第11話 二日目の午前

 おはようございます。農民です。

 農民の朝はとても早くから始まる――でもなく、普通にお寝坊してから始まりました。まる。


 ぐっすり八時間睡眠ですね。はい。

 今の時刻は13時27分。昼飯の時間過ぎてらぁ。


 てか、一泊のみの素泊まりだからもう既に叩き起こされててもおかしくないと思うのだが……。さっさと一階に降りて謝ろう。そして追加料金払おう。


 俺はベットから降りると、備え付けの洗面所に行き顔を洗ってから部屋を出る。

 一階に降りると、そこは食堂だったようでざわざわとした話し声と、美味しそうな料理の香りがしてきた。


 昨日夜番の従業員に声を掛けた時、食堂のランプは落とされていて見えなかったのもあるが、やはり俺が眠かったのでしっかり認識してなかった可能性がある。


 そう思いながら俺は入り口前のカウンターに向かう。

 着くとそこには従業員が居なかったが、手持ちのベルがあったのでそれを鳴らす。


 なんともまあ中世な感じだな。お貴族様が鳴らしてそうでなんかな。

 日本ではひと昔前に卓上ベルなるものがあったらしいが、それのもっと退化した物っぽいという事は分かる。


 やがて厨房から姿を現した女将さんらしき人物に俺は少々頭を下げつつ、750Rと鍵を渡す。


「申し訳ない、218号室の者だ。

 寝すぎてしまった。超過分のお代はこれで合ってるか?」

「ああ、隈の出来た優男ってのはアンタだね?

 超過分の料金は合ってるよ。ありがとさん。食事はしていくかい?」


 優男て、俺34歳独身男だが?それどころか悪役志望だが?

 てか悪役志望がこれしきの事で頭を下げてどうするんだ。


 そう思いつつも平静を装って受け答えをする。


「生憎お金がなくてね、またの機会にお願いするよ」

「わかったわ」


 女将さんはそう返すと忙しなく厨房に戻っていった。




 そう言えば宿では特に怒られなかったな。

 こういう事が多いのかな?まあこの街冒険者が多そうだもんな、そりゃ延滞してるやつもいるか。


 そう考えながら食パンでサンドした森狼の肉を頬張る。

 なけなしのお金を使って屋台で買ったものだ。食パンは昨日買ったものである。


 森狼の肉は獣臭いな。だが噛み応えがあって、噛むほど味が染み出てくる。

 これはこれで美味い。


 あ、そう言えば寝る前にステータスを確認してなかったな。

 今のうちに確認しておこう。


==========

PN:フィエル  職業:農民

Lv.15

体力:41/41

魔力:46/46


筋力:52

魔攻:49

物防:34

魔防:32

素早さ:55

知力:28

精神力:33

器用さ:32

運:31


SP:33


SKILL  【剣術/Lv.1】【鎌術/Lv.4】【火魔法/Lv.1】【風魔法/Lv.0】【水魔法/Lv.1】【土魔法/Lv.0】【闇魔法/Lv.0】【錬金術/Lv.0】【召喚術/Lv.0】【暗殺術/Lv.6】【使役/Lv.0】【見切り/Lv.1】【駆け足/Lv.2】【忍び足/Lv.7】【魔力感知/Lv.4】【魔力操作/Lv.14】〖植物採取/Lv.4〗〖農耕/Lv.1〗〖品種改良/Lv.1〗〖植物知識/Lv.3〗


所持金:40R

==========


 中々に強くなったんじゃないか俺。


 それにしてもだ――金、金がなさすぎる。

 早急に金策をしなければ、今晩泊まるところがないぞ。

 それはまずい、非常にマズい。


 寝れないとか地獄すぎる。

 社畜時代を味わってきた俺としては、寝れない事へのトラウマが強い。

 たとえこの素晴らしき世界に没頭していたとしても、寝る事だけは欠かせない。なぜならここはゲームの世界とはいえ、次の日のパフォーマンスに関わってくるからだ。


 取り敢えずは稼ぐためにもマーヤさんの店に急ごう。

 錬金術セットさえ手に入れれば何とかなる算段は付いている。


 俺は100%の満腹度ゲージを見て口角を少し上げつつ、駆け足でマーヤさんの店まで急いだ。




「おや、何か聞きたいことでもあったかね?」


 相変わらず眼光の鋭い御仁だこと。


「いや、依頼の骸骨兵士と骸骨・ホーンラビットの骨一体分、持ってきたぞ」


 マーヤさんは少し目を見開くと「ついてきな」と言って、店の奥へ進んでいく。

 連れてこられたのは例の台の前だった。


「ここに載せな」


 言われるがまま、俺はその上に二体の死体を出す。

 振り返って声を掛けるとマーヤさんはさっき以上に目を見開いて、固まっていた。


 え、何?どしたの。

 あれか、俺が意外にも早く持ってきたから驚いたとかか?

 俺は少し期待気味に話しかける。


「どうしたんだ?」


 その言葉を皮切りに残像でも見えそうな速度でマーヤさんは、骸骨・ホーンラビットの方の骨を手に取った。


「本物じゃ……。

 よく取って来れたのう。これは完全に予想外じゃ」


 俺は胸を張ってドヤりたい気持ちを抑えに抑えて言葉を返す。


「ああ、ちゃんと注文通りだろう?」

「ん……?注文通り?

 お主……もしや気付かずに持ってきたのか?この『骸骨スケルトン・アルミラージ』を」

「は?」


 骸骨・アルミラージ……?いや、そんなわけないだろ。

 あんなに接近して気付かないとか、根拠はないが絶対骸骨・ホーンラビットだと思う。


 ……よく考えたら鑑定もしてなかったな。


==========

【骸骨・アルミラージの骨 等級:E 品質:D 分類:素材】

詳細:骸骨・アルミラージの骨。その骨格はホーンラビットとよく似ており、骨だけをみると見分けがつかない場合が多い。骨単体での見分け方は無いに等しいが、死体全体であると見分け方は一つ、角の根元が黒くなっているかどうかである。

==========


 マジで、アルミラージの骨だ。

 角の根元が黒くなっているかどうかぁ?わかるか!!

 依頼失敗じゃねえかこんチクショウ!


「すまない、間違えたようだ。

 明日にでも骸骨・ホーンラビットを――」

「いやこれでいいさね。

 むしろこれの方が有難い」

「え?」


 いやだって……え?

 骸骨・ホーンラビットよりこっちの方がいいの?いや、彼女にこれらを使ってどんな目的があるのか知らないが……ああ、なるほど。

 アルミラージとホーンラビットじゃ殆ど骨格が同じだから、ほとんど変わりはないのか。知らんけど。


「しかし、これじゃ通常級錬金セットでは釣り合わなくなったねぇ……」


 マジかよ。通常級錬金セットで釣り合わないって……そんなに珍しいのかアルミラージ。

 丁度いいや、釣り合わなくなった分はお金にしてもらおう。


 そう伝えると


「そうさね、お主がそれでいいならそうしよう」


 と返答が返ってきた。何故か感心した顔だ。


 今のどこに感心する要素があったのか不思議で仕方ないが、これで少しでも友好度が上がっていればヨシだ。


「ほれ、これじゃ」


 いつの間にか出し終えていたマーヤさんが台の方を視線で指し示す。

 そこには露店で見た物より大きめの水晶と巾着袋が置いてあった。


【クエストクリア!】

【依頼主の期待を超える速さで依頼を達成しました。追加報酬が贈られます】

【依頼主の期待を超える物を納品しました。追加報酬が贈られます】


 一気に目の前に三つのウィンドウが表示される。

 VRMMOで初めてのクエストクリアだ。少し感動する。

 達成感半端ねぇ!


「結構早く納品してくれたからね。おまけしといたよ」

「有難い」


 俺は口角が上がりそうなのを抑えつつ水晶と巾着袋をインベントリに入れる。


「そうじゃ、『骸骨・アルミラージ』の魔石もっておらんか?あったら買い取るぞ」


 俺がまた怒られる前に帰ろうと身体を方向転換させたときにそう訊いてきた。


「……それは相場より高く買い取ってくれるのか?」


 俺は今は特に金策中なので、がめついゾ?


「そうさねぇ……二割増しくらいでどうじゃ?」

「売ります」




 いや~儲かった儲かった。一気にお金持ちだね!

 どうやらあの巾着袋の中身は2万Rだったらしく、今の所持金は約8万Rである。


 え?6万はどうしたって?

 そ・れ・は、骸骨・アルミラージの魔石の代金である!

 まさかのまさかだよ。あんなに高く買い取って貰えるとは……。


 マーヤさんは闇魔石がどうとか言っていたが俺にはテンプレ知識しかないので、魔石に関しても図書館などで調べる必要がありそうだ。


 それにしても向こう一週間ほどは金策しなくても大丈夫そう。

 いい金になって有難い。

 ありがとう、骸骨・アルミラージ。君の事は忘れない。


 俺はルンルン気分で素泊まりした宿まで歩く。

 スキップでもしたい気分だ。いい年した男だからやらないけど。

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