレシピ本に書いてある。

 それ以上混ぜて見たらどうなるのだろう。という好奇心を抑えつけながら混ぜる事一分。


 これでもう出来たのだろうと察した。

 恐らく【錬金術】のスキルが働いて分かったのだろう。

 だが俺はこう見えて慎重なのだ。だから鑑定をしておく。


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【初級回復ポーション液 等級:F 品質:B 分類:薬品】

詳細:初級回復ポーションの液体。軽度の傷やHPを回復させる。


製作者:フィエル

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 うん、しっかり回復ポーションだ。


 付属のおたまでポーション液を掬って小瓶の中に入れていく。

 結果、10本のポーションが出来た。

 その出来た物の鑑定結果がこちらだ。


==========

【初級回復ポーション・小 等級:F 品質:B 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級回復ポーションの小瓶型。使うと軽度の傷を回復させ、HPを100回復することができる。飲んでも掛けても効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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「おおおっ……」


 感動だ。ポーションはVRではないMMOでは作ったことがあるが、やはり立体的なVRの方が感動も一入ひとしおだ。




 俺はこの後も途中買い出しにも行きはしたが、没頭して錬金術を続けた。


 どうやら鑑定の結果に出ている、等級というのはそのアイテムのレア度……というのは流石に分かっていたが、そのレア度はそのアイテムの作成難易度に直結するらしい。


 おかげで色々なアイテムを作ってみて分かったが、等級の高い物ほど品質が落ちたりする。

 だが今の所品質はC以上を確実に作れている。それはこの錬金セットのおかげなのか、スキルのおかげ……つまり実力なのかは定かではない。

 それなので品質が低いとどうなるのかは未だ分からない。レシピ本にも載っていなかった。

 

 因みに結果、出来上がった薬品系アイテムは以下の通り。


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【初級回復ポーション・中 等級:F 品質:B 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級回復ポーションの中瓶型。使うと軽度の傷を回復させ、HPを300回復することができる。飲んでも掛けても効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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【初級筋力増強ポーション・小 等級:E 品質:C 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級筋力増強ポーションの小瓶型。使うと筋力を一時的に10増強させる。

飲んでも掛けても効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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【初級回復錠 等級:F 品質:C 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級回復錠剤。使うと軽度の傷を回復させ、HPを50回復させる。

飲み込んでも噛んでも効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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【初級治癒ポーション・小 等級:E 品質:B 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級治癒ポーションの小瓶型。使うと軽度の傷と病、異常状態を治す。

飲んでも掛けても効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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【初級魔力回復ポーション・小 等級:F 品質:B 分類:薬品(ポーション)】

詳細:初級魔力回復ポーションの小瓶型。使うと魔力を100回復させる。

飲んでも掛けても効果が出る優れもの。


製作者:フィエル

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 作った個数は上から順に、11、3、10、45、2、2である。


 数が多い初級回復錠は今の俺のHPが低いから使うのには最適というのと、一番コスパがいいからだ。

 薬草一枚で一個作れる割に回復量が多いのと、噛んだ時の味がまだマシという点。


 ――ミント味だった。

 そう、あのクソマズクッキーよりもマシなのだ。

 でもそのクソマズクッキーよりも不味かった薬草から、こんな爽やかな味が生まれるとは思ってもいなかったよ。


 クソマズクッキーを食べるか歯磨き粉を食うかだったら、俺は迷いなく歯磨き粉を選ぶね。




 ……因みに錬金術はレベル4になりました。まる。

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