第5話 薬草採取依頼

 街に戻ってきた俺は人の往来が激しい大通りを進み冒険者ギルドに辿り着いていた。


 視点右上に移っている小ウィンドウの地図のおかげで迷わず来れた。

 それは良いのだが……なんだこの混雑は!?


 冒険者ギルド内は人でごった返していた。

 掲示板に群がる人々。その中には明らかに初日にしては装備が整い過ぎている人もいる。それは流石に恐らくNPCだと思うが……それにしても人が多い。

 加えて凄い酒と料理の匂いがするな。


 そんな事を思っていると自分にだけ聞こえる腹の音が鳴った。

 すげえな、ここまで再現されてるのか。


 冒険者ギルド内はどうやら酒場と併設されているようで、飲めや騒げやのNPCが多く見受けられる。

 受付は……割と空いているな。並んではいるけども。


 俺はそんなギルド内を見回し、さっさと誰かに絡まれる前に受付の列の最後尾に並んでしまう。


 あーほら、こういうのって初めてギルドに来たひよっこが先輩冒険者に絡まれるってテンプレあるじゃん?それを警戒しての事だよ。

 いや、ネット小説の見すぎか……。


 一人で少しテンプレ脳に支配されていることに気付き、ショックを受ける俺。

 そうしているうちに俺の番が回ってきた。


 優男っぽい受付係NPCが俺に微笑みかけてくる。


「ようこそ、外なる旅人さん。

 どうやら冒険者登録をされていないご様子なので、まず登録されることをオススメします。旅人さん方登録料は発生しませんのでご安心ください」


 穏和な笑みでそういう受付係の男。


 というか、気になる言葉があったぞ?『旅人さん方には登録料は発生しません』って、NPCには登録料は発生しているって事だよな?それってNPCからの反発って起きなかったのだろうか……。流石に考えすぎか。


 まあ、取り敢えず有難く登録させてもらおう。


「分かった、では登録をお願いするぞ」

「はい、ではこちらのカードに私が合図をするまで魔力を流してください」

「おう」


 カウンターの上に差し出された金属製のカードに目を向ける。

 何も書かれていない、ただの金属製のカードだ。これに魔力を流すとどうなるのだろうか。

 こういう詳細な所まではβ板には書いてなかったんだよな。まあ、そのお陰でこういう要素を楽しめるってのもあるが。


 カードを手に持ち、身体に流れる『何か』を魔力だとアタリを付けてそれを指先からカードに流し込むように意識する。


 すると忽ちカードに文字が刻み込まれ始めた。


 おおう、この『何か』が魔力で合っていたようだ。しかし、どういう原理だ?

 まあ、こういうのは考えない方がいいなファンタジーだからと納得しておこう。

 しかし随分と興奮させてくれる演出じゃないか。


 魔力を流し込むのを止めずに俺は食い入るようにカードを見つめる。


「はい、もういいですよ」


 その言葉で俺は魔力を流すのを止める。

 すると受付係の男は俺の手からスッとカードを取って、魔道具らしきものに通していた。


「おお、フィエルさん。貴方はもう12レベルなのですか。優秀ですね」

「!?……ど、どうも」


 素で返事を返してしまったじゃないか。


 なんでそれを……と言葉に出す前に、俺は察した。

 あの魔力を流したカードを魔道具に通すことによって、俺のステータスを見ているのではないかと。

 いや、それ以外の可能性もあるな。例えば、この受付係が鑑定よりも高性能なスキルを持っているとか。


 俺が頭の中でそう考えていると受付係が「はい、登録できましたよ」と声を掛けてくる。

 そして手渡されたのは『G』の文字が刻印された、先程のカードだった。


 先程俺の魔力によって刻み込まれた文字は健在である。


「フィエルさんは駆け出しのG級から初めていただきます。

 階級はG~Zの十一階級ありまして、一定数依頼を受けて頂き昇格試験に合格いたしましたら次のランクアップ手続きができます。

 因みにそちらのカード、紛失されますと再発行に二万リペイル必要になりますのでご注意くださいね」


 いくら何でも階級多すぎじゃないか?

 それにしても、カードは再発行にお金がかかるのか……気を付けないとな。


「分かった。依頼はあの掲示板から紙を持ってこればいいのか?」

「ええ、ですが常備依頼の場合は受付口頭でのみお受けいただけます」

「常備依頼?」

「はい、ギルドや大きな商会が継続的に受け付けている依頼の事です。

 例えば薬草や回復・治癒ポーションを納める常備依頼などもありますよ」


 おお、丁度結構薬草持ってるし依頼できちゃうんじゃないか?


「見せてもらう事ってできるか?」

「構いませんよ」


 受付係はそう頷くと、目の前に何枚か紙を並べ始める。


 ほう、薬草採取の依頼に街道の整備という名のゴブリン退治依頼なんかもあるな。

 だが今受けれるのは、薬草採取の依頼だけのようだ。


==========

≪ギレフ草を十枚納品してください≫

等級:G

詳細:ギレフ草を十枚納品。品質の良し悪しによって依頼料は左右される。

報酬:100R~

依頼主:生産ギルド(グルト支部)

==========

==========

≪ギレフ草を十枚納品してください≫

等級:G

詳細:品質D以上のギレフ草を十枚納品。

報酬:550R

依頼主:カルノーエ商会

==========


 報酬は安いが、仕方ない。百以上の端数は納品してしまおう。


 今あるギレフ草の枚数は144枚。

 目の前に提示された依頼は何度でも受けることが可能との事だ。

 生産ギルドの依頼の報酬は品質に大きく左右されるようである。

 カルノーエ商会の依頼は品質が一定以上と決まっており、その分提示されている報酬が多い。


 品質D以上で報酬が550Rなのであれば、生産ギルドも品質Dであれば同じ額のはずだ。

 そうしないと、生産ギルド側には品質が粗悪な物しか入って来なくなる。


 そう考えると、俺の持っているギレフ草は品質C以上がザラなので生産ギルドの方が高く報酬が払われるはずだ。


 俺は生産ギルドの依頼紙を指さしながら「これを受けさせてもらう」と言い、インベントリを開く。


 そこにはインベントリの枠にギレフ草は三種類に分けられていた。

 これは品質ごとに、C、B、Aと分けられているからだ。


 流石に品質B以上の物を使うのはもったいなく感じるので、出さずにC級の40枚だけ出していく。


「一先ずはこれだけだ」

「分かりました、お預かりいたしますね」


 そう言ってギレフ草を手に取り、モノクルで覗き込むようにして一枚一枚見ていく受付係。


 鑑定でもしているのだろうか?緊張の瞬間である。


 そのまま一枚一枚、覗き見ていく受付係。

 俺は後ろからの「早く用事済ませろや」的な圧をガン無視する。


「鑑定、完了いたしました。

 こちら全て品質Cなので、十枚につき850Rで合計3,400Rになります」


 そう言い硬貨が入っているであろう、麻袋を渡してくる受付係。

 俺は内心、品質一段上がっただけなのに報酬が跳ね上がったことに大きく驚いていた。


 その感情は隠しつつ、俺はインベントリに麻袋を入れて「ありがとう」と言い受付を後にした。



 ……なんで感情を隠す必要があったかって?ほら、悪役ってポーカーフェイスが基本じゃん?だからだよ。

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