第12話 南へ
マスタード大尉の元を離れ、スノゥと共に南へ向かった。
いくつもの馬車を乗り継ぎ、ようやく到着したのがマルー洋に面した町、グラナド。
崖が孤を描いて長く伸び、眼下には白浜がどこまでも続いていく。
太陽が近い。
カラッとした空気に、潮風が混じる。海の匂いだ。
「スノゥ、この辺りに錬金術の店を開こうと思う」
スノゥが周りを見渡す。
「崖しかないけど」
だから良いんだよ。
そう言って地面に手をついた。
ゴゴゴゴゴ
崖の上に建物の基礎を作った。
贅沢に硬質な一枚岩だ。
基礎には丁寧に基礎杭を入れる。海沿いの崖だが、この家はどんな地震にも耐えられるようにした。
建物はまだない。
海辺でアイデアが湧いたら、つくろう。
崖から15m下の砂浜までの階段をつくる。
「スノゥ、降りよう」
プライベートビーチだ。
岩のアーチが目の前に広がる。
手前には白い砂浜。
穏やかな波が、浜に押し寄せる。
これだ。これがやりたかった。
紅の戦闘機を乗りこなす豚さんの映画を見て、ずっと憧れていたのだ。
岩陰に大理石で、バーカウンターと椅子をつくる。いくつかグラスを作り、魔法で水を注いだ。
「あちらのお客様からです」
「どちら...」
スノゥはキョトンとした顔をしながら、水をごくごく飲む。
椅子に腰掛け、海を眺める。
ザーン、ザーンと柔らかい波が押し寄せる音に耳を傾けた。
ようやく、ひと段落だな。
「ここは、社員専用ビーチだ。スノゥはいつでもここでのんびりできるぞ」
返事はないが、スノゥの目尻は下がっている。
海を見る。
事務所件自宅は、やはり木製かなあ。でも、お金が足りないかなあ。
しばらくは岩で我慢するか。
どんなものにしよう。
見た目から土木!って感じのがいい。
そうだ。箱型の低層階マンションっぽく作ろう。
スノゥにも部屋を提供できるし、他の人から家賃収入も見込める。
優秀な人材には社宅として提供もできる。
よしよし、と砂浜に絵を書く。
真四角がいい。立方体だ。
とりあえず一辺15Mで作って、必要なら増築すれば良い。
部屋の作りはどうしようか。
「スノゥ、部屋の広さほどのくらい欲しい?」
「んー、二部屋?よくわかんない」
「よし。2LDKにしよう」
近くの街から、大量の錆びた剣や斧を買い集めた。
「スノゥ、これ溶かせる?」
「やってみる」
スノゥが手をかざし、剣や斧に火が纏わりつく。
「溶けない、、、ちょっと待って」
スノゥは気合いを入れ直すと、炎魔が現れた。炎魔は鉄を見ると、こちらを向いて、少し下がるよう手で指示する。
「スノゥ、無理はしなくていいからな」
「ん。でも、やってみたい」
炎魔の周りに彩豊かな炎が出る。
炎魔は、白みがかった黄色の炎を食べると、身体が赤から白に変わった。
ゴー、と燃える音が激しくなり、熱風が頬を撫でる。
思わず、後ろに下がる。
炎魔が鉄に触れると、みるみるうちにドロドロに溶けていった。
「ありがと。またね」
炎魔は頷くと、周りの炎をバリバリ食べて、消えていった。
基礎の前に立つ。
「水よし!スノゥ背中さすり、頼むぞ」
「…タックこそ、無理しないで…」
カタストロフ!
目の前の溶けた鉄を含みながら、コンクリートを練り上げていく。
鉄は棒状に。
かぶりも、確保する。
ゴゴゴゴゴゴ
轟音が止んだ。
「出来た!オエー、ッ、ゲーっ、オエー」
スノゥが水を渡しながら背中をさすってくれる。
「ハァハァ、出来た。刮目せよ!この異文明丸出しの建物を!この、一階が会社、二階から五階が社宅件貸家だ」
「なんか、すごい」
スノゥも建物の大きさに驚いている。
表面に黒曜石をあしらい、真っ黒にした。
鏡のように反射するその姿は、新宿の高層ビルを想起させる。
そして、一階には、オフィスとして利用できるように、机も作った。
椅子は後で買おう。
「名前。どうするの?」
「名前?」
「建物の名前」
名前かぁ。コーポ タック とか、レジデンシャル タック とかかなあ。
建物にキラキラと太陽が反射する。
ああ、あれにしよう。
太陽の海岸。
「コスタ・デル・ソル」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます