第6話 依頼を受ける。パンを買う
受付を離れた後、俺は掲示板に向かった。
人は先程見た時より引いてきている。
NPCっぽい人間が主に掲示板を離れたようだ。
恐らくプレイヤー達がまだ序盤の為レベルが低い。それ故NPCの方が押しのける力が強いのだろう。それもあって掲示板からお目当ての依頼を攫うなどして、離れたのだと思う。
俺は人だかりの中を搔い潜るようにして、掲示板の目の前に出る。
一応俺でもできそうな依頼がないかと確認しに来たのだ。
おお……凄い依頼の数だな。
掲示板の依頼紙を眺めていると分かったことがあった。
それは依頼紙の左下に依頼が出された日にちが書かれている事だ。
この日にちが結構前の物は不人気依頼という事である。
だが、俺はその不人気依頼の中で気になるものを見つけた。
錬金術師からの依頼である。
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≪『
等級:G
詳細:グルリト草原の夜に出没する、なるべく高レベル個体のスケルトンの骨を『マーヤのとんがり帽子』に届けてほしい。落とした武器があるとなおよし。
報酬:600R(報酬額は相談可能)
依頼主:錬金術師マーヤ
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結構お誂え向きじゃないか?この依頼。
報酬額は少ないが、相談可能との事だし……それに何より依頼者が錬金術師の店主っぽい事に意味がある。
視点右上の地図にはどう探してみても、錬金術師の店は見当たらなかった。それも『マーヤのとんがり帽子』なんて店の表示はない。
なのでこの依頼はキークエストだと思われるのだ。
つまりこのクエストを受ければ、恐らく錬金術師の店への道が示されると思う。
それにしても依頼内容は簡単なのに全然受けられない理由って、多分報酬額だよなぁ……。スケルトンは恐らく草原では一番強い魔物だ。それを一体丸ごと600Rで譲ってくれは、な。下手したらギルドで売った方が高値がつくんじゃないか?
俺はその依頼紙を千切って受付へ足を運ぶ。
そして俺の番が来た。
またしても先程俺の登録をしてくれた受付係だ。
カードと千切り剥がしてきた依頼紙を見せる。
俺の前に並ぶ冒険者の番を観察していたらどうやら依頼達成報告の時も、依頼を受ける時もカードを出している様だったのだ。
なので俺も受付係に言わせる前にカードを出した。
「こちらを受けられるのですね、承りました。
……依頼主は少し気難しい方のなので、お気を付けくださいね?」
そう言いながら手際よく依頼紙を魔道具に読み込ませ、判子を押す受付係。
そして俺の冒険者カードを手渡される。
「こちら受理されましたので、
依頼主様に納品される際はそのカードを見せてくださいね。
ああ、フィエルさんは初めてでしたよね?
そのカードには『この依頼を受けた』という情報が記録されていて、依頼主様側への証拠になるようになっています。なので必ず見せてください
今回の場合は、報酬は依頼主様から直接渡されることとなっておりますので、依頼達成報告はしなくて大丈夫です」
その説明に納得し頷く。
すると微笑んだ受付係は「お気をつけて、頑張ってくださいね」と言い、俺を送り出してくれた。
右上の地図に現れたピンとウィンドウを見て内心ほくそ笑みつつ、俺は冒険者ギルドを後にした。
さて、早速依頼の場所に行きたいところだが、もうそろそろ満腹度がやばい。
流石に食べなければ継続ダメージを食らってしまう。
冒険者ギルド内の酒場で何かしら食べておけばよかったと後悔するが、よくよく考えてみれば酒場の食べ物っておつまみ以外高いイメージがある。
果たして俺の持ち金で買えるのかが問題であった。
考えたのち、俺は冒険者ギルド近くにあるパン屋にでも寄る事にした。
歩いてパン屋の前に来る。
ガラス窓から店内の色んな種類のパンが見える。世界背景フル無視のレパートリーだ。
冒険者ギルドに入る前、前を通りかかった時に良い匂いがしたんだな、これが。
果たしてここも俺が買える値段のパンがあるのかどうかって言う懸念点があるが、根拠はないが流石にあるだろう。
引き戸になっている扉を開け、店内に入る。
「いらっしゃいませー!」
恰幅の良いおばさんがカウンターからお決まりの挨拶。
店内はお客さんが一人もいなかった。
俺はトレーとトングを持ち、少し狭めの店内のパンを物色していく。
おや?意外と安い?
値札を見る限り、お高い物でも1,000Rは超えていない。
それどころか、一番安い物は黒パンで20R。めちゃ安すぎる。鑑定。
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【黒パン 等級:G 品質:C 分類:食料】
詳細:黒くて硬いパン。
食べれない事は無いが、水などに浸して食べるとまともに味わえる。
満腹度を30%回復。
製作者:トイセル
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ああ、なるほど。滅茶苦茶硬いのか。
だが水に浸せば満腹度回復できるのであれば、全然良き。
というか、定番のクリームパンとか小豆が入ったパンも無いな。
何故だ?……ああ、時代設定は中世っぽいから甘味類は高価なのかな?
取り敢えず、指先から手首ほどの大きさの黒パンをトレーに載せれるだけ載せてカウンターに置く。
そして恰幅の良いおばさんに一言「まだ持ってくるから待ってくれ」と言ってトレーを取りに行く。
後は食パンっぽいパンを三斤と少し贅沢な謎肉サンドを七個トレーに載せてカウンターに持っていく。
「お会計かい?」
「ああ、頼む」
頷いて返すと、手際よくパンを数えながら袋の中に入れていくおばさん。
さて一体全体全部でいくらになったのだろう。当面必要な分だけ買ったつもりだが、ちゃんと計算していなかったからな。3,000Rは超えないでくれよ。
「合計で2,460Rだよ。いっぱい買ってくれたからパンの耳、おまけね」
おおおおぉ……よかった。3,000R超えてなかった。
しかもパンの耳おまけしてくれるってマ?おばさん最高か。
俺は内心、安心したり喜んだり忙しなくしながらインベントリに手を突っ込んで、硬貨を取り出していく。
意識すればその値段の分の硬貨が出てくるから便利でいいね。
「丁度ね。まいどさん」
その言葉を聞いてから俺はパン入り紙袋を取り、インベントリに突っ込んでから店を後にする。
そう言えば、冒険者ギルドで受け取った硬貨入り麻袋は、インベントリにアイテム表示されてないな。
インベントリに仕舞われた硬貨などは表示的には消えて、ステータスの所持金欄表示のみなのかもしれない。
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PN:フィエル 職業:農民
Lv.12
体力:34/37
魔力:39/41
筋力:49
魔攻:45
物防:31
魔防:29
素早さ:51
知力:25
精神力:30
器用さ:28
運:31
SP:24
SKILL 【剣術/Lv.1】【鎌術/Lv.4】【火魔法/Lv.0】【風魔法/Lv.0】【水魔法/Lv.1】【土魔法/Lv.0】【闇魔法/Lv.0】【錬金術/Lv.0】【召喚術/Lv.0】【暗殺術/Lv.5】【使役/Lv.0】【見切り/Lv.1】【駆け足/Lv.1】【忍び足/Lv.7】〖植物採取/Lv.4〗〖農耕/Lv.1〗〖品種改良/Lv.1〗〖植物知識/Lv.3〗
所持金:1,940R
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少し現時点では贅沢な気がするけど、インベントリから謎肉サンドを取り出して食べる。
うまうま。
数時間ぶりにクソマズクッキー以外の物を食べたからか、ソースの掛かっていない肉サンドでもとても美味しく感じる。
焼きたてではなかったが、ほんのり温かくて生地はふわふわ、謎肉はしっかり肉汁が出てくる。
「うまー」
そんな事を思わず呟くくらいには美味い。
あ、そう言えばこのサンド鑑定してなかったな。
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【ホーンラビットの肉サンド 等級:F 品質:C 分類:食料】
詳細:ホーンラビットの肉が使われたサンドイッチ。
まだほんのり温かく、噛むと肉汁が程よく出るだろう。
満腹度52%回復。
付与:体力+2 筋力+1 二時間ほど満腹度が減りにくくなる。
製作者:トイセル
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なるほど、これは兎肉だったのか。ってバフ……だと!?
え、今これ食べるの結構もったいなかった感じか。コレ。
でもまあ、食ってしまったもんは仕方ない。
さて、満腹度も回復したし錬金術師の店、向かいますかね。
錬金術師の店への道すがら、露店を冷やかしながら俺は歩く。
冷やかすと言っても、殆どの露店は営業仕舞いしているみたいだけど。
そんな露店の中、俺が今一番欲しい物を見つけた。
それは羽毛袋の上に鎮座している水晶だ。玉ではなく、荒く削られた跡が目立つ鉱石型である。しかも長さは10センチに満たない。
どうやらこれが『初級錬金セットBOX』らしい。
確かにインベントリの『初級農具セットBOX』は水晶のアイコンだったけど、マジで水晶だとは……。
露店の店主である、初老の男性にこれについて話を聞いてみるとこのような返答が返ってきた。
この水晶は元々は鉱山で削りだされた岩石だったと。それに無属性魔法の《
どういう魔導原理か店主も分かっていないが、その魔法を込めると水晶化するらしい。うん、流石ファンタジーだな。
で、その出来上がった水晶に物を入れて収納しておけるとの事。
しかし、容量は水晶の大きさに応じて重量が決まっている上、出す時は全て入れた物を出すことになり、出し終えると水晶は砕け散る。
そう考えるとプレイヤーのインベントリはチートだな。
そしてこの『初級錬金セットBOX』の値段は5,000R。
ですよねぇ。
そんな使い捨ての価値しかなくても、魔法付与されている物は高いって相場が決まってますもんね。しかも、錬金セットが入ってるわけでしょう?そりゃ高い。
因みに、未収納の水晶――正式名称は『スペース・クリスタル』というらしい――は拳二個分ほどの大きさで10,000Rするらしい。
だったらこの『初級錬金セットBOX』はもっと高くていいと思う。
そう言うと店主は
「ほほ、私は無属性魔法の使い手だからの。
その辺の大き目の石を拾って魔法を掛ければ、原価なしのを作れるからなぁ。
……お買い得だぞ?」
なるほどな。
しかし生憎、俺は今お金を持っていない。それも持ち金全部出しても『初級錬金セットBOX』の販売価格の半分も行かない。
それを伝えると
「そうだな……。物々交換でもええぞや?」
店主は俺のネックレスに視線を向けながら、そう言ってくる。
しかしこれは重要な効果があるからな。流石に売り渡せない。
「生憎、物々交換できる品は持ってないんだ。
またお金が出来たら買いに来るよ」
「そうか、分かったぞい」
店主はそう言ってひらひらと手を振った。
もう行けという事だろう。仕方ない。
俺はぞんざいにされたことを少し不快に思いながら、錬金術師の店に向かった。
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